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銭湯で「泣かせないで! 連れてくるな」と子連れを罵倒する老婆 法的措置をとれる?

2021年05月03日 08:31  弁護士ドットコム

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子連れで銭湯に行ったら、高齢女性から至近距離で怒鳴られ続けた——。こんな体験をした女性から弁護士ドットコムに相談が寄せられました。


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女性は「子どもに優しい」という口コミを見て、幼児2人と一緒に銭湯に行きました。下の子どもがグズって泣き始めたため、お湯に浸かったら早々に出ようと考えていました。



すると、常連客と思しき高齢女性が「うるさい!泣かせないでよ」と洗い場で桶や椅子をぶつけ大きな音を立てながら怒鳴ってきました。



さらに、同じ浴槽にまで入ってきて、「泣くなら来なくていいんだよ!うるさい」「みんな迷惑してるんだよ!連れてこないでよ!」「泣いてんじゃないよ」と何度も子どもを怒鳴りつけてきたといいます。



女性はわずか1分程度であがりましたが、その後子どもの髪を乾かしている間も、高齢女性が隣にきて睨み付けてきました。



この恐怖体験により、女性と子どもたちは、心身に異変をきたすようになってしまいました。女性は「思い出すだけで涙が溢れて気分が落ち込み生活もなんとかできている」状況だと吐露します。



女性はこの高齢女性に対して、法的措置を求めることはできるのでしょうか?大橋賢也弁護士の解説をお届けします。



●解説のポイント

・刑事事件にするには立証のハードルがある
・民事事件で損害賠償請求ができるが、因果関係を立証しなければいけない
・裁判のメリットデメリットを考える必要がある





●傷害罪にあたる可能性

何とも悲しいご相談だと思います。いつからこのようなことが起こるようになったのでしょうか。法律の面から今回のケースを考えてみることにします。



まず、刑事の側面では、女性と子どもたちが、高齢女性に怒鳴られたりしたことが原因で心身に異変を来してしまったということなので、高齢女性の行為は、傷害罪(刑法204条)に該当する可能性があります。傷害罪は、暴行によらずに怒鳴ったりして、相手方の心身に異変を生じさせる場合にも成立します。



ただし、この場合は、高齢女性が、親子の心身に異変を生じさせるという傷害結果の発生を認識・認容していたことが必要になります。この立証が難しいため、実際に高齢女性のような行為をした人が、傷害罪で処罰されるケースは少ないように思います。



どうしても納得ができず、警察に被害届を出そうと考える場合は、医師の診断書を取得する必要があります(ただし、警察が被害届を受理するかという問題もあります)。



その際には、傷害行為と傷害結果との因果関係を明確にするために、心身に異変を生じさせた原因についても、医師に具体的に記載してもらうと良いです。



●民事訴訟は?

次に、民事の側面では、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)が問題になります。



高齢女性は、親子に対して執拗に怒鳴ったり、睨み付けるなどして、その結果、親子が心身に異変を来すようになったとのことなので、高齢女性は、「故意」によって、心身に異変を来すことなく健康に生活するという親子の「権利」を侵害したといえます。



その結果、親子が心身に異変を来すという「損害」が発生しているので、高齢女性の行為には、不法行為責任が成立するでしょう。



●因果関係を立証する必要がある

親子に生じた損害額は、治療費、通院交通費、慰謝料(通院日数による)などにより決められます。今回のケースで実際に裁判までするかと言われると疑問もありますが、裁判を起こす場合は、立証責任の問題が生じます。



つまり、高齢女性の行為をどのように立証するのか(目撃者の協力を得られるか、防犯カメラに写っているかなど)、高齢女性の行為と損害との因果関係をどのように立証するのか(診断書があるのかなど)といった問題があります。



●裁判のメリットデメリット

実際に法的措置を講じるかどうかは、メリット(加害者に法的責任を取らせる、納得するまでやったという達成感を得るなど)とデメリット(費用や時間がかかる、ストレスを更に抱える危険性があるなど)をよく考えて、決めることになります。



私は、親子の心身の不調が少しでも早期に和らぎ、平穏な生活を取り戻すために、今回は法的措置を講じるのではなく、できるだけ早く忘れるように努めた方が良いのではないか、と考えます。



子どもが銭湯で走り回るなど、周りの客に迷惑をかけたり、ケガをする危険がある行為をしている場合は、大人が注意しなければならないでしょうが、泣いている子どもやその親に向かって「うるさい」「泣くな」「連れてくるな」などという暴言を吐く神経がよく分かりません。



うるささの程度にもよるでしょうが、ある程度は大人が我慢して温かい目で見る必要があるでしょう。このようなことがなければ、親子は今後も銭湯を利用していたでしょうが、今後利用しないとなると、銭湯としても迷惑を被っていると思います。




【取材協力弁護士】
大橋 賢也(おおはし・けんや)弁護士
神奈川県立湘南高等学校、中央大学法学部法律学科卒業。平成18年弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。離婚、相続、成年後見、債務整理、交通事故等、幅広い案件を扱う。一人一人の心に寄り添う頼れるパートナーを目指して、川崎エスト法律事務所を開設。趣味はマラソン。
事務所名:川崎エスト法律事務所
事務所URL:http://kawasakiest.com/