2021年05月15日 08:51 弁護士ドットコム
親の信仰する宗教のもと育てられた「宗教2世」。弁護士ドットコムのLINEに「どうかこの宗教2世問題をとりあげ、世間にもっと認知させてください」とメッセージが寄せられた。
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送り主は、ある世界的な新興宗教の2世であるAさん(20代女性)。0歳のころから毎週教会へ連れられ、教えをうけた。
その団体では、信者同士が結婚して子どもをつくることが至上命題とされ、恋愛や自由な結婚は否定された。
女性は幼い頃から行事に参加するのを拒否し続けてきたため、成人後は強く勧誘されることはなくなった。ただ、今も結婚については「相手に一生迷惑をかける」と踏み切れない思いでいる。
両親ともに信仰熱心だったが、特に母は教会や行事に参加するよう強く促してきた。幼い頃から徹底して「神様は常に見ている」と教え込まれた。
「どこかで悪いことをしても神様は全部見ているし、最後死ぬときには録画していたビデオテープを流す。どんないいことや悪いことをしたか見られて、天国か地獄に行くか決まる。神様は全部知っているんだよ」
母親からそう繰り返されると、いつもどこかで監視されているような気持ちになり苦しかった。
恋愛は「サタン(悪魔)が誘惑をしているから堕落してしまう(地獄へ行く)」と強く禁止された。「神様から選ばれた男の人と女の人が結婚して子どもを産むから、相手は神様が選ぶ」ためだ。
小学生になると「女の子らしくいなさい」と言われ、男の子と遊べば「男の子なんかと遊んで!」と怒られた。
当時から「礼拝に行くの嫌だな」と団体に対する違和感はあった。ただ、拒否することは選択肢になく「こういうものだ、仕方がない」と思うようにしていた。
「『神様のために生きたら、救われるんだよ』と大人が大真面目に言うのを『そんなわけない』と思いつつ、そう口に出すことは許されないと分かっていました」
中学生になるとAさんは部活動と勉強で忙しくなり、日曜日の礼拝からも離れていった。ただ、長年「恋愛禁止」と教え込まれていたため、人を好きになることには抵抗があった。
恋愛に発展しないように、わざと男の子っぽく振る舞った。それが誰かと交際することを避けるAさんなりの手段だった。
「今ではありえないことですが、先生がクラスの男女の人数を数えるときに、私のことは『あ、お前は女だったか。あはは』とわざと間違ってカウントしたんですね。そのときに、『これだ』と思いました。こういうキャラでいたら彼氏の話にもならないし、恋愛の話から抜けられる。そうすることで自分の中で折り合いをつけて、生きやすくしていました」
このように生活を規制されていたが、両親は2世であるということだけで「あなたは神の子だから素晴らしい」と手放しで褒めた。なんだか居心地が悪かった。
「自分は何もしていないし、そんなに言われてもなぁと思っていました。すごい厳しく規制されているのに、都合よく褒められている。大人の言葉の端々から、モヤモヤや気持ち悪さを感じていました」
中高時代は「どうやって止めようかな」とばかり考えていたが、母は忙しい中でも年に1度の泊まり込みの合宿だけは行くように言った。Aさんが「絶対嫌だ」と拒否すると、母は大声で怒鳴り散らした。
行事に行く行かないで喧嘩になると、毎回「あなたを産んだ意味がない」「なんのために産んだのか」と決め台詞のように言われた。母の気を収めるためには、毎回「これで最後にする」と言ってしぶしぶ参加するしかなかった。
その後、Aさんは大学に進学し親元を離れた。それまでも強い姿勢で拒否していたAさんに対し、母がなにか誘ってくることはなくなった。ただ、これまでの交際相手には「いつも後ろめたい気持ちがあった」と話す。
「結婚する時になれば親は大騒ぎするから、相手に一生迷惑をかけます。たとえ相手が納得したとしても、巻き込んで嫌な気持ちをさせたくないんです。どうせ結婚しないのに、付き合っているなんて騙しているような感覚になりました」
Aさんも結婚を考える年齢に差し掛かり、より真剣に結婚について思い悩むようになった。今の交際相手に「宗教2世」であることを打ち明けると、「そんな人が本当にいるんだね」と驚かれたが「嫌悪感はないしなんでも協力するから相談して」と言われた。
ただ、Aさんは「私じゃない人と一緒にいた方がいいし、自分に関わったら不幸になる」という思いがなかなか拭えないでいる。もし仮に結婚となった場合、また母からの過干渉が始まる可能性があるためだ。
「もし結婚を伝えたら、まず絶対に賛成はされず、否定的な言葉を言われ続けると思います。それでも結婚するならば、せめて宗教の信者にさせて、教えにのっとった結婚の儀式をさせようとするでしょう」
母はいつも「神様が決めた人以外の人と結婚するのは絶対だめ」、「結婚する前に肉体関係を持つことは絶対だめ」と繰り返してきた。理由は「そんなの神様のためにはならんでしょ」だった。Aさんの姉は勝手に3回もお見合いをセッティングされた。
姉は「自由結婚」するために母を3年間説得したが、結局は夫婦で信者となった。
姉夫婦の決断には、Aさんも驚いた。姉の夫は当初、入信に強く反対していたが、母は「知れば正しいと分かる」と10回にわたって講義をおこなった。姉夫婦は結婚と引き換えに「 結婚するときに行う儀式で最後だから」と言われ、信者同士が式を挙げる合同結婚式に参加した。
姉の夫は「そんなに言ってくるなら、信者になって辞めたらいいかなと思った」と言うが、その後も「今度はこの儀式で最後だから」と母からの勧誘は続いている。そして、断ると母は一方的に甲高い声をあげてまくし立てる。
Aさんが母から受けてきた勧誘と同じ構図だった。
「断ったら『死んでやる』とヒステリックを起こされて、『わかったじゃあ行くよ』の繰り返しでした。ヒステリックになる母の気を納めるために我慢して参加していました。母にはこれまでの成功体験があるんです。
私たちは大人だから自分のことは自分で決める。そこは線引きしてしっかり言えばいいと思っています。ただ、言われすぎると無気力化する。しんどくなって考えるのをやめてしまう。『もういっか』となるんです」
普段は母を恨む気持ちもない。ただ、姉に無理やり行事に参加させたという話を聞くと、途端に母への嫌悪感や怒りがわいてくる。
「宗教2世」として自由を奪われてきたAさん。悪いことをしたら全部見られている、という感覚は今も残っている。どんな小さなことでも「どうやったら許してくれるんだろう」、「本当に自分はだめなやつだ」と罪の意識を感じる。
Aさんは「パワハラやDV相談窓口のように、宗教に関する相談窓口があれば」という。
「親が信者でも、自分が信じるかは自由。その自由を奪うことは虐待ではないでしょうか。家族を思うことと信仰の自由は別で、無理やり信仰させるのは間違いです」