2021年05月21日 10:11 弁護士ドットコム
18歳未満の女子生徒にみだらな性行為をしたとして、駒澤大学4年で陸上部に所属する男性(21)が神奈川県青少年保護育成条例違反などの疑いで神奈川県警に逮捕された。
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男性は、2021年1月におこなわれた箱根駅伝・最終10区のランナーで、区間賞を獲得するなど好走をみせ、13年ぶりの総合優勝に大きく貢献した。
報道によると、男性は、2020年12月と21年1月、川崎市多摩区と世田谷区のホテルで、当時高校2年の女子生徒(17)が18歳未満と知りながら、みだらな性行為をした疑いがある。「18歳だと思っていた」と話しているという。
2人はスマートフォンのマッチングアプリを通じて知り合ったようで、女子生徒は18歳と偽って登録していたという。
神奈川県青少年保護育成条例は、18歳未満の青少年(既婚者を除く)に対する「みだらな性行為」や「わいせつな行為」を禁じている(31条1項)。違反した場合は、「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」だ(53条1項)。
このうち、みだらな性行為については、「健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交」と定めている(31条3項)。
また、同違反については、青少年の年齢を知らないことを理由として、処罰を免れることができないとしたうえで、知らないことに過失がないときに限り処罰しないとしている(53条7項)。
今回のケースでは、女子生徒が18歳と偽ってマッチングアプリに登録していたと報じられ、男性も「18歳だと思っていた」と話しているというが、「青少年の年齢を知らないことに過失がない」場合にあたる可能性はあるのだろうか。奥村徹弁護士に聞いた。
——神奈川県警が「みだらな性行為」をした県条例違反の疑いで逮捕しました。
報道によれば、神奈川県内と東京都内で淫行(みだらな性行為)がおこなわれたようですが、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の淫行処罰規定には、神奈川県の条例と異なり、過失処罰条項が適用されません。ですので、東京都内の行為については、青少年と知らなければ過失があっても処罰されないことになります。
——「青少年の年齢を知らないことに過失がないとき」とは、具体的にどの程度年齢確認しないと「過失あり」となってしまうのでしょうか。
神奈川県内での淫行については、県条例に過失処罰条項があるため、年齢確認を尽くしていないと、処罰されることになります。
年齢確認義務の程度は自治体によって温度差があり、神奈川県の解説書では次のような記載があります。
「当該青少年の年齢について行為者が相当の注意を払い、青少年であることを知らなかったことについて、行為者に過失がなかったことが立証されれば、処罰の対象とされないということである。具体的には、履歴書を提出させるだけでは本人を確認したとは言えず、運転免許証等の顔写真つきの身分証明書で確認するか、必要によっては保護者等に確認するなどの手段を講じた場合は、過失がないと言える」
この解説によれば、「運転免許証等の顔写真つきの身分証明書」が偽造・変造されたり、保護者が青少年の年齢を詐称したという極限的な場合のみが無過失(不処罰)になることになります。
——よほどのケースでない限り、「過失あり」になってしまうということですね。
もっとも、無過失にならなくても年齢認識がない場合は適用条文も変わりますし、過失処罰条項に慎重な検事の論稿(栗原雄一「児童買春の罪と青少年育成条例の関係について」研修644号、藤宗和香「青少年保護育成条例」風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版)もあって、起訴猶予の確率が上がりますから、弁護人は年齢認識の有無・程度についてしっかり証拠収集して、主張すべきでしょう。
なお、マッチングアプリの登録が18歳以上に制限されていて、青少年側が年齢を詐称して登録していた場合にも、さらに年齢確認を尽くさないと、過失があるとされることに注意してください。
——女子生徒が17歳、被疑者が21歳ですが、これくらいの年齢同士なら、「真剣交際」しているケースもありそうです。
判例(最高裁昭和60年10月23日判決)は、淫行について、次のように処罰範囲を限定しています。
「『淫行』とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、(1)青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、(2)青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である」
県条例31条3項で「みだらな性行為」が定義されているのは、これを受けたものです(いわゆる「真剣交際の弁解」)。
——どのように「真剣交際している」と主張することになるのでしょうか。
性行為だけではなく、デート・ドライブなどの交際めいた関係がある場合には、無罪になったり、処分が軽減されたりすることがあります。
具体的にどういう事実が真剣交際の弁解につながるかについては、無罪事例(名古屋簡裁平成19年5月23日判決、神戸地裁尼崎支部平成28年8月23日判決、いずれも公刊物未掲載)の被告人・弁護人の主張を参考にしてください。
公刊物としてある判事の論稿(杉本啓二「青少年条例における淫行処罰規定と少年事件 - 最高裁昭和60年10月23日大法廷判決を契機として」判例タイムズ第586号)によれば、「両者のそれぞれの年齢」「性交渉に至る経緯」「両者間の付き合いの態様」などが考慮されるとされています。
また、年齢差などの事情は、無罪につながるだけではなく、被告人に有利な事情として斟酌されますから、情状立証としても有益です。
【取材協力弁護士】
奥村 徹(おくむら・とおる)弁護士
大阪弁護士会。大阪弁護士会刑事弁護委員。日本刑法学会、法とコンピューター学会、情報ネットワーク法学会、安心ネットづくり促進協議会特別会員。
事務所名:奥村&田中法律事務所
事務所URL:http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/