2021年05月20日 10:21 弁護士ドットコム
住み続けるつもりだったのにーー。賃貸物件の更新にあたり、家賃などの増額を提示され、引っ越そうかと迷ったことはないだろうか。実は賃料アップには、必ずしも応じなくて良いのだという。
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今年5月、次のようなツイートが2万回以上RTされた。
「部屋の賃貸更新について通知書がきた。家賃いきなり5千円増、敷金も千円増、更新費用も増額後計算。増額理由が物価上昇」
話題になったのは、投稿主が弁護士に確認したうえで、管理会社に「法的にも応じる義務はない」と伝えたからだ。
「弁護士相談した結果、更新意思はありますが値上げは応じません。法的にも応じる義務はないので、不服ならオーナーが家賃5千円のために裁判してください」
くわしい経緯は本人のブログにもまとまっているが、実際にこの主張は法的にも筋が通ったものといえる。
借地借家の問題にくわしい西田穣弁護士のもとには、こうした賃料増額をめぐる相談が年10件以上寄せられるそうだが、「ほとんどの場合、値上げに応じる必要はない」と強調する。ぜひ仕組みを覚えておいてもらいたい。
根拠となる法律は、借地借家法32条(借賃増減請求権)だ。
「同条1項では、『当事者は(…)建物の借賃の額の増減を請求することができる』と書いてあります。誤解があるようですが、増額の請求自体は自由なんです。ただし、応じないのも自由です」
【借地借家法32条1項:建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う】
ポイントになるのは、32条2項だという。
「大雑把に言えば、増額について協議がうまくいかないときは、裁判が確定するまで、従来の賃料で良いという内容です。つまり、住人が賃料アップを断わったら、大家は裁判を起こさないと値上げできないわけです」
【借地借家法32条2項: 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない】
裁判を起こすとなれば、弁護士に依頼するなど費用もかさむ。
「大きな金額なら別ですが、月数千円の値上げくらいで裁判をするとお互い損ですから、断わったらそのまま終わりになることが多いです。仮に裁判に負けたとしても、そのときに不足分を払えば良いとされています」
断わったら家を追い出されるのではないかと心配になるかもしれないが、「更新契約が結べなくても、今まで通り家賃を払っていれば、法的に追い出されることはない(借地借家法26条など)」と西田弁護士は断言する。
大家に不利な仕組みと思った人もいるのではないか。
「衣食住と言いますが、生活の基盤である家を失うと借りている側は生活ができなくなります。当初の家賃が支払われている限り、家主は損害を受けていないわけですから、その場合は立場の弱い、住人の権利を優先しようということです」
もちろん、賃料アップが法的に認められることもある。地価などが大幅に上がったような場合だ。
「ただ、長く住んでいると建物の価値自体は下がっていきますし、バブルの頃とは違いますから、感覚的には増額が認められる場合でもせいぜい1割程度ではないかと思います」
大家にも値上げせざるを得ない事情があるかもしれない。まずは理由を聞いてみて、納得できないということであれば、法律の出番と考えたら良いだろう。
【取材協力弁護士】
西田 穣(にしだ・みのる)弁護士
東京弁護士会所属
(著書 法学書院「借地・借家 知識とQ&A」など)
事務所名:東京東部法律事務所
事務所URL:http://www.tobu-law.com/