2021年05月03日 08:31 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの影響で、家飲み需要が増えている。お酒を販売する小売店にとっては商機でもあるが、思わぬ落とし穴にはまってしまった店舗もある。
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西日本のあるコンビニオーナーは2020年6月、成人男性に酒を販売したところ、警察から度重なる取り調べを受け、「未成年者飲酒禁止法」に違反する疑いがあるとして書類送検されてしまった。
男性が一緒に来店していた未成年者らに飲ませ、そのうちの一人が急性アルコール中毒で病院に搬送されたからだ。
このほど、「不起訴」になったものの、処罰されていれば、コンビニ本部から契約解除される可能性もあり、気が気ではない1年だったという。
マスクで相手の顔も見づらいこのご時世。オーナーは、「飲ませた本人にはおとがめなし。同伴者にまで年齢確認するのは現実的ではなく、店のリスクが高すぎる」と訴える。
来店したのは、若者グループ4人。うち1人がウイスキー瓶1本などを持って会計にやってきた。レジを担当したのは、オーナーとアルバイトの女性(未成年)だ。
「代表の子は成人のように見えたので、身分証は確認せず、生年月日を聞きました。他の店舗にもあると思いますが、レジ横の年齢早見表を確認しながら、相手に和暦や西暦、干支を尋ねるんです」
オーナーによると、年齢確認にもレベルがある。たとえば、レジの「本人確認ボタン」を押させるときはほとんど疑っていない。逆に疑いが強いときは身分証を求めるし、今回のように生年月日で済ませることもある。
オーナーは、代表者が20歳だと答えたので、酒を販売した。警察から聞いたところによると、ウソは言っていなかったようだ。ただし、同行していた3人は未成年だった。
来店から2~3日して、警察から「急性アルコール中毒」について連絡があった。警察の取り調べは数度にわたった。
「警察は、急性アルコール中毒になった子のことを『被害児童』(編注:小学生だったわけではない)と呼んでいました。こっちが完全に悪いという立場」
特に厳しかったのは、未成年だった女性アルバイトに対してだったという。
「1度に6時間とか。威圧的な態度で、何度も同じ質問をされる。ちょっとでも答えが違うと、嘘つき呼ばわり。毎回、取り調べ前には、所持品検査され録音機がないか確認されたそうです。
聴取後、号泣しながら『全部「はい、はい」と言って、早く出たかった』と言われ、申し訳ない気持ちになりました。こうやって人は心理的に追い詰められるんだなと思いました」
処罰されれば、店がなくなるかもしれないとあって、女性にも心理的プレッシャーがかかっていたと思われる。現在もアルバイトは続けているがシフトは激減してしまった。
また、オーナーは「任意」で警察に写真と指紋をとられた。
「『応じないといけないんですか』と聞いたら、『困ることあるんですか』と返された。ずっとデータベースに残るわけでしょ。犯罪者扱いされて、気分が悪いに決まっているじゃないですか」
とはいえ、応じないわけにもいかない圧を感じ、しぶしぶ同意した。
「未成年飲酒禁止法」では、未成年に酒を販売することが禁じられている。買った本人だけでなく、未成年が飲むかもしれないと知りながら売った場合もアウトとされる。
「私の認識・確認が甘かったのは認めます。ただ、これを厳格に運用しようとしたら、親子で来店した場合とか、線引きが難しくはないでしょうか。
実際、購入する本人に対してすら、常に身分証を求めている店は恐らくないわけで、同伴者全員に年齢確認するのも現実的ではないと思います」
いっぽう、未成年に飲ませた側の罰則については、「親権者」と「監督代行者」にしかない。今回のように年長者が飲ませただけでは、よほどの事情がない限り、適用されないと考えられる。
「(強要などがなければ)飲ませた側へのおとがめがないのなら、結局誰を守りたいのかよく分からない。見せしめ的に店を取り締まったって、別のところに行けば買えてしまう。それに未成年者が店の外で待っていたら、どうしようもないわけでしょう」
コロナ禍以降は、マスクで人相が分からないことも多い。オーナーですら迷うのだから、経験の浅いアルバイトが未成年者を見分けるのは困難だろう。
成人しているのに疑ったり、未成年に飲ませる恐れがあるとして販売を断わったりすれば、店が客を失うかもしれないし、クレームやカスハラ(カスタマーハラスメント)にさらされる可能性もある。「売る側の責任」だけを言っても、現実的には解決できないのではないだろうか。
「未成年を守るというのなら、taspo(タスポ)のように、店で酒やタバコを買うときのライセンス制も検討してほしいです」
明らかに成人していると思われる客に対しても、コンビニが機械的に年齢確認をすることが批判されることもあるが、今回のようなケースからもその理由がうかがえそうだ。