2021年F1第4戦スペインGPの決勝レースでは、スタート直後にトップに浮上したマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)による優勝争いが繰り広げられた。カタロニア・サーキットはタイヤに厳しいうえにオーバーテイクの難しいコースだが、2度目のタイヤ交換後に後方から追い上げるハミルトンの様子は、2年前のあるレースを思い出させた。そんなふたりの優勝争いを、無線とともに振り返る。
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レッドブル・ホンダとマックス・フェルスタッペンの敗戦は、はたして必然だったのか。メルセデスの勝因、レッドブル・ホンダの敗因が、無線のやり取りからどこまで見えるだろう。
序盤10周目、バルテリ・ボッタス(メルセデス)がチームにこんな無線を投げた。
ボッタス:他のクルマと何か違うことができるか、考えてくれ
3番手スタートのボッタスは直後のターン3でシャルル・ルクレール(フェラーリ)にかわされ、抜きあぐねる展開が続いていた。結果的にメルセデスはボッタスを23周目にピットに呼び、アンダーカットに成功する。その5周後にピットインしたルクレールは、コース復帰した際には11秒以上の大差をつけられていた。
ボッタスに続き、フェルスタッペンも24周目にピットに向かった。ルイス・ハミルトン(メルセデス)をなかなか引き離せず、先手を打って首位を死守しようという必死さが窺えた。コース復帰した時点で、首位に返り咲いたハミルトンは20秒以上先を行っていた。それでも新品のミディアムタイヤを履いたフェルスタッペンは、みるみる差を縮めていった。担当エンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼが、細かく情報を伝える。
ランビアーゼ:マックス、(ハミルトンに)2秒5追いついてるぞ。前後の左(のタイヤ)が厳しいから、十分いたわってくれ。ハミルトンはもっと長く行くはずだ
この時点でのレッドブル陣営は、ハミルトンは最初のスティントをもっと引っ張ると踏んでいたのだろう。ところがフェルスタッペンの4周後にピットインし、再び首位逆転。両者の差は5.5秒まで広がった。フェルスタッペンのアンダーカットは、成功したように思われた。
しかし42周目。ハミルトンは2度目のピットに入り、ミディアムに履き替えた。3番手に後退したハミルトンと首位フェルスタッペンとの差は、22秒465まで広がっていた。ハミルトンの履いたミディアムはユーズドのうえに、バルセロナはオーバーテイクの難しさで有名だ。残り24周で追いつき、抜き去ることができるのか。しかしフェルスタッペンの担当エンジニアは、直後にこう言った。
ランビアーゼ:またハンガリーの繰り返しか
2年前のハンガリーGPで首位を走っていたフェルスタッペンは、2度目のピットインから猛追したハミルトンに終盤に抜かれ、勝利を逃している。あの惨敗をフェルスタッペンもランビアーゼも忘れたはずはなかったが、結果的に同じ轍を踏んでしまう。とはいえこの時点でのハミルトンは、まだ勝利への確信はなかった。それをピーター・ボニントンが、力強く励ました。
ハミルトン:あとどれくらいで追いつけるんだ
ボニントン:22秒だ。心配するな。以前も同じことを成し遂げている
その後は1周1秒以上も速いペースで、フェルスタッペンを猛追していった。ソフトタイヤしか残っていないフェルスタッペンは、これ以上ペースを落とさず走り続けるしかない。しかしフェルスタッペンは、かなり悲観的だった。
フェルスタッペン:このまま最後まで、どうやったら行けるんだ。タイヤはもう死んでるんじゃないのか?
ハミルトンは51周目には2番手ボッタスに追いついた。チームからは「ルイスを塞ぐな」と指示が出た。ところがボッタスはターン10まで譲らず、2秒近いタイムロスを喫した。
それでもなんとかチームメイトを抜き、ハミルトンは2番手まで順位を戻した。54周目には1分20秒665の自己ベストを出し、フェルスタッペンとの差を8秒5まで縮める。しかしそこからは徐々にペースが落ちていった。思わず弱音を漏らすハミルトンに、ボニントンがまたも励ます。
ハミルトン:最後までタイヤが保ちそうにない
ボニントン:心配するな。フェルスタッペン(のタイヤ)は、もっとひどい
そして60周目のメインストレートで、鮮やかにフェルスタッペンを抜き去っていった。首位から陥落したフェルスタッペンにできることは、ピットインしてソフトに交換し、ファステストラップを狙うことだけだった。
チェッカー後、ハミルトンは戦略チーフエンジニアのジェームズ・ボウルズとお互いを讃え合った。
ボウルズ:ルイス、素晴らしいドライビングだった
ハミルトン:やあ、ジェームズ。完璧な戦略だった。よくやってくれた
そこにトト・ウォルフ代表も割り込んでこう言った
ウォルフ:おめでとうルイス、戦略と偉大なドライビングの勝利だった