2021年04月20日 10:31 弁護士ドットコム
「文春砲」がフジテレビのアナウンス室を直撃した。女性アナ7人が、美容室や系列のネイルサロンのインスタグラムに写真を掲載する代わりに、料金をタダにしてもらっていたというのだ。
【関連記事:親友の夫とキスしたら、全てを親友に目撃され修羅場 】
週刊文春(2021年4月22日号)によると、この美容室は芸能人御用達。1回の正規料金は2、3万円ほどだという。ただし、現状ではアナ側がお金をもらっていたという事実は確認できないようだ。
フジは文春に対し、「いわゆるステルスマーケティングに該当する行為はないと考えております」と回答している。
ステルスマーケティング(ステマ)とは、「消費者に宣伝と気づかれないようにされる宣伝行為」のこと。はたして、今回のケースは「ステマ」と言えるのだろうか。
消費者庁への出向経験もある板倉陽一郎弁護士は、法的には問題なく、ステマに当たるかも微妙と分析する。くわしく聞いた。
そもそも、今回のケースは法的に問題があるのだろうか。
広告に関する「景品表示法」では、「優良誤認」や「有利誤認」といって、商品やサービスの品質、値段などについて実際のものより著しく良いと誤認させる広告表示を禁じている(同法5条1号)。「盛りすぎ」はアウトということだ。
では、アナウンサー訪店の投稿で優良誤認は認められるのだろうか。
「たとえば、新発売の調味料があったとします。有名シェフが使っている画像をインスタに載せれば、プロが使うのだから良いものなんだろう、と思わせることができ、優良誤認となる余地が出てきます。
いっぽう、女性アナがその調味料を使っている画像が載ったとしても、目は引くかもしれませんが、味が良いとはならないでしょう。
美容関係のものであっても、女性アナは結局のところ会社員ですから、優良誤認になりうるとまでは言いづらいように思います。
ただし、インハウス・タレント(=テレビ局の社員芸能人)という側面を重視すれば、優良誤認の方向に近づけた理屈は立てられるかもしれません」(板倉弁護士)
とは言え、ここで注意したいのは、優良誤認と言えるには、表示内容が実物より“著しく優良”でなければならないということだ。
「実際に美味しい調味料だったり、腕の良い美容師だったりしたら優良誤認は成立しないのです」
その意味で、今回のケースが法的に問題に当たるとは考えづらそうだ。
それならば、今回の件はステマと言えるのだろうか。日弁連は2017年にステマの規制を求める意見書を消費者庁に提出している。現行法では、ステマを取り締まるのは難しい状況なのだ。
この中ではステマについて、優良誤認の有無に関係なく、消費者の合理的な選択が阻害されうるところに問題があるのだと指摘している。
「表示された内容自体に優良誤認や有利誤認の問題がない場合であっても、その表示が中立な第三者の意見であるかのように誤認されるならば、消費者の合理的な選択が阻害されてしまう おそれがある」(同意見書、3ページ)
今回のケースについて見ていこう。
美容室の料金がタダになるというのは、「利益提供秘匿型」のステマかどうかの問題になる。日弁連の意見書では、以下のように定義されている。
「事業者が第三者をして表示を行わせるに当たり、金銭の支払その他の経済的利益を提供しているにもかかわらず、その事実を表示しないもの」(意見書、1ページ)
ただし、日弁連はたとえばCMの出演料など、経済的利益の提供が明らかなものについては、わざわざ明示しなくても良いとしている。
美容院であれば、「カットモデル」であるとか、店舗側から「招いた」といったニュアンスの文言があれば、そもそも問題はないということだ。
さて、板倉弁護士は、日弁連のステマ基準に当てはめても、フジテレビの事例は「微妙なところ」だと説明する。
「本当は行っていないのに行っているように装っていれば問題ですが、店に行った/来たと投稿すること自体は、事実なので問題はありません。
ただ、文春記事に実際のインスタ画像が載っていますが、店が『ご来店』と書くと、自発的に来ているニュアンスが出てくるので悩ましい。
アナウンサーたちが、もともと良いと思って通っていたのか、無料になるので通うようになったのか、といった経緯も関係してくるでしょう。
いっぽうで、宣伝になるから、有名人にはいろんなものが無料で提供されているという認識は、ある程度共有されているようにも思います」
芸能界のステマでいくと、文春記事でも紹介されているペニーオークションの例が有名だ。
「ペニオクのステマは、高額商品を本来ならありえない格安で落札したように見せかけていた“やらせ”。結果として詐欺の片棒をかついでしまったわけです」
犯罪につながったペニオク事件の悪質性は、今回の騒動と比べものにならないと指摘する。
「今回の美容室もモデルが芸能人だったら、間に事務所などが入り、広告費が発生していたんじゃないでしょうか。
でも、会社員のアナウンサーなら広告費は発生しない。アナにとっても、高年収とはいえ会社員ですから2、3万円が無料になるのは大きい。そういうウィン・ウィンの関係があったということなのでしょう。
ただし、ある種の副業ですし、皆が同じ場所に通っていれば、フジテレビとしてその美容室を後援しているようにも見えてしまう。労務管理などの観点から避けたいというのも分かります。
どれだけ人気でも会社員という『インハウス・タレント』の悲哀がにじみ出ているケースと言えるかもしれません。個人的には、誉められたことではないけれど、そこまで目くじらを立てなくても良いのではとも感じています」
とはいえ、文春記事によって、世間の「ステマ的なもの」に対する根強い嫌悪感が改めて明らかになった形。今後、インスタ等への投稿に注意が必要になるのは避けられなさそうだ。
【取材協力弁護士】
板倉 陽一郎(いたくら・よういちろう)弁護士
2007年慶應義塾大学法務研究科(法科大学院)修了。2008年弁護士(ひかり総合法律事務所)。2016年4月よりパートナー弁護士。2010年4月より2012年12月まで消費者庁に出向。2017年6月より日本弁護士連合会消費者問題対策委員会副委員長(電子商取引・通信ネットワーク部会長)。
事務所名:ひかり総合法律事務所
事務所URL:http://www.hikari-law.com/