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OKAMOTO’S オカモトショウ新連載「月刊オカモトショウ」第1回:SF×ハードボイルドな世界観の『虎鶫』を語る

2021年04月29日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

オカモトショウ/写真=池村隆司

 ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカルとしてマルチに活躍するオカモトショウ。音楽活動のかたわら、高校時代から現在に至るまで漫画雑誌を読み続けてきたほどの”漫画ラバー”だ。本連載ではオカモトショウが愛する名作マンガ&注目作品を月イチでご紹介。作品の見どころや、おすすめのポイント。さらに作中に登場するお気に入りのセリフや、読みながら聴きたい名盤まで、マンガ愛を縦横無尽に語り尽くす。記念すべき第1回はSF×ハードボイルドな世界観で注目されている『虎鶫〈とらつぐみ〉 -TSUGUMI PROJECT-』の魅力に迫る(編集部)


●オカモトショウのマンガ遍歴


——OKAMOTO’Sのボーカル、オカモトショウさんがおすすめマンガを紹介する「月刊オカモトショウ」、ついにスタート! 初回ということで、まずはショウさんのマンガ遍歴を教えてもらえますか?


オカモトショウ(以下、ショウ):17才のときから、ずっと週刊誌を読んでいます。高校生のとき、友達が買ってきたマンガがたくさん回ってきて、「週刊少年ジャンプ」「ヤングジャンプ」「ヤングマガジン」「少年チャンピオン」「ヤングチャンピン」をずっと学校で読んでいたんです。卒業してからも、新しい号が出ると気になって、その5誌を読み続けて、そのまま30才になりました(笑)。10年くらい週刊誌を読み続けるうちに、宝島社の「このマンガがすごい!」の入賞作が予想できるようになってきたりもして、人にも「あのマンガ読んだ?」って勧めることが増えて、こんな連載にまでつながりました。ありがたいです。


——現在も新しいマンガをチェックし続けているんですね。


ショウ:はい。友達に勧められた昔の名作も読んでいるし、ライブラリーは広がり続けています。ジャンルでいうと、SFが好きですね。特に『銃夢』(木城ゆきと)、『BLAME!』(弐瓶勉)、『風の谷のナウシカ』(宮崎駿)、『攻殻機動隊』(士郎正宗)は最高です。この4作に並ぶような新しい作品を常に求めてます。SFに限らず、いろんなマンガが好きなんですけどね。


●SF×ハードボイルド作品の魅力とは?


——では、記念すべき第1回に取り上げるマンガを教えてください。


ショウ:最初にどのマンガを紹介するか、めっちゃ考えましたね(笑)。“13年間、週刊連載を読み続けてきてしまった男が、現在進行形のマンガを中心に紹介する”というのが持ち味だと思うので、初回は始まったばかりの作品にしようと思って、『虎鶫〈とらつぐみ〉 -TSUGUMI PROJECT-』(ippatu)を選びました。


——今年1月から「週刊ヤングマガジン」で連載がスタートした『虎鶫。作者は、“真心一芭”名義でも活動しているippatu先生です。


ショウ:まだ単行本も出ていないマンガなんですけど(第1巻6月4日発売)、フランスで先に連載が始まって話題になっているらしくて。「webで人気」とか「別冊で評価されて」というのはよくあるけど、海外先行って珍しいですよね。で、読み始めてみたら毎週面白くて……まだ始まったばかりだから、「おもしろそう」が正しいところなんだけど(笑)。SF、ハードボイルドの要素が詰まっていて、かなり濃厚な作品ですね。


——『虎鶫』の舞台は、核戦争で崩壊し、放射線で200年立ち入れなかった日本。無実の罪で死刑を宣告されたフランス人のレオーネが極秘任務を背負わされ、魔境となった“旧日本”に送り込まれる、というストーリーです。


ショウ:かなりハードボイルドですよね。主人公は冤罪で、どうやら切ない過去がありそうだし。“核戦争で壊滅した日本”とか“極秘任務のために送り込まれる”というのはよくある設定なんですけど、めちゃくちゃ個性的だなと思うのが、ヒロインの少女“つぐみ”ですね。放射能に汚染された土地で生きているんですけど、足だけが“鳥”で。このキャラクターデザイン、手塚治虫の影響を感じるんですよね。たとえば『ブラック・ジャック』のピノコもそうですけど、ちょっと変わった美少女の流れを感じるというか。


——“つぐみ”も異形の美少女ですね。


ショウ:手塚フォロワーっぽい作家さんって、マンガ全体が手塚治虫っぽくなることが多いんですが、『虎鶫』はそうじゃない。手塚っぽいのは“つぐみ”だけで、他のキャラクターは全然違う雰囲気なんですよ。ルーツを抑えつつ、今の時代に合った新しいものを描こうとしているし、そのバランスもいいと思います。ちなみに自分が音楽をやるときも、そういうバランスは意識していますね。


——自分のルーツをどうやってアップデートさせるか、と。絵のクオリティに関してはどうですか?


ショウ:絵柄がカッコいいし、オリジナルな感じもありますね。“核戦争後の荒廃した世界”って言葉にするのは簡単だけど、それをマンガのなかでリアルに表現するのは難しい。でも、本作は見事に表現していて、引き込まれました。風景の書き込み方がすごくて、情報量も多いんだけど、キャラクターはシンプルに見せているのもいいですね。あと、風呂敷の広げ方がちょうどいいんですよ。


——風呂敷の広げ方というと……?


ショウ:これから明かされていくであろう謎が上手く散りばめられてるんですよね。つぐみは巨大な虎と一緒に行動してるんだけど、少女と肉食獣の絆がなぜ生まれたのか。つぐみに親はいるのか。その他にも「放射能で汚染された日本に住み着いている原住民は何者なのか」「そもそも主人公が探している機密文書とは?」とか、この先、どう転んでもおもしろくなりそうだなと。まだ何も明らかになっていないので、すべてはこれからなんですけどね。あと、このマンガに限らず、優れたSFマンガは、今の世の中の何かと必ず結びついているんですよ。新しいテクノロジーなのか、現代にある問題なのかわからないけど、『虎鶫』でも今の社会とリンクする部分が描かれると思うし、それが物語のコアになるんじゃないかなと。もちろん“つぐみ”の出生の秘密にも関わってくるだろうし、楽しみですね。


——主人公に仲間ができて、つぐみたちとも合流して。本誌ではやっとストーリーが動き出したところですからね。


ショウ:最初は絶望しかなかったけど、ちょっと希望が見えてきたというか。主人公とつぐみの関係も気になりますね。つぐみはか弱い少女ではなくて、敵と戦ってもめっちゃ強いんだけど、(主人公との関係は)映画『レオン』みたいになっていく気もするので。


——SF、ハードボイルド、バトル、サバイバルと多彩な要素が混ざっているし、かわいい女の子も登場するし、いろいろな楽しみ方ができそう。


ショウ:しかも奇をてらっていないというか、新しい王道をどうやって作るか? みたいなところも感じますね。大きくバケる可能性もあると思うし、それこそ『銃夢』『BLAME!』『風の谷のナウシカ』『攻殻機動隊』に並ぶような金字塔になるかもしれないなって。これが「ヤンマガ」で連載されてるのもおもしろいですね。週刊マンガ誌の編集者の攻めの意識が伝わってくるし、最近始まった新連載のなかにも、良さそうなものがかなりあって。紹介したいマンガはめちゃくちゃあるし、読者としても楽しみですね。マンガ界の未来は明るいと思います!


——では最後に本作のお気に入りのセリフのご紹介をお願いします!


「…あの笑顔


マリ…


お前はオレの太陽だった


殺戮の世界から


オレを出してくれた…


オレの太陽」


ショウ:サバイバル中、仲間が寝たあと、焚火を見ながら呟くセリフですね。この主人公は冤罪で投獄されていて、遠くから愛する女性を思っているっていう……。かなりベタなハードボイルド感があるけど、こうやって一人で浸るのもいいですよね(笑)。


●『虎鶫』を読みながら聴きたい名盤をオカモトショウがPICK UP!


『おせっかい』(「Meddle」)/1971年


 プログレッシブ・ロックを代表するグループ、ピンク・フロイドの6thアルバム。日本でもシングルヒットした「吹けよ風、呼べよ嵐」(「One Of These Days」)、23分に及ぶ大曲「エコーズ」(「Echoes」)などを収録。


 SF的な雰囲気があって、サイケデリックで、生々しさもあって。『虎鶫』に通じるところが多いアルバムだと思います。1971年にポンペイの古代遺跡(円形演技場)で撮影されたライブ映像があって、「エコーズ」を演奏しているんですけど、その映像も『虎鶫』のイメージにぴったりですね。


■オカモトショウプロフィール
中学校からの同級生で結成された4人組ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカルとしてマルチに活躍。ニューヨーク出身で、父は世界的サックス奏者であるスコット・ハミルトン。4月28日には初のソロアルバム「CULTICA」の販売&配信をスタートした。