2021年04月18日 09:31 弁護士ドットコム
無人駅の利用に関して、コラムニストの伊是名夏子さんがブログでの「乗車拒否」を訴えかけた。
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内閣府の「障害者制度改革担当室」室長を務め、障害者差別解消法などの法整備に尽力し、現在、熊本に住む弁護士の東俊裕さんは、「伊是名さんは、頑張った」と賛同する。
「電動車いすの利用者は、自分で運転することはもちろん、一般のタクシーの利用も困難であるので、移動は一般の人以上に電車などの公共交通機関に頼らざるを得ない。にもかかわらず、無人化の影響で、車いすの障害者だけがその駅を利用できなくなるのは、不平等ではないのか」と痛烈に問いかけた。(編集部・塚田賢慎)
足が不自由な東さんは現在車いすを利用している。移動における差別を受けたこともある。
「障害を理由に、駅の利用を断られると心が折れてしまいます。このショックは、言われた者じゃないとわかりません。それでも粘り強く交渉を続けて声をあげてくれた伊是名さんに勇気付けられた人は多いと思います」
伊是名さんは、JR小田原駅の駅員との交渉において、障害者差別解消法にもとづき、合理的配慮の提供をもとめた。しかし、十分な検討・調整がなされることなく、一時的には「来宮駅への案内はできない」として乗車拒否されたと主張する。
2016年4月1日に施行された差別解消法では、障害者への「不当な差別的取り扱い」だけではなく、「合理的配慮」を提供しないことが差別として禁止された。
その2週間後に発生した熊本地震に際して被災した障害者支援に当たった東さんによると、差別解消法で禁止されるような事例が現場で見られたという。
例えば避難所では、段差があったり、車いすで利用できるトイレがなかったり、仮設住宅の室内では、お風呂に段差があったり、トイレのドアの幅が狭く、車いすでは利用できないなど状況があって、車椅子の被災者が利用を断わられたり、あきらめたりする現場を見てきたという。
「結局、限られた福祉避難所に行った人もいますが、特に災害直後は壊れかけた家に取り残されたり、車中泊などを強いられた障害者が多かったように思います。バリアの解消のために我々が取り組み、一部ではバリアフリーの仮設住宅もできたが、ほとんどの仮設住宅の風呂やトイレは使いづらい状態のままでした」
被災者に障害者がいることを想定しない災害支援の仕組みが、差別をもたらす根源だと指摘する。
避難所の階段と同じく、無人駅の階段も、垂直移動を可能にするために考案された仕組みだ。
「無人駅の来宮駅では、障害がない人向けにはホームと改札の段差を解消するシステムとして階段が提供されています。ですから、無人駅化しても階段を利用できる人はその恩恵を受けて、その駅を利用し続けることが可能です。
しかし、障害者が利用可能なスロープやエレベーターもなく、無人化ということで人的支援も受けられないとしたら、障害者にとっては駅が存在しないのと同じで、使うなと言われるのと同じです。
障害者の存在を想定しないまま一般の人向けにいろんな仕組みが作られると、一般の人はその仕組みの恩恵を受けてますます利便性が向上する反面、障害者が利用できない仕組みは、障害者にとっての社会的障壁に転化し、結果的には、障害者を排除するといった不平等を招くことになります。
だからこそ、こうした障壁を除去することが合理的配慮として求められるわけです。別に障害者だけ特別に優遇しろといっているわけでありません」
伊是名さんは、JR小田原駅の駅員から、階段がないことを理由に「来宮駅への案内はできない」と説明された。つぎに、「駅員さんを3、4人、集めてくれませんか?」との申し出も、「そのような手配は行っておりません」などとして、人的な対応も断わられている。
「自力歩行に障害があることを理由に、一般の人への対応と異なる対応で、駅の利用を拒否するのは『直接差別』に該当し、差別解消法で禁じる『不当な差別的取り扱い』に該当する可能性があります。
また、段差を解消するため、人を集めてほしいとの申し出も、拒否されています。これは合理的配慮を提供しない差別に当たります。
もっとも、熱海駅の駅長さんが応じたことで、来宮駅の利用が可能となり、結果としては、障害者差別解消法に違反する状態はなくなったと思いますが、何時間も交渉しなければ駅を利用できないといった状態は早急に解消されなければなりません」
東さんが感じたのは、段差が解消されていない無人駅での合理的配慮の対応について、駅や駅員ごとに、かなりのバラツキがあったということだ。
「JRには、組織として、マニュアルの整備だけでなく、職員の合理的配慮に関する共通認識の醸成などが、求められます。しかし、今回のバラバラな対応は、一定の対応マニュアルさえ用意されていなかったことの証左ではないでしょうか。
そうしたものが無い限り、個別の交渉を強いられ、人によって違う対応をされることにもなりかねないのです」
伊是名さんが声をあげたように、過去には、障害者が要求したことで、多くの人が暮らしやすくなったケースも少なくない。
「たとえば、昔のJRの駅には、エレベーターもなく乳母車(ベビーカー)を使った親の姿がありませんでした。
障害者が要求したことで、乳母車を引いたお母さん、お父さんがいる風景は当たり前になった。ほかのひとたちも、恩恵を被る状況になったわけです」
障害者の移動の障壁は、解消されるべく動きが進む。
バリアフリー法では、これまで、利用客が1日3000人以上の旅客施設の段差解消を目指してきた。
2021年4月1日からは、人数が引き下げられ、基本構想の生活関連施設に位置付けられた2000人以上の施設の段差解消が、目標として示された。
この日は、奇しくも、伊是名さんが来宮に旅行した日と重なる。
「所管の国土交通省においては、『駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関する障害当事者団体・鉄道事業者・国土交通省の意見交換会』を開いて、駅の無人化等要員配置の見直しに係るガイドラインの検討がなされています。
さらに、そうしたバリアフリー法の取り組みによってもカバーできない部分であっても、障害者差別解消法は適用されることになりますが、その障害者差別解消法が改正されて民間事業者についても合理的配慮が義務化される予定です」