2021年05月08日 08:41 弁護士ドットコム
自動車免許をもっていなくても運転できる社会が近くまできているようだ。
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警察庁の有識者検討会がこのほど、2022年度ごろをめどに地域を限定した移動サービスとして導入が検討されている自動運転「レベル4」について、運転免許をもつドライバーがいなくても走行を認めることなどを盛り込んだ報告書をまとめた。
5段階ある自動運転レベルのうち、「レベル4」では、走行場所や時間帯など一定の条件下で、システムがアクセルやブレーキなどすべての運転タスクを実施する。ドライバーを想定していないため、「無免許」でも走行させることができる。
日経新聞などの報道によると、これまでドライバーが守っていた速度制限や信号など一般的な交通ルールは自動運転車に適用される。もっとも、事故発生時やルール違反した際の責任の主体については、現時点では明言されなかったようだ。
今回の検討会では、移動サービスの交通ルールが検討され、自家用車や物流サービスについては議論されていない。もっとも、自家用車の「レベル4」についても、政府は2025年をめどに高速道路で実現させるとしており、遠い話ではない。
たとえば、「レベル4」で運転中にシステムトラブルが発生しても、乗車している人が全員「無免許」だと、手動で事故回避などをするのは難しいかもしれない。その際、法的責任などはどうなるのだろうか。今後の課題について、交通事故実務にくわしい和氣良浩弁護士に聞いた。
——事故発生時やルール違反した際の責任の主体については、現時点では明言されなかったようです。
現行法上、交通事故を起こした運転者(加害者)は、(1)刑事上の責任、(2)行政上の責任、(3)民事上の責任、と大きく分けて3つの責任を負うことになります。
交通事故によって人を死傷させると、「過失運転致死傷罪」が適用されます。故意や故意に比肩する極めて重大な過失により発生した事故については、「危険運転致死傷罪」が適用されることになりますが、これらが(1)刑事上の責任にあたります。
(2)行政上の責任とは、公安委員会の基準による運転免許の停止、取り消しおよび反則金等の行政処分のことで、交通事故だけでなく交通ルールに違反した際にも加算される「点数制度」もこれにあたります。
(3)民事上の責任とは、民法、自動車損害賠償保障法に基づき、被害者の損害を賠償する責任のことです。いわゆる自動車任意保険は加害者の負った民事上の責任を肩代わりするものです。
以上が交通事故発生時やルール違反した際に運転者が負うことになる責任です。
——これら3つの責任は、自動運転ではどうなるのでしょうか。
これら責任の主体が自動運転車による交通事故だった場合にどうなるかを検討するにあたり、自動運転車を単一的に捉えるべきではなく、まずは「安全運転支援」と「完全自動運転」を分離する必要があると考えます。
自動運転車の定義として、国土交通省が5つのレベル分けを発表していますので、これを基準に見ていきたいと思います。
レベル1「運転支援」は、システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施するもので、たとえば「自動ブレーキ」や「前の車に付いて走る(ACC)」、「車線からはみ出さない(LKAS)」といった機能を搭載した車両がこれにあたります。
レベル2「高度な運転支援」は、システムが前後及び左右の車両制御を実施するもので、たとえば高速道路において「車線を維持しながら前の車に付いて走る(LKAS+ACC)」、「遅い車がいればウインカー等の操作により自動で追い越す」、「高速道路の分合流を自動で行う」等の機能を搭載した車両となります。
レベル3「特定条件下における自動運転」は、特定条件下においてシステムが運転を実施するというものですが、当該条件をはずれるなど作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に対してドライバーが適切に対応することが必要な車両です。
レベル4「特定条件下における完全自動運転」は、特定条件下においてシステムが運転を実施し、さらに作動継続が困難な場合もシステムが対応するという点でレベル3と異なります。
レベル5「完全自動運転」は、その名のとおり、常にシステムが運転を実施するというものです。
これら5つのレベルを「安全運転支援」と「完全自動運転」に分けるとすれば、レベル1~3が「安全運転支援」、そしてレベル4と5が「完全自動運転」といえると思います。
レベル3は「安全運転支援」と「完全自動運転」の中間のような存在ですが、運転中に適宜ドライバーの適切な対応が必要となる点から、「安全運転支援」の一部と考えます。
——レベルによって、人間の関わる程度がかなり変わりそうです。
さて、自動運転車を「安全運転支援」と「完全自動運転」に分けた上で、事故発生時等の責任の主体を考えていきます。
「安全運転支援」、つまりレベル1~3の自動運転車による事故の場合は、運転者が運転の主体である以上、原則として運転者が全て責任を負うことになるでしょう。
ただし、その機能に不具合、暴走といった何らかの問題があって発生した事故の場合には、その運転者自身が上記の刑事責任、行政上の責任、民事責任のいずれも負うことはありません。
とはいえ、民事責任について、自動車損害賠償保障法(自賠法)が「自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明」した場合にのみ責任が免除されると規定していますので(3条但書)、運転者が責任回避するためには相当な立証活動が必要になるように思います。
——レベル1~3では、運転者が負う責任が依然として大きそうですね。
次に、「完全自動運転」、つまりレベル4と5の自動運転車による事故の場合は、運転の主体がシステム(自動運転車)であるため、人間が責任を問うのは困難となります。したがって、自動運転車側、すなわちメーカーに責任を問うことになるのではないかと思います。
もちろん、これは自動運転車の所有者のメンテナンス(自動運転システムのソフトウェア・データ等のアップデートやシステムの要求する自動車の修理など)が万全であることが前提となります。
仮に、所有者のメンテナンスが不十分であった場合、最終的には所有者が責任を負うことになりますが、被害者保護を考えれば、まずはメーカーが責任を負い、その後に所有者に求償する形になると考えられます。
——自動運転で事故が発生した際の課題や問題点は何でしょうか。
国土交通省による「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」でいくつかの論点が提示されていますので紹介します。
「(a)自動運転においても自動車の所有者、自動車運送事業者等に運行支配及び運行利益を認めることができ、運行供用に係る責任は変わらないこと、(b)迅速な被害者救済のため、運行供用者に責任を負担させる現在の制度の有効性は高いこと等の理由から、従来の運行供用者責任を維持しつつ、保険会社等による自動車メーカー等に対する求償権行使の実効性確保のための仕組みを検討することが適当である」
つまり、第一次的な責任は運行供用者に負わせつつ、メーカーが責任を負うべき場合には、その運行供用者がメーカーに求償する形で解決するという提案です。
次に、「ハッキングにより引き起こされた事故の損害(自動車の保有者が運行供用者責任を負わない場合)」については、以下の考えを示しています。
「自動車の保有者等が必要なセキュリティ対策を講じておらず保守点検義務が認められる場合等を除き、盗難車と同様に政府保障事業で対応することが適当である」
つまり、ハッキングされた段階で盗難車と同じような扱いにして、運転者・所有者の責任を否定するという提案です。
しかしながら、ハッキングがシステムの脆弱性によるものである場合には、やはりメーカーが第一次的に責任を負うべきでしょう。また、あくまでも被害者保護のため、システム的な脆弱性がなかったことはメーカー側が主張立証する責任を負担すべきです。
さらに、「地図情報やインフラ情報等の外部データの誤謬(ごびゅう)、通信遮断等により事故が発生した場合、自動車の『構造上の欠陥又は機能の障害』があるといえるか」については、以下の考えを示しています。
「外部データの誤謬や通信遮断等の事態が発生した際も安全に運行できるべきであり、かかる安全性を確保することができていないシステムは、『構造上の欠陥又は機能の障害』があるとされる可能性があると考えられる」
研究会ではこのような考えが示されていますが、自動車という危険性が高いものを公道で走行させている以上、メーカーが相応の責任を負うものとすべきであり、被害者に過度の負担をかけることは絶対にあってはならないものと考えます。
——自動運転車の導入についてはどのように考えていますか。
安全運転支援技術や自動運転技術の導入は交通事故被害を激減させる有効な手段であると思います。
もちろん、導入によっても回避できない事故や導入により想像できない事故が発生することもあるかと思いますが、全体的に見れば、交通事故を激減させることができることは明らかです。
法整備上は複雑かつ困難な問題があるように思えますが、それにより安全運転支援技術の普及が阻害されることはあってはなりません。
——法整備を進めるうえで重要なことは何でしょうか。 現在の自賠法の理念でもある「被害者保護」の視点が必要だと思います。
自動車というある意味凶器にもなり得る存在が公道走行することを認めている以上、仮に事故が発生したときには被害者にできる限り負担を負わせるべきではないということです。
そのためには、自動運転下では、まずはメーカーが加入する自動車保険で対応するなど、迅速・安定的に被害補償する仕組みが必要であることは明らかです。
メーカーが責任を負うとなれば、保険代も車両代に含め、車両が購入される時にメーカーが自動車保険に加入して対応していくことになるでしょう。
何事にも言えることですが、想定外の事態を完全に回避するのは困難ですし、実際に運用していく中で見つかってくる問題点も沢山あります。
だからといって諦めるのではなく、現在考えられる限りの問題点について対応策を押さえたうえで、国外の事例の良い部分も取り入れながら、政府、メーカー、保険会社など官民一体となって合理的な制度づくりをしていくことが、自動運転車の普及、浸透につながっていくだろうと思います。
【取材協力弁護士】
和氣 良浩(わけ・よしひろ)弁護士
平成18年弁護士登録 大阪弁護士会所属 近畿地区を中心に、交通・労災事故などの損害賠償請求事案を被害者側代理人として数多く取り扱う。
事務所名:弁護士法人ブライト
事務所URL:https://law-bright.com/