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理想の暮らしを"お試し"できる「デュアルライフ(2拠点生活)」とは?

2021年05月17日 12:02  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
コロナ禍により在宅勤務が急速に拡大し、我々がイメージしていた以上に個人的にも企業側にも可能性が広がっていると気づいたのではないでしょうか。デメリットはないとは言えませんが、在宅でもかなりの部分の仕事ができるとなると、住まいのあり方も変わってくるように思います。

それにより、「デュアルライフ」などという言葉も浸透しつつあるくらいで、2拠点生活の注目度は急速に上昇しています。しかしながら、生活スタイルを大きく変えるのは、かなり大変です。目先のことだけでなく、子供の育成や老後のことも含めて長期的視点が不可欠です。
○働き方改革から暮らし方改革へ

2018年7月6日に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が公布されました。厚生労働省によると、「働き方改革」は、働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革となっています。政府の狙いは働き手を増やすことにありますが、「個々の事情に応じた」、つまり「働き方」の前提として、どう暮らしたいかの「暮らし方」が問われます。

この通り、本来も「働き方」の前に「暮らし方」があるはずだったのですが、それはあまり注視されてきませんでした。しかし、コロナ禍によるリモート勤務の普及により、私たちはより明確に「どう暮らしたいか」を問われつつあります。都市部で暮らしたい、田舎で暮らしたい、2拠点で生活したい……と、それぞれ求める暮らし方はさまざまですが、新しい暮らし方をより豊かなものにするためには、明確な人生設計が問われているのです。
○「都市生活」「2拠点生活」「地方・郊外への完全移住」を比較

基本的には、その家族の人生設計次第ということになります。その家族にとってメリットであっても、他の家族にとってはデメリットとなることもあります。

また一口に2拠点生活や移住と言っても、第2の拠点や移住の対象として、「郊外」「田舎」「地方の小都市」などでは、だいぶ意味合いが違います。また、「郊外」の中にも、完全な住宅地から、畑が広がる田園地帯、里山エリアなど様々な形態があります。どのような環境をチョイスするかは、人生設計次第です。

都心部より静かな環境を求めるのであれば郊外の住宅地の選択があります。より自然に近い環境であれば、通勤可能な田園地帯も探せばあると思います。たまの出勤であれば、里山エリアまで範囲を広げられるかもしれません。それに対して「田舎」の居住は、まったく別の意味を持ちます。住宅地と違って、不便をあえて楽しむ気合いが必要です。

生活拠点の違いによる一般的なメリット・デメリットは下記のようなものが考えられます。
○都市生活

職場に近く、通勤時間のロスが少ない。時間を有効に使える。
病院、教育機関などが近くにある。
家の周りですべて完結し、老後は便利。
物価、住居が高い。
環境が悪い。

○2拠点生活

都市暮らしと田舎暮らしの良いところを同時に取り入れられて、双方の生活の比重も、その時々の状況に合わせて調節が可能である。
お試しに別の暮らしを把握できる。
リフレッシュ可能な場所を2拠点目に選べば、レジャー費が抑えられる。
鳥の声、風の音、咲き乱れる色とりどりの花々、木々の梢の揺らぎなど、五感が刺激される。
二重生活なのでコストがかかる(光熱費の基礎料金、住居費、移動の交通費、家電製品や日常の細々したもの)。
人によって、または時として移動や2重生活がストレスの場合も考えられる。

○地方・郊外への完全移住

自分のペースに合わせた生活が可能。
物価、住居費が安い。
子供を自然豊かな環境で育てられる。
従来の上昇志向通りに、子供を超難関大学などに合格させる意向の場合は、高校選びや進学塾選びが難しい。
子供の世代までの経済的基盤が作れないと、結局子供は都会に出ていく。

○子供の成長には五感への刺激が必須

これから子供を育てる世代は、想像力をどうすれば養えるか考える必要があると思います。子供は起きている時間すべてに刺激が必要です。

赤ん坊の時は常に親から声を掛けられ、あやされ、メリーゴーランドなどのおもちゃで音や動きから刺激を受けることが必要です。昔は家の中にいても自然の刺激はありました。障子を通して木々の影が動き、鳥の声も聞こえました。親に叱られ、ふてくされて畳に寝ころび、天井板の木目をにらんでいるだけで癒やされるのは、昔の子供の普通の光景でした。歩くとわずかにしなる床板や畳の感触も体が覚えています。

現在はこうした刺激が、都会生活では家の中にも外にもあまりありません。若い世代には地方で経済基盤を作り上げて欲しいとは思います。最初は手ごろな空き家を借りて、現在の都市生活に重きをおいた2拠点生活から試みるのも良いでしょう。都会生活でも子供の健全な成長のためには、キャンプなどで五感への刺激を補う工夫が必要ではないかと思います。

2拠点生活のよいところは、理想の生活のお試しができることです。それも、最初は現在の都会での生活に重きを置いたとしても、自分たちが求める第2の拠点での生活を少しずつ変えていける点です。子供の成長、仕事の状況に応じて柔軟に双方の比重を調整すればよいのです。夏休みなどは第2の拠点での生活を増やすなど、季節によって比重を変えても良いでしょう。

私も2拠点生活を体験していますが、私の実感として五感が刺激され、仕事がはかどります。また自然を眺めたり、庭の畑の手入れをしたりしていると、それだけでリフレッシュし、ほかに娯楽を求める必要をさほど感じません。

佐藤章子 さとうあきこ 一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。 この著者の記事一覧はこちら(佐藤章子)