トップへ

「日本の低生産性」問題、労働時間短縮の「効率アップ」だけで解決できるのか

2021年04月18日 08:51  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

4月5日の会見で加藤官房長官は、選択的に「週休3日制」を導入することを政府で検討すると表明しました。4月13日には示し合わせたように、経済財政諮問会議で民間議員から「選択的週休3日制」の導入が提言されました。その理由としては、「従業員のスキルアップや育児や介護など多様な働き方を推進することにある」とされます。もう一つの狙いとしては、日本は労働時間が長いので、週休3日制を導入して労働時間を削減したいという思惑があるのでしょう。


【関連記事:親友の夫とキスしたら、全てを親友に目撃され修羅場  】



というのも、(公財)日本生産性本部の資料によると、日本の2019年度の「1人あたりの労働生産性」は先進7カ国で最下位(OECD加盟37カ国中26位)という残念な状況だからです。労働生産性を上げるためには、労働時間を減らすことが必要になりますが、日本人は慢性的に長時間労働をしており、また、有給休暇をあまり取らないため、制度として「週休3日制」を導入するということです。



そこで、今回は、「生産性」と「効率性」との違いはどこにあるのか、日本の生産性を上げるためにどうすべきなのかについて検討したいと思います。(ライター・メタルスライム)



●生産性の基本的な考え方

生産性とは、労働力や原材料などの「投入」からどれだけ製品やサービスといった「産出」があったかという比率です。計算式で表すと次のようになります。



生産性 = 産出 / 投入



「産出」の内容については、売上から原価や費用を引いた純粋な利益である「付加価値」を利用するのが一般的です。ただ、製造業などで、製品の数量が明確にわかる場合には、「生産数」を利用することがあります。



「投入」については、「労働者数」、「労働者数×労働時間」、「労働、資本、原材料等」などが利用されます。



冒頭で述べた、「1人当たりの労働生産性」は、「付加価値 / 労働者数」で産出されます。その他、よく使われるのが「時間当たりの労働生産性」です。こちらは、「付加価値 / 労働者数×労働時間」で算出します。



経済的な分析では、あらゆる要素を含めた「全要素生産性(TFP)」もよく使われます。TFP(Total Factor Productivity)は、「付加価値 / 労働、資本、原材料等」で算出されます。



●生産性と効率性の違い

経営者などから、「生産性を上げなければ」とか「効率性を高めなければ」という声がよく聞かれます。しかし、実際のところ、「生産性」と「効率性」の違いをわかった上で言っている人は少ないと思います。



多くの人は、効率化することが生産性を高めることに繋がるので、同じ意味というように理解しています。本来、生産性を高めることは、効率化だけでなく、付加価値を上げることも含まれます。労働生産性で言えば、同じ労働者数、同じ労働時間でも多くのものをアウトプットできれば生産性は高くなります。



それに対して、効率性とは、理想とする投入量と実際の投入量を比較して、どれだけ投入量を減らせるかという指標です。労働生産性で言えば、労働人数や労働時間をいかに減らせるかということです。全要素生産性であれば、労働力の他に原材料のコストなどをどれだけ削減できるかが考慮されます。



つまり、効率性というのは、分母を少なくするための指標ということです。日本は製造業を中心とした工業国なので、コストを削減することに関しては以前から積極的になされてきました。



たとえば、原価についてシビアに管理したり、下請に安い価格で部品を納入させたりするなど、コストに関しては非常に熱心に削減することに取り組んできました。しかし、終身雇用の弊害から、雇用調整はもっぱら派遣社員などの非正規労働者で行われ、正社員の労働時間の削減や正社員数の削減については、あまり積極的に取り組んでこなかったという現状があります。



●日本の生産性が低い理由

雇用調整や労働時間の削減に積極的に取り組んでこなかった日本では、分母である労働投入量はどうしても大きくなりがちです。OECDのデータによれば、2019年度の日本の労働時間は、ドイツ、フランス、イギリスよりも多くなっています。逆に、アメリカ、イタリア、カナダよりは、日本の労働時間は少なくなっています。



「時間当たりの労働生産性」でも、日本は、先進7カ国の中で最下位 です。なぜ、アメリカ、イタリア、カナダよりも、日本は労働時間が少ないのに、生産性が低いのでしょうか。



OECDのデータによれば、2020年度の労働人口は、日本6867万人、アメリカ1億6074万人、イタリア2521万人、カナダ1989万人です。



ここからわかるのは、イタリアとカナダは少ない労働人口ではあるものの、多くの時間働いていても日本以上の付加価値を出しているということです。アメリカに至っては、労働時間も労働人口も日本より多いのに、「時間当たりの労働生産性」は、先進7カ国の中でフランスに次いで2位という結果です。いかにアメリカが高い付加価値を生んでいるのかがわかります。



付加価値は、GDPと基本的には同じなので、GDPを上昇させることが重要ということです。GDPとは、「Gross Domestic Product」の略で、国内で得られた付加価値を表しています。GDPは、分配するという側面から見ると、「給与」や「配当」などで構成されます。また、支出という側面で見ると、「消費」と「投資」に分けられます。



●生産性を上げるためにすべきこと

労働生産性で考えると、生産性を高めるためには、付加価値を上げるか、労働投入量を減らすしかありません。「働き方改革」や「週休3日制」の導入などによって、労働時間の削減は少しずつ進むかもしれませんが、大幅な削減には時間がかかるでしょう。



労働投入量を大幅に削減するためには、DX(Digital Transformation)により、業務に変革を起こす必要があります。日本はIT化が遅れている分、DXによって、大幅に変革できる分野が多くあるはずだからです。もし、これができなければ、世界からもっと引き離されることになると思います。



日本の経営者は、効率化(コストカット)については、ものすごく熱心ですが、生産性の向上はあまり関心をもっていません。「安く作って売れればよい」と思っている人が多いのです。終身雇用で従業員は安い給与でも辞めないので、残業させてでも製品を安く多く提供すれば売上が上がると考えているからです。



この発想を変えていく必要があります。高付加価値の商品を売ることにもっと積極的になるべきです。



日本では、少子高齢化により、労働力不足が深刻化してきているので、これまでのように、残業してたくさんの商品を作り、売れば良いということはできなくなります。発想を転換して、高付加価値な商品を提供するようにしていかなければなりません。



通商白書2016によれば、日本の金融業を除く非製造業の対外直接投資は、米国、英国、フランス、ドイツに比べて少ないため、サービス業などについては、海外にもっと積極的に進出していくことも有効だと思います。



さらに、株主はもっと積極的に配当を求めるべきですし、労働者や労働組合は賃上げを要求すべきです。そうしなければ、会社の経営陣はいつまでたってもあぐらをかいています。持ち合い株も減少してきるので、配当を出し渋る経営陣については退陣を求めていくべきです。



労働組合も賃上げを強く求め、ストライキも積極的に行うなど、賃上げに向けて真剣に取り組む必要があります。これらのことができなければ、日本はどんどん衰退していき、気づいたときには貧困国家になっているかもしれません。