2021年05月16日 10:01 弁護士ドットコム
歴史的ヒットになった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』では、その人気にあやかろうとコラボ商品が引きを切らない。原作コミックなどとのコラボもあわせて考えると、コンテンツが及ぼした経済効果は莫大だ。
【関連記事:「歩行者は右側通行でしょ」老婆が激怒、そんな法律あった? 「路上のルール」を確認してみた】
こうした点が評価され、同作は「日本キャラクター大賞2021」でグランプリとキャラクター・ライセンス賞を受賞。4月14~16日に東京ビッグサイトで開催された日本最大級のコンテンツビジネス展「コンテンツ東京2021(主催:リード エグジビション ジャパン)」の中で表彰された。
当たり前だが、人気作品とのコラボは無条件にできるわけではない。一体どんな風に仕掛けられいるのか。コラボの裏側を取材した(ライター・梅田勝司)
「コンテンツ東京」は商談のための展示会で、商品や技術を見せるのが目的の展示会とは性格が異なる。気になるクリエイターやコンテンツなどがあれば、各ブースでそのまま商談に入れるのだ。
出版社、アニメ制作会社、ゲーム会社、キャラクターグッズ販売会社から、グッズ制作会社、さらには法律関連の会社まで出展しており、ひと回りすれば契約までカバーできる。
ツテがなくてコラボに手を出せず悩んでいる企業にとっては、コンテンツ権利者である「ライセンサー」とのつながりができ、予算やどういうことができるのかなどを打診することもできる貴重な機会となる。
この「コンテンツ東京」の柱の一つ「ライセンシング ジャパン」では、さまざまなライセンサーが出展。あちこちに有名作品やキャラクターのポスターや商品が陳列されたブースで、コラボを考えている企業の担当者がブースで名刺交換や商談を繰り広げていた。
商談まで行かなくても、どのブースでも質問すれば、 展示されている作品を推している理由がメモリアルイヤーであることや、人気キャラや作品についても快く答えてくれた。また、展示以外の作品やキャラについても相談に乗るとのことだった。
しかし、商談展示会に希望コンテンツやキャラクターが出展していなければどうすればいいだろうか?
その実例を、多くのコラボ酒を発売している京都・白糸酒造の宮崎俊子社長に聞いた。
同社は江戸時代の明和4年(1767年)創業という由緒ある酒蔵として日本酒を作ってきた。それがなぜ、アニメやゲームとのコラボ酒を出すようになったのか。
実は宮崎社長は大のアニメファンで、地域振興の一環としてコスプレイベントなどを手がける一般社団法人GO-TANの代表理事でもある。
「GO-TANでコスプレイベントを開いたときに、列車もコスプレさせようということで『けいおん!』のラッピング電車を知人の協力で手がけました」(宮崎氏)
『けいおん!』は多くのファンを持つ「京都アニメーション」が制作した人気作品。京都は二次元作品でも、ゆかりの深い作品が多い。また、2006年には漫画に関する貴重な資料を集めた「京都国際マンガミュージアム」も開館した。
それだけでなく、西日本最大級のマンガ・アニメ見本市「京都国際マンガ・アニメフェア(通称:京まふ)」も2012年から毎年の恒例イベントとして開催されている。
「京まふが開催されるということで、これに合わせてコラボ商品を出してみようと思ったのが、そもそものきっかけです」
その際、宮崎氏が選んだ作品は『宇宙兄弟』だ。
「主人公が成人で、お酒を飲むシーンがたびたび出てくるのでコラボもやりやすいかなと。なにより私が大好きな作品でした」(宮崎氏)
日本酒はもともとラベルに有名な絵画を採用して販売促進を行ってきた歴史があり、ラベルにコラボ作品のイラストを使用できるのではないかと考えたのだ。
幸い、原作漫画を発行している講談社の関係者と会う機会があり、そこでコラボ商品を提案したそうだ。講談社側も京まふの出展に協力しており、スムーズに話は進んだという。
宮崎氏が次に考えたコラボ商品は、『機動戦士ガンダム』で有名なアニメ制作会社サンライズのオリジナルアニメ『装甲騎兵ボトムズ』。いまだに根強い人気を誇るハードなロボットアニメだ。
「私はサンライズの作品が大好きで。でも大抵のロボットアニメは主人公が未成年だったことから、主人公が成人の『ボトムズ』にしました。ツテはなかったんですが、京まふに出展していたことでサンライズの方とアポを取ることができまして、実現にいたりました」
そうして出来上がったのが、未だに人気が衰えないコラボ酒「最低野郎」だ。コラボ酒の中でも売上げはトップだという。マスコミに取り上げられる機会も多いそうだ。
日本酒は全国的に売上が減少傾向にあるが、宮崎氏によれば「コラボ商品と合わせると、通常の酒類との売上は半々ぐらいの割合で、コラボ商品の認知も上がっており好評」だという。
白糸酒造の場合は、イベントなどで直接つながった事例だが、コラボを仲介する企業や団体もある。冒頭で触れた「ライセンシング ジャパン」では、ライセンサーの窓口と業者をつなぐ「キャラクター・データバンク」が、企業の窓口を掲載した簡易版の「ライセンスビスネス電話帳」を無料配布していた。
窓口とつながり、うまく話が運べば、キャラクターのライセンス関係に強い弁護士や弁理士などを交えながら、具体的に契約をまとめていくことになる。
しかし、ただコラボをしても仕方がない。ビジネスとして成功するには、マーケティングの視点が必要だ。
宮崎氏は「自分もアニメのファンだったので、こういうものが欲しいと思ったものを作るようにしてます。今まで見たことがないものに着目しています」と言う。
アニメのタイアップやオリジナルグッズは山程出回っている。CDやブルーレイの特典としてプレゼントされるアイテムもある。その中で、コラボ酒は珍しかった。特典とするには年齢的な制限もあったからだ。しかし、今ではアニメは広い年齢層に見られており、成人のファンも多い。
白糸酒造は、1979年から醸造部門を他の酒蔵に依頼し、同時に全酒類で卸売・小売を担うようになったことから、日本酒だけでなく、クラフトビールやワイン、サイダーなども販売。『勇者シリーズ』や『刀剣乱舞-ONLINE-』、『あんさんぶるスターズ!』などの作品とコラボしてきた。
さらに『おそ松さん』ではお酒ではなく、枡や焼印の木札を販売した。
「展示会に出展したとき、女性のお客様から枡を見て“可愛い”という声が聞こえて来て、日本酒にまつわるものにも興味を持たれるんだと気づいたんです。私たちにはなじみがあるけれど、若い方には普段縁がない。
若い方の日本酒離れが進んでいるという問題もあり、歴史のあるものに触れていただきたくて、最近は地元の工芸品や和菓子ともコラボしています」(宮崎氏)
これも、宮崎氏の立ち上げたGO-TANが地域振興を目標としているからだろう。自社だけでなく、ほかにもいいものを作っている職人、店があれば紹介していきたいということだ。
なお、意外かもしれないが、職人は注文どおりのものを完成させるのが仕事なので、アニメキャラクターであっても抵抗なく、オーダーに応じて高い精度で仕上げてくれるそうだ。
ちなみに、白糸酒造では『鬼滅の刃』とコラボをしていないのはなぜなのだろうか?
「大好きな作品なんですが、市場にコラボ商品が溢れて充実しているので弊社の出番はもうないなと思ったことと、キャラクターの年齢的にお酒はちょっと難しいと考えて見送りました」(宮崎氏)
なるほど、こうしたマーケティング的視野もコラボには欠かせない。人気キャラクターとコラボすれば無条件に売れるというわけではないのだ。
ちなみに白糸酒造ではコラボ商品の仕上がりまでは約3カ月と早めだという。絵を描き下ろし(版権イラスト)てもらうにも、ラフイメージを出して下書きをチェックして上げてもらい、ロゴを組み合わせたり、デザイナーが活躍する部分もある。
このように、コラボは実現するまで契約から作品やキャラクターへの理解と、強い思いも必要だ。商品だけでなく、最近はイベントや展示施設、遊園地などとの大規模コラボも増えてきた。それだけにファンの目も肥えており、ファンが喜ぶ内容をより検討しなければいけなくなっているのだ。