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戦闘機操縦、護衛隊司令…女性自衛官はどう活躍の場を広げてきたか

2021年05月16日 10:11  弁護士ドットコム

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イージス艦の女性艦長や、女性パイロットなど、ニュースなどで、女性自衛官の活躍を目にする機会が増えてきました。実際にどれぐらい増えているのでしょうか。また、女性が活躍するためには、どんなハードルがあるのでしょうか。(ライター・加藤博章)


【関連記事:【動画】陸自の歌姫と海自の歌姫】



●ニュースに出てくる女性自衛官

まずは、ニュースに出てくるような有名な人物からみていきましょう。ネットで目立つのは、音楽隊の女性自衛官です。



陸上自衛隊中部方面音楽隊に所属するソプラノ歌手の鶫真衣3等陸曹は、「陸自の歌姫」と呼ばれ、人気があります。





海上自衛隊東京音楽隊の三宅由佳莉3等海曹も「海自の歌姫」として有名です。





専業歌手として初めて採用された自衛官です。時事ドットコムのインタビューで、「音楽隊員も他の隊員と同じ訓練を受けるのですが、女子大生としてのほほんと生きてきた私にとってはすごく厳しくて、かなりの衝撃でした」と語っています。



音楽隊はイベントなどで、一般の方の目に触れる機会も多いのですが、それ以外の様々な分野でも、たくさんの女性自衛官が活躍しており、「女性初」として報じられるケースもあります。



例えば、2018年には松島美紗2等空尉が女性初のF-15パイロットになり、話題になりました。



2015年に、航空自衛隊において、女性の戦闘機操縦が可能になったことで、道が開けました。松島さんは、令和元年版防衛白書で、「日々の訓練は、いかなる状況下においても任務を完遂できるよう、時には自分の心身の限界まで追い込まれる非常に過酷なもの」と語った上で、「いち早く一人前の戦闘機操縦者となるべく日々精進していきたい」と意気込んでいます。





海上自衛隊でも、2018年には、東良子1等海佐が第一護衛隊司令に就任し、女性初の護衛隊司令が誕生しました。東さんは、常に「女性初」の肩書を歩んできました。日本経済新聞によると、女性は護衛艦ではなく、補給艦などの訓練が中心で、「君たちが現役の間は護衛艦に乗ることはない」とまで言われたことがあるそうですが、複数の護衛艦を束ねる指揮官にまでなりました(現在は異動)。男性の部下から「椅子のカバーはピンクにしますか」と言われたこともあるそうで、どう接したらいいのか、慣れないものがあったようです。





●女性自衛官は1.7万人、全体の7.4%

それでは具体的な数がどうなのかをみていきましょう。



2020(令和2)年3月末時点で、女性自衛官の数は、約1.7万人(自衛官全体の7.4%)で、10年前の2010(平成22)年約1.2万人(約5.2%)に比べると、2.2%増加しています。



一方、防衛省の事務官や技官、教官などの自衛官以外の防衛省職員については、約3400人(全体の25.2%)の職員がおり、10年前(全体の23%)に比べ、増加しています。



官公庁全体と比べると、防衛省は、他省庁と比べても、女性がそれほど少ない訳ではありません。官公庁全体の女性比は、警察庁と復興庁の10.4%から消費者庁の34.9%まで、割合に幅がありますが、20%代の官庁が多くなっています。



自衛官以外の職員に比べると、自衛官の女性比率は少ないように見えます。しかし、都道府県警察の女性警察官の比率は9.8%なので、他の省庁と比べてもそこまでの差は見られません。



●後方勤務だけでなく、精鋭部隊にも配属

では、女性自衛官の受け入れはどう進んできたのでしょうか。



陸上自衛隊では、発足当初から衛生科(看護職)に限って、女性を受け入れてましたが、本格的に女性の受け入れを始めたのは、1967(昭和42)年のことです。この年から、陸上自衛隊、戦闘職域や戦闘支援職域などの肉体的負荷の大きな職域以外の、人事管理や教育訓練等の一般職域に女性自衛官を任用し始めました。海上自衛隊や航空自衛隊では、1974年度からです。



この後、段階的に女性自衛官の配置制限が解除されていき、2018(平成30)年に海上自衛隊の潜水艦への配置も開放されました。これによって、女性自衛官を配置することができないのは、陸上自衛隊の特殊武器(化学)防護隊の一部と坑道中隊だけで、そのほかの自衛隊での職域では女性自衛官の配置制限は解除されています。



ただ、女性自衛官のポジションは、医療系や輸送などの後方勤務に多い印象を受けます。実際、女性自衛官初の将官は、2001年に海上自衛隊の女性医官でした。



しかし、先ほども紹介したように、女性は、後方勤務以外でも活躍をしています。2019年12月には大谷三穂1等海佐がイージス艦「みょうこう」の艦長になりました。海上自衛隊では初めて、女性がイージス艦長になりました。





陸上自衛隊でも、2020年3月、第一空挺団に初の女性自衛官(橋場麗奈3曹)が配属されました。空挺団は、陸上自衛隊の中でも精鋭部隊として知られており、体力的にも厳しいため、団員は男性に限定されていました。2017年に制限が撤廃され、その後3年で女性が配属となりました。





2020年1月には、第7師団第72戦車連隊に初の女性戦車小隊長(黒川慈3等陸尉)が誕生しています。



●価値観だけでなく、設備や制度も整ってきた

女性自衛官は各職域において、活躍の場を拡大していますが、ここまで来るまでには、平坦な道だったわけでありません。女性の社会進出が注目される中で、女性自衛官たちもその苦労話を吐露しています。



男性自衛官に比べると、女性自衛官は少数派です。それに、自衛隊は、肉体労働が多い仕事でもあります。女性自衛官が、「苦労したことは?」と質問された際には、「体力が男性よりも劣っているのできつかった」「周りに男性の隊員しかいないと、生理のような女性特有の体の問題を相談できなくてつらかった」などが回答としてあがってきます。



しかし、女性自衛官が職場に来ることで、ある程度解消されてくるようです。自衛隊は、個人ではなく、チームでの団体行動が優先される組織です。1人に頼るのではなく、隊員全員で物事を進めていきます。



例えば、体力が劣っているという問題では、男性隊員は重いものを持って、女性隊員は軽いものを多めに持つといった形で、互いに配慮しながら、仕事をしていきます。生理のような女性特有の問題についても、女性の上司や女性隊員が増えてくると、相談できるようになってきました。女性が増えることによって、働く環境が変わってきたのです。



男性に比べて、女性が苦労するというのは、やはり職域制限があったためです。ですが、これは差別というよりも、そもそも女性を受け入れる環境になかったというのが理由です。



例えば、海上自衛隊で医官を除いて初の海将補になった近藤奈津枝さんは、苦労した思い出として、幹部候補生学校を卒業した時に、男性自衛官は遠洋練習航海に参加したのに、女性は参加できなかったと振り返っています。理由は単純で、女性用寝室などの女性用の設備が練習艦になかったためです。





制度についても、女性を迎えるための制度が整えられています。家庭生活と職場を両立させるための託児所設置や、子育て支援などの制度を設け、再就職支援として、ファイナンシャルプランナーなど、女性の再就職に有利な資格を取得するための職業訓練として進めています。



自衛官は、公務員なので安定した職場でもあります。日本政府は、働き方改革や女性の社会進出を政策として掲げていますので、保障を手厚くするインセンティブが働いています。



●女性の社会進出のモデルケースに

女性自衛官が活躍するようになったのは、女性自衛官自身が努力してきた結果でもあります。少子高齢化による自衛官不足が深刻になると予想されている中で、女性自衛官の採用拡大は喫緊の課題です。こうした中で、女性自衛官は活躍の場をさらに拡大していくでしょう。



自衛隊の歩みは、まだ、女性の進出が進んでいない分野の民間企業にとっても参考になる事例です。ぜひモデルケースになってほしいと、期待しています。



<参考資料>



今井和昌「人口減少・少子高齢化の進展と防衛力の人的基盤-自衛官募集の現状と防衛態勢への影響を中心に」『立法と調査』第419号(2019年12月)。



東レ経営研究所「女性自衛官トップが語る、“チャンスをつかんで、自分自身に挑戦する姿勢を”」



内閣官房内閣人事局「女性国家公務員の登用状況のフォローアップ」



『令和2年版防衛白書』



『令和2年版警察白書』



【著者プロフィール】加藤博章。1983年東京都生まれ。関西学院大学国際学部兼任講師。専門は、日本政治外交史、主に日本の国際貢献、安全保障政策。主著に加藤博章『自衛隊海外派遣の起源』勁草書房、2020年。