トップへ

高校生の日常描く『スキップとローファー』はなぜ大人に支持された? 清涼感あるノスタルジーの魅力

2021年04月28日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 「このマンガがすごい!2020」オトコ編や「マンガ大賞2020」にランクインした『スキップとローファー』。石川県の小さな町から東京の進学校へ入学した「岩倉 美津未」を中心に高校生の群像が描かれる作品である。クラスで一目置かれる男の子「志摩 聡介」をはじめ美津未が様々な登場人物と関係を築きながら物語は進んでいく。


 『スキップとローファー』は青年向け漫画雑誌「アフタヌーン」にて2018年より連載を開始した。同誌では高校生が主人公として描かれる作品も掲載されるが、多くはスポーツや恋愛などに物語の主軸が置かれている。本作の注目すべきところは登場人物の織り成す高校生活に焦点を当てた作品ながら、青年誌の読者から支持を得ている点である。


 入学式や教室で行う自己紹介など、本作で描かれるのは学校生活における日常。自己紹介の練習に励み寝不足で目の下に深いクマができてしまうなど、作中のエピソードは共感を覚えつつ可笑しさも感じられる。


 描かれる高校生活のユニークさもさることながら、特筆すべきは作者の高松氏が描く高校生活の解像度の高さである。それを象徴する一コマが入学したばかりの女の子6名で昼食を食べる場面だ。風呂敷をお弁当の下に広げて食べる人や、コンビニで購入したと思われるサンドウィッチを食べる人など、彼女たちの昼食には十人十色の個性が表れる。


 キャラクターの個性がうかがえる光景やお互いの距離感がわかる会話など、解像度の高い描写から作品にリアリティが生まれる。まるで現実に存在するような高校生活の日常から、高校を卒業して大人になった読者は学生時代の懐かしさを感じることができるのであろう。


 青春の代名詞である高校生活だが、現実には人間関係がもたらす「いざこざ」も存在する。リアリティを追及する程、思春期特有の生々しい悩みを描くことからは逃れられない。


 作者の高松美咲は学生時代、クラスメイトに対し怖さを抱いていたという。しかし教育実習で中学校を訪れた際、自身の視点の偏りに気づいた経験が本作に影響を与えたことをWebメディア「コミスペ!」に掲載されたインタビューで明かしている。



“自分が学生時代にこういうフラットな目線を持っていたら、もっと別の友達ができてたんじゃないかなっていう気持ちもあって、漫画の中に違う境遇の子をいっぱい置いてみて、何でそうなっちゃったのかとか、どういう家庭環境とか中学時代を過ごしたのかを逆算して考えています。”


(【インタビュー】『スキップとローファー』高松美咲「王道な少女漫画設定を入り口に、心の機微を軽やかに描きたい」)



 美津未の周りには、そんな高松氏の思いが感じ取れるキャラクターが多く登場する。


 美津未の友人となる「久留米 誠」はギャルやイケメンに群がる人とは仲良くなれないと感じる内気な女の子。またクラスメイトの「江頭 ミカ」は学年屈指のイケメンと称される志摩聡介を気にかけており、彼と仲の良い美津未に対し、意地悪と感じ取れる発言をする女子高生として描かれる。


 鬱々たる側面をもつ彼女たちをフラットな目線で見ている存在こそ、物語の中心にいる美津未だ。


 球技大会の練習をするため美津未が指導をお願いしたのは、自身への当たりが強いと感じていた江頭さんであった。美津未は彼女に対し忌憚なく正直な意見を話してくれる人だと感じていたため指導をお願いしたと話す。


『スキップとローファー』5巻(講談社)

 また江頭さんの教え方がわかりやすいことから、美津未は(江頭さんが)すごく練習したことがわかるよと語りかける。まるで、キラキラした同級生たちと関係を持つためにバレーボール部に入ったり、太らないようにお弁当箱を小さくして努力してきた彼女の心を見透かすように。


 解像度の高い描写に加え、思春期を迎えたキャラクターの生々しさが作品のリアリティを生み、読者はある種のノスタルジーを感じる。本作から得られるノスタルジーに清々しさを覚えるのは、田舎から上京してきた美津未がもつフラットな目線のおかげだ。登場人物の未熟な一面を美津未が美しさと捉えることで、読者もキャラクターを愛おしく感じることができるのである。


 美津未たちが織り成す、鮮明で、生々しく、そして美しい高校生活。彼女たちのリアルな日常から生まれる清涼感あるノスタルジーこそ、本作が青年誌の読者に支持される理由なのだろう。


■あんどうまこと
フリーライターとして漫画のコラムや書評を中心に執筆。寮母を務めている。