2021年05月21日 19:11 弁護士ドットコム
神奈川県逗子市でマンション敷地内の斜面が崩れ、下の市道を歩いていた高校3年の女子生徒(当時18歳)が死亡した事故で、責任の所在などを問う訴訟の第1回口頭弁論が5月21日、横浜地裁で開かれた(嶋末和秀裁判長)。
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提訴しているのは、亡くなった生徒の遺族。マンションを区分所有する住人と管理組合、管理の委託を受けた管理会社、管理人の4者を相手どり、適切な対策をとらなかったなどと指摘、損害賠償を求めている。被告側はいずれも争う構えを示した。
口頭弁論後に横浜市内で会見した生徒の父親(55歳)は、「娘はもう2度と帰ってきません。だから真実が知りたいです」と語った。また、父親の代理人をつとめる南竹要弁護士は、「裁判によって、事故の責任の所在を明らかにしたい」と話している。
この事故は、2020年2月に起きた。訴状によると、亡くなった生徒は事故の日の朝、友人とイベントに出かけるため、午前7時40分すぎに家を出た。その直後、市道を歩いていたところ、マンションの敷地の斜面が崩れ、約66トンもの土砂に巻き込まれて亡くなった。
この敷地は、1968年ごろに造成され、2003年に現在のマンションが建設された。当時の建設工事前の地質調査では、敷地斜面に崩落が数カ所あり、「風化による強度が低下」していると指摘。落石防護工などの対策が必要とされていた。事故後に行われた国による現地調査でも、「崩落は風化を原因としている」と結論づけている。
また、訴状ではマンションの管理人が崩落事故の前日、敷地を見回った際に、斜面の上部で長さ4m、幅1cmの亀裂を発見、管理会社に報告していたことも明らかになっている。亀裂があったにもかかわらず、何も措置をとっていなかったという。
遺族側は、崩落は「大雨や地震などではなく、平穏な日常に、突然崩落し、市民が生活のために用いている市道を歩いていたにすぎない生徒の命を奪った」と主張。区分所有者に対して、「造成地は土地工作物にあたる」として、その設置または保存の瑕疵(かし)があったとしている。
また、管理人に対しては安全な対策を怠った責任、管理会社に対しては亀裂が入っているという報告を受けたにもかかわらず、安全対策を怠ったという不法行為や、管理人に対する使用者責任がそれぞれあったとする。
区分所有者は「造成地は土地工作物にあたらない」などとしており、管理組合も管理会社に責任があるとして、それぞれ棄却を求めている。管理会社と管理人側からは明確な反論はまだ出ていないという。
この日、横浜市内で会見を開いた原告で生徒の父親は、「この1年間、いろいろな事実がわかりました。この崩落は少なくとも数回は予見できる機会があり、防ぐことができたと思っています」と忸怩たる思いを語った。
「これだけ崩落の予見ができる機会がありながら、マンション建設会社、マンション販売代理店、行政、マンション管理会社、そして、マンションの区分所有者、誰ひとり、この崩落の危険を察知できなかったことに対して怒りを感じています。
娘は救われたであろう命です。私の中では、娘は殺されたと思っています。この崩落は人災です。本当に娘を返してほしいです」
また、事故から1年以上を経ても「現場には行くことができません」と語り、「家族をそっとしておいてほしいというのが正直な気持ちです」と話した。一方で、裁判への思いも次のように語った。
「しかし、娘の無念を晴らすができるのは、やはり家族です。法律は娘の味方になってほしいです。法律が娘の無念を晴らしてほしいです。法律が娘の仇をとってほしいです。
裁判に勝っても負けても、娘はもう2度と帰ってきません。でも、この裁判を通して真実を明らかにしていきたいと思います。なぜこの事故が起きたか、徹底的に追及していきたいです」
南竹弁護士は、この訴訟について、「マンションの設計販売、管理にいたるまで、誰にどれだけの責任があるのか、裁かれる点が重要」と指摘する。
「これまで、2012年に起きた笹子トンネルの事故のように、社会インフラの瑕疵が問われることはありましたが、民有地の崩壊という問題は、今まであまりありませんでした。
しかし、今後、民有地の老朽化によって同じような事故が起こる可能性があります。これまでの裁判例では、大雨などの自然災害による崩落はありましたが、今回は自然災害によるものではなく、劣化して突然、崩落しました。
まさに天災ではなく、人災です。明確に法的な判断が示されることにより、同様の事故を防ぐことができると考えています」
なお、区分所有者や管理組合は、マンションを販売した不動産会社からは斜面の危険性について説明を受けておらず、事故まで知らなかったと主張。不動産会社などを相手取り、あらたに提訴する方針も示しており、今後、訴訟の範囲が広がることになりそうだ。