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『東京卍リベンジャーズ』は2020年代の『SLAM DUNK』? 両作の共通点を探る

2021年04月28日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『東京卍リベンジャーズ(22)』

 実写映画化作品の主演は北村匠海ではありながら、何なら的場浩司の顔を思い浮かべる読者もいるんじゃないだろうか。


 映画化だけでなくTVアニメ化も果たした、累計600万部突破の話題作『東京卍リベンジャーズ』(以下『東卍』/和久井健)。ひと言で言えば、ヤンキー漫画にしてタイムリープものということになるが、往年の読者にとっては『代紋TAKE2』(木内一雅・渡辺潤)が思い出されるところだろう。惨めな最期を迎えたヤクザが10年前に舞い戻って、人生をやり直す……という本作のTVドラマシリーズで主演を務めたのは、そう、的場浩司!


 そんなふうに書き連ねると、『東卍』を未見の読者は本作もまた昔気質の作品と想像されるかもしれない。いや、否だ。一連のヤンキーアクションとも、またSFものとも一線を画すのが本作。新しくも懐かしいのが、その魅力だ。


※以下、ネタバレを含みます。


関連:『SLAM DUNK 新装再編版(1)』(集英社)表紙


■それぞれの強さを追求


 現在はフリーターをしていて、バイト先の年下の店長にこき使われているタケミチこと花垣武道。ある日、彼は中学時代に付き合っていた人生唯一のカノジョ・橘日向が最凶最悪の悪党連合“東京卍會”に殺されたことを知る。


 さらに翌日、タケミチは駅のホームで何者かに背中を押されて、線路に転落。死も覚悟した瞬間に目を開けると、人生のピークだった12年前の中学時代に戻っていた。そしてタケミチは日向を救うため、逃げ続けた自分を変えるため、“東京卍會”に入り込んで仲間を得ながら人生のリベンジを開始する。


 本作が秀逸なのが、成長と友情の物語であるともに、さまざまな伏線が散りばめられたミステリーとなっている点。日向を殺した犯人は誰なのか。また、そこまで何が起こっていたのか。読めば何とも巧みな構成であることに気づかされる。犯人探しで相手の懐に入ることがそのキャラクターの掘り下げにもなっていて、怪しむ一方で人柄に打たれて、人柄を知る一方で怪しさも募る。


 それぞれに個性だけでなく、自身のドラマを抱えたキャラクターたちは、喧嘩が弱かろうと、勝ち目はなかろうと、それぞれの強さを追求している。そのビジュアルとスタイルがまた何ともスタイリッシュ。ヤンキー漫画としてはクールとさえ言ってもいいかもしれないが、そのど真ん中にあるものは熱い。


 この新しさと懐かしさに、90年代によく似た感触の漫画があったことを思い出す。絵柄はスタイリッシュでクールにして、中身は骨太で熱い。キャラクターそれぞれがビジュアルにおいても個性においても立っていて、そんな彼らが戦う理由が時には題材よりもドラマとなる。その作品は、『SLAM DUNK』(井上雄彦)だ。


■『SLAM DUNK』との共通点


 往年の「週刊少年ジャンプ」の代名詞とも言える『SLAM DUNK』だが、連載当初、その絵柄、ノリ、また題材に他のジャンプ漫画とはいい意味で異質な何かを感じた読者も多いはずだ。『東京卍』もまた同様。作者・和久井健が「週刊ヤングマガジン」出身ということはあるにしても、「週刊少年マガジン」においてはいい意味で異質。スポーツものもヤンキーものも定番ながら、その中で洗練されて最先端のものとして出てきた、新しくも懐かしい王道作品が両作だ。


 女の子がきっかけで戦いのど真ん中に飛び込んでいって、さまざまな仲間やライバルと出会いながら、成長していく。そうした点でも『東卍』は『SLAM DUNK』と重なるところがあるが(ちなみに主人公の名前の“道”つながりも)、もちろん物語も作風も全然違っていて、真似でもなければ後追いでもない。いや、いつの時代も男女問わず魅せられる“決して引かない男の美学”は確かに通じる。逆を言えば、違うのにどこか通じる『東卍』は、20年代の『SLAM DUNK』たりえる作品なのだ。


 未見の人には、また周囲へのお勧めコメントに困っている人には、ぜひこう言いたい。ヤンキー漫画でもSF漫画でもくくれない『東卍』は、『SLAM DUNK』の“あの感じ”が蘇るような漫画で、イマドキの王道がそこにはあるよ、と。


■渡辺水央
ライター。映画、コミック、アニメーションなどのエンタテインメントについて執筆。『キャラクター』(6月11日公開)などの宣伝ライティング・劇場パンフレットも手掛ける。