2021年05月02日 09:11 弁護士ドットコム
実の妹に両親の遺産を7000万円も使い込まれたという人から、弁護士ドットコムに相談が寄せられました。
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相談者の女性によると、両親はすでに逝去。父が亡くなってから母が亡くなるまでの12年間で、妹は7000万円近いお金を使っていることが判明しました。「無職学生のようなことをし、バイトもせず、東京一等地のマンション暮らし」だったそうです。
7000万円は父からの相続だとすると、本来はこのうちの半分は母、残り半分は相談者と妹の2人で分配すべきお金のようにも考えられます。
すでにお金を使い込まれてしまった場合、相談者は泣き寝入りするしかないのでしょうか。高島秀行弁護士の解説をお届けします。
・父の遺産分は時効にかかっている
・母の遺産相続で有利になるかは未知数
・時効にかかる前にすぐに弁護士相談を
——父が亡くなったのは12年前のことですが、父が残した7000万円について、相談者はさかのぼって分配を主張できるのでしょうか。
父の死亡後、預金などを全て下ろしてしまい7000万円の遺産を独り占めした場合、本来、母2分の1、相談者4分の1、妹4分の1の相続分があります。
そのため、母の相続分2分の1、相談者の相続分4分の1に従い、母には3500万円の、相談者には1750万円の不当利得返還請求権が発生します。
しかし、不当利得返還請求権の時効は、妹が預金を下ろして利得したときから10年(改正民法施行前)です。そのため、12年経過しているとすると、既に時効にかかってしまっています。
ただし、妹が預金を下ろしてから10年経過していない部分があれば、その金額の2分の1を不当利得返還請求することができます。(2分の1なのは、相談者の元々の相続分4分の1と母の相続分2分の1のうち相談者が相続した2分の1(4分の1)を合計したものです)
——本来、母親が相続したはずの3500万円を妹が使っていた場合、母親の遺産相続において相談者が有利となるような協議を進めることはできるのでしょうか
この3500万円が母親から妹への特別受益と考えられるかどうかを検討します。
特別受益は、被相続人から財産を贈られるなど特別の利益を受けた人がいる場合、その相続人が受けた利益のことを言います。特別受益とされるのは、生計の資本として贈与されたものに限られるとされています。
そうなると、妹が無断で父の遺産を下ろして使っているのは、贈与ではないので、特別受益にならないこととなります。
ただ、母親が不当利得返還請求権があったにもかかわらず、時効にかかってしまい消滅させてしまったことは、贈与と同じとも考えられます。
そうすると、不当利得返還請求権を時効にかけたことが特別受益と評価される可能性もあります。しかし、このような解釈は過去の判例でも見当たりませんので、裁判所で通る可能性もありますが、通らない可能性もあります。
特別受益であるという主張が裁判所で認められれば、他に遺産があれば遺産に加算して、法定相続分で分け、特別受益分は妹の相続分から引くこととなります。
例えば、お母さんの残した遺産が3500万円あれば、妹の特別受益3500万円と合計して7000万円が計算上の遺産となり、その2分の1である3500万円を相談者と妹が相続することとなりますが、妹は既に3500万円を特別受益で得ているので、妹の相続分は0円となり、相談者は母の遺産から3500万円を相続できるということとなります。
特別受益であるという主張が認められなければ、父の遺産を使い込まれたことについては、10年経過していない部分があれば前に説明したとおり不当利得返還請求ができますが、10年以上経過した部分については泣き寝入りということとなってしまいます。
このようなケースでは、12年も放置せず、すぐに弁護士に相談依頼していれば、泣き寝入りをせずに済んだと思います。10年経過していない部分がある場合は、直ぐに時効の中断をしないと時効にかかってしまう可能性もあることから、すぐに弁護士に相談し依頼した方がよいと思います。
【取材協力弁護士】
高島 秀行(たかしま・ひでゆき)弁護士
「ビジネス弁護士2011」(日経BP社)にも掲載され、「企業のための民暴撃退マニュアル」「訴えられたらどうする」「相続遺産分割する前に読む本」(以上、税務経理協会)等の著作がある。ブログ「弁護士高島秀行の遺産相続・遺留分の解決マニュアル」を連載中。
https://souzoku-soudan-bengoshi.jp
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com