モータースポーツの「歴史」に焦点を当てる老舗レース雑誌『Racing on』と、モータースポーツの「今」を切り取るオートスポーツweb。
両者がコラボしてお届けするweb版『Racing on』では、記憶に残る数々の名レーシングカー、ドライバーなどを紹介します。第7回目のテーマはル・マン24時間に挑んだトヨタ・スープラLM GTです。
* * * * * *
2021年のスーパーGT開幕戦において、脅威的な強さと速さを見せたトヨタGRスープラ。GRスープラは、そのGT以外にもGT4マシンが海外のカテゴリーで走り、戦いの場を世界へと広げている。
そんなスープラだが、実はJZA80時代には、2年間、ル・マン24時間レースの総合優勝を争うクラスに参戦していたことがあった。それがこのスープラLM GTだ。
1995年、それまでのメインカテゴリーだったスポーツプロトタイプのグループCカーから一転、規定によりホモロゲーション用のストリート車両があることが前提のGTカーカテゴリー『GT1』が新たなル・マンのトレンドとなった。
このGT1に日本のメーカーからホンダはNSX、日産はGT-Rとそれぞれのフラッグシップモデルをベースにマシンを仕立て参戦。トヨタもこの流れに乗り、当時JGTCに参戦していたJZA80型のスープラを持ち込んで、ル・マンのGT1クラスへと挑んだ。
このスープラLM GTは、基本的には2.1リッターの3S-GTを搭載するJGTC仕様である。マシンも5月のGT富士を走ったものをル・マン用にコンバートし、さらにル・マンが終わるとまたGT用に戻していたほどだった。
ル・マン用のモディファイとしては、まずターボ径やリストリクター径をGT1規定に合わせて大型化。これにより最高出力は決勝で600ps、予選で700psを発揮していたとされる(JGTC仕様は実質420ps程度)。
さらに、前後の車軸間がフルフラットでなければならなかったため、床下に3ピースのカーボンパネルを装着。そのための熱対策としてドア下、リヤバンパーサイドにエアインテーク、アウトレットを設け、ブレーキにはカーボンディスクを採用するなどの改造が行なわれた。
こうして挑んだ1995年のル・マンだったが、予選はクラストップから約15秒遅れのクラス21位/総合31位。決勝では、トランスミッション交換で1時間以上をピットで過ごすことになり、クラス8位/総合14位でチェッカー。
無事に完走は果たしたものの、この年に総合優勝を果たしたマクラーレンF1 GTRなど、トップクラスのマシンには大きく水を開けられてしまった。
翌1996年、エアロパーツのアップデートなどを受けた熟成版で再びル・マンへと挑戦するが、この年はポルシェ911 GT1が登場し、GT1マシンの“過激化”が始まった年で、911GT1がLMP1車両とほぼ同等のラップタイムを記録するほど競争は激化。もちろんスープラもポテンシャルアップは果たしていたが、もはや勝負にならなくなっていた。
この2年を最後にスープラでのル・マン挑戦は終了。本気になったトヨタはGT1の究極系『TS020』を開発、1年のブランクを置いて再びル・マンの総合優勝戦線へと殴り込みをかけるのだった。