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『名探偵コナン』安室透/バーボン/降谷零ーートリプルフェイスを持つ男、その底知れぬ魅力

2021年05月20日 13:31  リアルサウンド

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 安室透。『名探偵コナン』に登場する、金髪に褐色で顔立ちの整った好青年。


 彼は劇場版『名探偵コナン』シリーズで2016年の『純黒の悪夢(ナイトメア)』に初登場して注目を浴び、2018年の『ゼロの執行人』では主役級の活躍を見せたことで、一気に人気キャラクターとなった。特に2018年は安室旋風が巻き起こり、安室に恋する女子が急増。スピンオフ漫画の掲載される『週刊少年サンデー』が書店から消えたり、珍しい苗字である『降谷』の判子が売れたりした。


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 安室の魅力といえば、その甘いマスクに、声優・古谷徹氏による深みのある声、主人公のコナンを追い詰めかけるほどの推理力……。そして、彼の持つ3つの顔(トリプルフェイス)。今回は、3つの顔を使い分ける「安室透」についてを分析していこう。


★☆☆ 3つの顔、底知れぬ魅力を持つ男
 「安室透」は、毛利小五郎に弟子入りした私立探偵であり、喫茶ポアロで働くイケメン店員。しかし実は、コナンの追う黒ずくめの組織の探り屋「バーボン」である。さらに、彼の真の正体は、組織に潜入する公安警察の「降谷零」。正義のために敵側の組織に潜入し、探り屋として全く別人を演じて日々を過ごす。とんでもない日々を送る男なのである。


 そんな彼の初登場は、原作75巻、アニメ667話で描かれたエピソード。(実は、本当の意味での安室の初登場は少し遡るのだが、未読の人のために今回はこう語らせて頂きたい)このエピソードにおいても、ある意味「3つの顔」を見せていたことにお気づきだろうか。


 初登場エピソードでの1つ目の顔は「ドジなウェイター」。小五郎の同級生が開いた結婚前夜パーティーで、黒ぶち眼鏡の新人ウェイターが登場する。ケーキをひっくり返すなど、ちょっと頼りない印象の青年。これが『名探偵コナン』で見せた安室の最初の顔だ。


 2つ目の顔は、「イヤミな探偵」。事件が起きた後、安室は一度容疑者として疑われるが、眼鏡を外して私立探偵だと名乗る。前述のドジな行動も演技だったのだ。そして、安室は見事な推理を次々披露し、容疑者を追い詰めていく……。


 3つ目の顔は、「小五郎を慕う好青年」。コナンが“眠りの小五郎”として推理ショーを披露し、安室の推理をひっくり返すと、そのの態度は一変。安室は自分の未熟さを痛感したと言って小五郎に弟子入りし、ニコニコ笑って事務所に出入りするように……。この激しいギャップにコナンも驚く。


 このように、安室はたった1つのエピソードの中でも、まったく異なる3つの顔を見せてくれた。どの顔も実に人間味にあふれている。しかし、その全てが「降谷零」持つ目的のための演技だったと思うと、彼の底の知れなさにヒヤリとさせられる。


 その後の物語で、安室は親しみやすい笑顔の奥に冷酷な一面を覗かせ、徐々にバーボンとしての姿を読者に見せていく。そうして主人公の敵側という強烈な印象を与えた後、さらにその奥に、孤独な立場で正義を執行する降谷零があると明かされる。リアルタイムで物語を追う読者は彼から目が離せなかっただろう。


 そして、『名探偵コナン』の頭から読むとこのような順序になるが、劇場版で「バーボン」や「降谷零」の顔を先に知った人も多いはずだ。トリプルフェイスをどの順序で触れても、いずれかの深みにはまって、目が離せなくなる。一人で三倍、いや三乗の魅力を持つ男である。


★★☆ 宿命のライバル・赤井の存在と、『純黒の悪夢』


 安室を語る上で欠かせないのが、FBI捜査官・赤井秀一の存在だ。安室は赤井が苦手で、彼のテーマカラーである赤も苦手。何事もソツなくこなす安室が唯一感情的になる相手で、「殺したい程憎んでいる男」と語る相手でもある。


 安室はボクシングに長け、赤井は截拳道に長けている。安室の愛車は白いRX-7、赤井の愛車は赤いマスタングといったように、その対照性も徹底している。そして、『機動戦士ガンダム』を知っている人ならニヤリとするどころではないのだが、安室透の声を演じるのが古谷徹氏で、赤井秀一の声を演じるのは池田秀一氏。このほかにも原作者・青山剛昌氏の遊び心で、彼らの周りには”ガンダムネタ”が多く散りばめられている。


 かつて赤井は「ライ」というコードネームで黒ずくめの組織に潜入し、バーボンと共に行動していた。優秀な二人はその時からライバル関係であったようだが、安室の仲間である公安の潜入捜査官「スコッチ」の死を巡り、複雑な因縁が生まれることとなる。その後、潜入捜査官だと気づかれ潜入を中断した赤井は、組織から危険視され命を狙われる。そこで、コナンと共に壮大な計画で死を偽装するのだが……。安室だけは赤井が死んだとは考えなかった。そして安室は執拗に米花町を嗅ぎまわった末に、真実にたどり着く。


 そんな赤井と安室が作中で直接対面した場面は、実は指折り数えるほどしかないのだが、なんと劇場版『純黒の悪夢』では、二人の特別な戦いを楽しむことが出来る。潜入捜査官の情報が記された「NOCリスト」の行方を巡って物語が展開する本作。冒頭から、「NOCリスト」の情報を盗んだキュラソーを追って、赤井と安室はカーチェイスで激突。その後、潜入捜査官の疑いをかけられた安室は拘束されて尋問を受けるが、その窮地を脱するきっかけを赤井が作り、九死に一生を得る。


 一番の見どころは、二人が直接衝突する肉弾戦ではないだろうか。赤井と安室は、各々が所属する組織のプライドをかけて、拳でぶつかり合うことになる。次々打ちあがる花火をバックにした二輪式観覧車の頂上という贅沢すぎるロケーションで描かれた、躍動感たっぷりのカメラワークと激しいアクションは必見である。さらに、ラストにはコナンも交えた超豪華な共闘も描かれる。ド派手なアクションを見ているだけでもワクワクするが、二人の過去の因縁を踏まえて鑑賞すると、一味違った楽しみ方が出来るはずだ。


★★★ 3つの顔(トリプルフェイス)を楽しむには


 安室の活躍が描かれる物語は、原作漫画『名探偵コナン』とTVアニメ、そして前述の劇場版『純黒の悪夢』の他にもある。まずはスピンオフ漫画『ゼロの日常(ティータイム)』がオススメだ。本作では米花町の人々と交流するポアロの店員としての日常や、部下の風見に冷たくも優しく接する公安警察官としての日常を知ることが出来る。また『名探偵コナン 警察学校編 Wild Police Story』(編集部註:『週刊少年サンデー』で不定期連載、2020年4月現在単行本化はされていない)も欠かせない。警察学校時代の安室と同窓の仲間を描いた連載で、警察学校に入学したばかりの、正義感が強く頑固な降谷零の姿が描かれているのだ。


 そして、2018年公開の劇場版『ゼロの執行人』ではメインキャラクターとして堂々登場。公安警察官・降谷零の持つ正義が明らかになる。もはや言うまでもないが、安室を語る上では必見である。これらの作品を全て追いかけた時、読者は彼の輪郭をつかむことができる。というよりも、きっと彼の魅力にハマって、より深く知りたくなってしまうことだろう。


(文=宮崎栞)