2021年F1第3戦ポルトガルGPの後半、レッドブル・ホンダはセルジオ・ペレスに対して当初の予定よりも長く走るよう指示を出した。チームメイトのマックス・フェルスタッペンを助けることが目的であり、結局ペレスは51周をユーズドのミディアムタイヤで走行した。
終盤はバルテリ・ボッタス(メルセデス)とフェルスタッペンが、ファステストラップの1ポイントをめぐる争いを展開。緊張感の漂うレース後半を無線とともに振り返る。
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ルイス・ハミルトン(メルセデス)の勝利がほぼ確定したレース終盤は、メルセデスとレッドブルの間でファステストラップ獲得ドライバーに与えられる1ポイントを巡る攻防が繰り広げられた。
中盤35周目から37周目にかけて、トップ3を形成していたマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)、バルテリ・ボッタス(メルセデス)、ハミルトンが次々にピットに向かう。これでセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)が暫定首位に立つ。しかしスタートからずっとミディアムタイヤで走り続けていただけに、デグラデーションはかなりひどくなっていた。
ペレス:左リヤがどんどんひどくなっている
レッドブル:OK、チェコ
43周目のやり取りでは、ペレスの訴えに耳を傾けていたかに見えた担当エンジニアのヒュー・バードだったが、その3周後の46周目には、非情とも思えるこんな指示を出した。
レッドブル:僕らの目標はプランAプラス10周だ。
つまりミディアムで、あと10周延長して走れというのだ。この時点ではボッタスを抜いて3番手に浮上できる可能性はほぼ消えていたが、実質的に首位を走るハミルトンの前に立ち塞がって、フェルスタッペンが追いつくのを助ける役目が残っていた。
50周目にはさらに、「チェコ、延長だ」と、さらに走らせ続けようとした。しかしさすがのペレスも、もう限界だった。直後のメインストレートでDRSを使ったハミルトンに、あっさり抜かれていった。
ハミルトン:ブルーフラッグだろ?
メルセデス:いや、彼とは(同一周回で)レースしている
「ブルーフラッグだろ?」とハミルトンが訴えたのは、自分の前を走るペレスが周回遅れだと勘違いしたのか。あるいはなかなか抜かせてくれないペレスに対する嫌味だったのか。ペレスはそのあとすぐ51周目に、ピットに向かった。中古のソフトタイヤしか残っていなかったものの、55周目にそれまでハミルトンの持っていた最速タイムを0.39秒も縮めて見せた。
すると62周目、3番手を走るボッタスに、ピットからこんな指示が飛んだ。
メルセデス:バルテリ、プッシュし続けろ。フリーストップができるからね
この時点で、ペレスは27秒後方。ピットインによるロスタイムは、約25秒。ピット作業でミスを犯さない限り、ピットインしても順位をキープできる、いわゆるフリーストップできるマージンはある。そして63周目に新品ソフトに履き替えると、1分19秒865のファステストを叩き出した。
しかしボッタスのピットインのタイミングは、1周早すぎた。レッドブルはすかさずフェルスタッペンをピットに呼び、中古ソフトながら1分19秒849でファステストを奪い返した。
チェッカー1周前の65周目、担当エンジニアのピーター・ボニントンは、ハミルトンにこう伝えた。
ボニントン:バルテリもフェルスタッペンも、ファステストを出そうとピットに入った。
ハミルトン:僕らも行く?
ボニントン:どっちがいい?
ハミルトン:いや、やめとこう
いずれにしてもハミルトンがピットインするタイミングは、もう過ぎていた。一方、ファステストを奪ったレッドブル陣営は歓喜に沸いた。
レッドブル:よくやった。パープル(最速)だ。1ポイント獲得だ
フェルスタッペン:簡単じゃなかったよ!
しかしターン14ではみ出しており、最終的にボッタスのタイムが最速と認定された。
ハミルトン:みんな、ありがとう。まだ攻め続けないとね。やるべきことは山ほどある
メルセデス:ああ、みんな承知している
最後は独走体制でチェッカーを受けたにもかかわらず、「やるべきことは山ほどある」と、完璧を追い求める。このあたりがハミルトンの底知れぬ凄さなのだろう。