佐藤琢磨はインディアナポリス・モータースピードウェイを走らせると、ひときわ輝く。
それがIMSという100年以上の伝統のある大きな器のせいなのか、それとも平均時速220マイルオーバーという狂ったようなスピードのせいなのか、あるいはグランドスタンドに帰ってきたファンが、常に琢磨のピット裏で待っているからなのかも知れない。
琢磨はまさに水を得た魚のように2.5マイルのスーパースピードウェイを泳ぐように走る。今季は開幕から良い結果が残せず、意気消沈していた佐藤琢磨とは別人のようだ。
前哨戦の第5戦インディGPから中二日置いて、インディ500のプラクティスが始まった。今回のインディ500の琢磨のマシンは、紺色を基調としたクールなデザインにオレンジのラインが入る。
昨年スポットで琢磨のマシンをサポートした人材リクルートの会社、ピープルレディが今季もインディ500で琢磨のマシンのメインスポンサーとなる。レーシングスーツもそれに合わせて新調された。
今年のインディ500は35台のエントリーを集めた。2台が予選落ちするわけだが、ディフェンディングチャンピオンとなる琢磨は、ライバル34台の挑戦を受ける立場だ。琢磨の周りを取り囲むカメラの数も一段と多くなっている。
4月の8~9日で行われたIMSの合同テストでは、マシンにもトラブルが出たり満足のいくテストにならなかったが、この18日から21日のプラクティス4日間を終えればすぐにインディ500の予選となる。決して時間に余裕があるわけではない。
琢磨は10時のプラクティス開始と同時に1番手でコースイン。いちばん先にブリックヤードを横切ったドライバーとなった。午前中は曇り空で雨が落ちても不思議ではなかったが、琢磨はインスタレーションラップの後順調にラップを重ねると、これまたいちばん先に220マイル台に乗せた。
プラクティスは最初単独走行でマシンのフィーリングを確かめ、ライドハイトやエアロキットなど、ひとつひとつの項目を確認していくように、ピットイン&アウトを繰り返す。
12時までの2時間のセッションでは220.007mphで20番手。
ルーキーオリエンテーションとリフレッシャーテストの時間を経て、午後4時から6時までの2時間は、パック(集団走行)でのマシンの確認が主となるが、ここで各マシンの仕上がり具合が徐々に見えてくる。
琢磨はレイホール・レターマン・ラニガンのチームメイト、グラハム・レイホール、サンティーノ・フェルッチと一緒にコースインし、大きなパックの中に入ってマシンのペースを探り始めた。
ある時は前のマシンをどんどんとパスしていき、ある時は前を譲って後ろからフォローしていったり、レースを想定した走りを繰り返していった。
その最中ポンっと、226.132mphをマーク。一時全体のトップに立った。
その後、ウィル・パワー(ペンスキー)とライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)の2台に抜かれたが、226マイル平均で走ったのは、その3台のみだった。
そしてこの3人ともにインディ500の優勝経験者なのは、何かの偶然だろうか。
琢磨はプラクティス初日を終えて「前回のテストではトラブルもあったので、今回からシェイクダウンのような感じです。前回テストでできなかったウイングとかライドハイトの確認もできましたし、グループランも大きく2回に渡ってできました」
「ダウンフォースを変えたりタイヤのデグラデーションを見ながらトラフィックの中で動きを確認して、良いデータもあるし、良くなかったデータもデータの蓄積に繋がるので、それを分析して明日のプラクティスに生かしていきたいと思います」
「ライバルも昨年のレースを経て全体的に底上げしているように思うし、単独では逃げ切れないようなレースになると思います。今日は気温が低くて涼しい状態でしたから、特にそうだったんですが、レースデイが暑くなればまたどうなるかわかりませんが……」
好調な滑り出しを見せた琢磨のインディ500プラクティス初日。まずはこの好調を維持して、予選を迎えたいところだ。