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【漫画】親に捨てられた三姉妹の日常は意外とハッピー? 『三拍子の娘』作者・町田メロメに訊く、作品の狙い

2021年04月24日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『三拍子の娘』

  流されやすい長女・すみ、自由気ままな次女・とら、優等生だけど謎の多い三女・ふじの折原三姉妹の日常を描き、Twitteでも話題となった漫画『三拍子の娘』。親に捨てられた、という辛い過去を持ちつつも、楽しく暮らす三姉妹の日常が丁寧に描かれている。『三拍子の娘』は現在コミックアプリ「ebookJapan」にて連載中。4月9日には第1巻が「DUBOOKS」より発売された。作品の一部は作者の町田メロメさんのTwitterアカウント(@qumolilon)でも公開されており、アップされるたびに大きな話題を呼んでいる。


関連:【漫画】割った卵でホットケーキ大会? 何気ない一言が長女を救う……『三拍子の娘』第16話『慈悲ちょうだい』を読む


「リアルサウンド ブック」ではそんな作品を手掛けた町田メロメさんにインタビューを実施。創作のきっかけ、『三拍子の娘』に対するこだわり、今後の作品作りなどについて、話を聞いた。【記事の最後に読者からの反響が大きかった『三拍子の娘』第16話の『慈悲ちょうだい』を掲載】(ふくだりょうこ)


■毎晩恨みつらみを言う話にはしたくなかった


 ――メロメさんが漫画を描かれることになった経緯を教えてください。


 町田:父親がイラストレーターなので、小さいころから自然と絵を描く環境にはありました。クラスによくいる図工が得意な子でした。


 漫画は高校生のときにたまに描いていたりしていましたが、メインはイラスト。高校を卒業してからはTwitterにも絵をアップするようになりました。ときどき、CDのジャケットなどの依頼が来るようになったので、会社に勤めながらイラストの仕事をしたりもしていましたね。初めて漫画を連載したのは2018年。声をかけていただいて『GoGo!ロマンティック街道』という作品をwebで連載していました。


 ――『三拍子の娘』を描くことになったきっかけはなんだったのでしょうか。


町田:以前連載していたマンガや、Twitterにあげていた作品を見た今の担当さんからお声がけいただいたんですが、今は日常系しか自分には描けないな、って。でも、ただほのぼのとしているだけのマンガは避けようという気持ちはありました。三姉妹を選んだのは下に妹が2人いるので、それなら描けるかな、と。


――日常系、と言いつつ、三姉妹が親に捨てられた、というのはなかなか強烈な設定のように思いますが……。


町田:連載ということで、全体の引きをストーリーで作らなければならない。それで父親の行方が分からない、という設定にしたんですが、それに対して三姉妹が毎晩恨みつらみを言う話にしたくはなかったんです。そもそも、毎日言い続けるというのは難しいですよね。親がいなくなったのは、10年前のことです。直後ならともかく、10年以上前の話なら、日常を取り戻す力が働いて普通に暮らしていると思ったんです。


――ときどき挿入される父親と三姉妹のエピソードが物語に厚みを持たせてくれているように思います。


町田:正直、そんなに長いストーリーを構成する力があるのかな~って思っていたんですけど、父親の情報が入ることで物語に引きを作れているのかもしれません。


■今の自分ではその悲しみから救う力がない


 ――読者からの反応はどうでしたか?


 町田:定期的に1話分の漫画をTwitterにあげているんですが、第16話の『慈悲ちょうだい』は反響が大きかったですね。すみが卵をパックごと落として、卵10個を割ってしまう話なんですが、リプライであらゆる卵料理のレシピと掃除方法をいただきました(笑)。


――卵パックを落としてからこのような話の展開になるのがおもしろいですね。


町田:この頃のネームの進め方は、まず面白そうな1ページ目だけがんばって考えます。で、特殊なコマ割りで卵パックが落ちる直前をなんとか面白そうに描けて……その続きを考えたくなったら勝ち。そうじゃなきゃ負け。という感じで作りました。


――特に印象に残っている感想はありますか?


町田:感想は見られる限り目を通しています。自分がほとんど想像で作った話でも、何処かの誰かの思い出と重なって力になっているのを見かけると嬉しいですね。でも「亡くなった姉妹を思い出してしまう」というような感想を見かけたんですが、今の自分ではその悲しみから救う力がない、とはっきり感じて……。連載中に自分なりの回答になるような、この漫画の中にいる時間だけでもいい気持ちになれるような話を作りたいと思いました。


――執筆の際に苦労したことはありますか?


町田:連載が始まったのが2020年の2月なんですけど、直後からコロナ禍で外出自粛になりました。日常系の漫画なのに、周りからのインプットができなかったのは苦労しましたね。結局、自分の過去をほじくり返したり、友達とのちょっとした会話の中からヒントを得たりしています。


――今後、『三拍子の娘』はどのように展開していくんでしょうか。


町田:最終回だけは自分の中で決めてはあるんですけど、最初に考えていた終わり方とは変わる可能性が出てきましたね。1年描き続けてみて三姉妹と父親の問題で見えてきたこともあります。最初そんなに描くことあるのかな、と思っていたら、意外とありましたね(笑)。見えてきた問題はきちんとくまなく回収して終われたらな、と思っています。そしてもちろん、三姉妹の気持ちをもっとこまやかに描けたらいいなと思っています。 


(C)町田メロメ/ebookjapan