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『フルーツバスケット』本田透は物の怪憑きたちのトラウマとどう向き合う? 唯一無二のヒロイン像を考察

2021年05月10日 11:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『フルバ』本田透の唯一無二のヒロイン像

 「花とゆめ」で1998年から2006年に連載されていた『フルーツバスケット』。アニメ化もされており、現在「The Final」が放映中だ。単行本は全23巻が発売され、全世界累計発行部数が全世界コミックス累計発行部数3000万部を突破している。


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 連載終了から15年が経っても今なお高い人気を集めるのには一体どのような理由があるのだろうか。


■物の怪憑きと女子高生のラブコメ……ではない


 ヒロインの本田透は都内の高校に通う女子高生。幼いころに父を亡くし、高校生になってから母も亡くした。親戚の家に世話になっていたが(とは言っても学費と生活費は自分で負担している)、家の改装を機にテント暮らしを始める。女子高生が思いつくことではない。


 そのテントを張っていた場所は、クラスメイトの草摩由希の敷地内。偶然、そのことが発覚し、家事手伝いをする代わりに草摩の家に世話になることに。しかし、その草摩家には大きな秘密があった。彼らは生まれつき十二支の物の怪憑き。異性に抱きつかれると獣になってしまう。とは言っても、草摩家の者すべてがそうというわけではない。十二支+猫の最高13名のみ。十二支の物の怪憑きとなると本家の敷地内にある住宅に住むなどといった、制約が生まれる。


 ヒロインの透がなかなかぶっ飛んでいることもあり、最初はドタバタラブコメかと思いきや、血縁との絆、逃れられないしがらみ、差別……と言ったさまざまな問題をはらんでいる。


■ヒロイン・透の圧倒的魅力


 最初は反発する者もいるが、十二支はみな透を慕っている。物の怪憑きのことは草摩家にとってトップシークレット。草摩家内でもその秘密を知らない者が多い。完全な部外者である透の存在は、十二支憑きにとって拠り所となるのだろう。


 何より、透の元来の性格や考え方によるものがある。天然なところがあるが努力家で、優しくてひたむき。素直すぎるところもあるが、ちゃんと自分で考える力も持っている。


 そんな透が死んだ母から言われたという言葉が印象的だ。


「疑うより信じなさいってお母さんが言っていました。
 人は良心(やさしさ)を持って生まれてこないんだよって」


「良心は体が成長するのと同じで自分で育てていく心なんだ…って。
だから人によって良心(やさしさ)の形は違うんだ…って」


 良心はそれぞれの手作りみたいなもの。だからいろんな形の良心がある。母のそんな言葉を透は真正面から受け止めている。疑うのは簡単なこと。「透は信じてあげられる子になりな」という母の言葉に忠実に生きている。これが、どうして十二支たち、そして周りの友人から愛されているのかの答えだ。信じると言うだけなら誰でもできる。でも心から実行できる人間はどれだけいるだろうか。


■透の存在がそれぞれの心を溶かす


 十二支と猫の物の怪憑きはそれぞれトラウマを抱えている。物の怪憑きというだけで愛されない子もいるし、猫憑きの人間は異形な「本来の姿」があり、高校卒業後は死ぬまで幽閉されることが決まっている。そもそも草摩家自体が古くから続く名家であるため、その重圧ものしかかっている。


 もし草摩家以外の人間を愛しても、十二支の秘密だけでなく、草摩家に迎え入れることが良いのかと悩む者も少なくない。何より、当主である草摩慊人との魂の結びつきが強く、逃れることができない。血縁のしがらみをわかりやすく描いている。それを外の人間である透がほどいていく、というのは難しいことだ。客観的な立場だからできることなのだけれど、たいていの場合は「自分たちのことは分からないくせに」と遠ざけてしまう。にも拘わらず、透が成し遂げているのは「信じているから」だろう。


 血の繋がりではなく、ひとりの人間としてあなたのことを信じている、とひとりずつに伝えている。誰かひとりでも自分を信じてくれている人がいると勇気が出る。様々な形でそう伝えられたキャラクターたちが、その後は自分の力で前に進んでいるのも重要なポイントなのだ。


 ヒロインとしてはでしゃばらないタイプの透だが、できることならこんな人間になりたいと思える人だ。それは、ヒロインとしてとても大きな条件なのかもしれない。


(文=ふくだりょうこ)