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社会人×女子高生の“年の差”だけど安心安全? 『恋と呼ぶには気持ち悪い』の平和な世界

2021年05月03日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

社会人×女子高生“年の差”ラブコメ『恋きも』の平和な世界

 この原稿を書いてる前日、『SNS-少女たちの10日間』というドキュメンタリー映画を観てきました。成人した女優3人が12歳の少女と偽ってSNSのアカウントを作ったところ、たった10日で2458名もの成人男性たちがアクセスしてきて、性的な要求をしたり、脅迫したりしてきたというもの。想像を絶する性的虐待の数々に、むちゃくちゃ気分が悪くなってしまった。優しげな会話を交わす理由は、ぜんぶ自分の欲求を満たすため。過去のセクハラ被害や元カレからの無神経な言葉を思い出したりして、すっかり鬱になって映画館から出てきました。


 いきなりまったく関係のない映画の話から始まりましたが、『恋と呼ぶには気持ち悪い』は、出だしがちょっと気持ち悪かった男性の物語です。


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 エリート会社員(たぶん)の天草亮さんは、体調が悪くて階段から落ちそうになったところを女子高生の一花に助けてもらいます。偶然一花は亮の妹と同じ高校で仲良し、その日の夜に自宅で2人は再会します。


 亮は誰もが憧れるイケメンで、なんの会社に勤めてるのかよくわからないけど仕事はできるっぽくて、勉強も何でもできるらしい。非の打ち所がないのでむちゃくちゃ女にモテるため、むちゃくちゃ女を舐めておりました。なので当然、自分のサービスは女が喜ぶと思っているわけです。で、助けてもらったお礼として一花に「キスとかは?」と提案するんです。


「あ でもキスだといきなりレベル高いかな 高校生だと。デートからがいい?」


 一花の返事はズガンと「気持ち悪い」です。うん、気持ち悪いよね。10歳も年上の男が、女子高生に性的ワードを発するだけで気持ち悪い。誰もが同じ感覚なんじゃないでしょうか。ところが思ったことをズバズバ口にする一花に、亮は一発でメロメロになるんです。えっそれだけで……?


 この物語は、「出だしだけ気持ち悪かったけど、あとは誰も傷つかない物語」です。このあと亮は、ひたすら一花を追いかけ回します。


 いや、普通に考えると、女子高生を「運命の人」とか言ってる社会人、気持ち悪いです。冒頭の映画のように、世の中には、御しやすいから若い女がいいというようなのもいるわけです。だけど亮さんは、一花に劣情を催すことはありません。ただキュンキュンするだけなんです。しかも一花は、模擬国連に出てガンガン意見しちゃうようなものすごいスーパー高校生でもなくて、普通の、普通の女の子です。


 そんな一花に亮さんは心酔しきっていて、一切気持ち悪いことをしないままです。性的表現ほぼゼロです。ものすごい下からで、もう下僕のよう。一花はお風呂も覗かれないし、ジャケットすら脱がない。制服という鎧にガッチリ守られているんです。お父さんお母さん、安心して娘さんに読ませてOKです。


 親戚の女子高生を追いかけ回す教師の話みたいに、ひたすら欲情して押し倒して「喉からちんこが出そうです」とか言わないし、親の都合で同居した高校生同士みたいに、好き合ったけど姉弟疑惑が持ち上がったりしないし、修学旅行のバスが谷底に転落してサバイバルが始まったりしないし、バイクで事故って5mそらを飛んだりもしないし、相手が病気で死んじゃったりもしません。


 平和です。悩みごとは恋愛がらみ、だけど性的なトラブル一切なし、てか「去勢されてるのかな」くらい男子が大人しい。安全です。いいな~、こういう平和な世界! 最近、忘れ果てていた気がします。


 まあちょっと気になってるのは、一花のプレセント。最初に助けてもらったお礼にキスを提案されて、「助けてもらったお礼が自分ってなに考えてるんですか?」とか激烈に批判してたのに、亮さんに、迷った挙げ句にハグをプレゼントするってくだりがあるんですよ。お礼に自分はダメだけど、プレゼントに自分はOKなんですか……?


 「ハグをプレゼントしよう」って、そこにものすごい価値があると確信しているのってことですよね。昔、知恵袋かなんかで「嫁の誕生日に何を贈ろうか考え、『そうだ健康な自分をプレゼントしよう』と思って、フルマラソンに出場しましたが、その日から嫁の機嫌がよくありません」みたいなのがありました。もちろん回答欄ではメッタ斬りにされてましたが、これが夫婦じゃなくて、付き合う前の男女なら「君のために走る!」とかいって物語になったのかな、とも思います。


 亮さんや一花の純粋さがまぶしいです。


(文=和久井香菜子)