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「中学受験で学校を長期欠席」タブーに触れた文科相に親たち困惑 「望ましくない」と言われても…

2021年04月16日 17:21  弁護士ドットコム

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コロナ禍が続く中、感染への不安から学校を自主的に休む児童・生徒は少なくない。このため、衆議院文部科学委員会で4月14日、萩生田光一文部科学相は、「義務教育は原則、登校対面が望ましいと考えている」とした上で、全国に通知を出すと明言した。


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その中で、昨年度末は中学受験をする児童が「一斉に学校を休んでいた」ことにも「飛び火」。萩生田文科相が「望ましくない」と苦言を呈する場面があった。



しかし、首都圏の私立中学は、新型コロナに感染した受験生に対して追試などの救済措置を設けていないところも多い。このため、受験生を抱える親からは反発も出ている。



「文科相は中学受験特有の事情を知らない」と憤るのは、都内に住む専業主婦の女性(40代)だ。6年生の息子が来年2月に中学受験を予定しているが、東京都では感染者数が増え続け、ワクチンがいつ打てるのかも知らされない。不透明な中、綱渡りの受験勉強が続いている。



今、中学受験の現場では何が起きているのだろうか?(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)



●自主的に学校休ませる保護者の対応は?

これまで、文科省では感染不安から子どもを休ませたいという保護者への対応を、新型コロナに対応した学校運営のためのガイドラインの中で示してきた。



ガイドラインでは、「感染経路が不明な患者が急激に増えている地域で、同居する家族に高齢者や基礎疾患を持つ人がいるなどの事情があるなど、合理的な理由があると校長が判断した場合、「出席停止」として記録し、欠席にはしない取り扱いが可能としている。



文部科学委員会では、浮島智子議員(公明)が、このガイドラインを踏まえつつも、新型コロナ感染への不安から、自主的に子どもを休ませる保護者がいることについて、次のように問題視した。



「昨今、この自主休校、選択登校という言葉が安易に使われていて、なんの持病もないのに学校に行かせない選択肢が保護者にあるという考え方は、我が国の学校制度に合致するものではないと私は思います」



これに対する答弁で、萩生田文科相は、「義務教育は原則、登校対面が望ましいと考えている」として、ガイドラインの徹底を呼びかけた。文科省によると、近日中にあらためて、新型コロナに関連した出欠の取り扱いについて、全国に事務連絡を行うという。



●萩生田文科相の矛先が向かったのは…

この萩生田文科相の答弁中で、突然、矛先が向かったのが中学受験生やその保護者だ。



「実は、昨年度末、特に小学生で私立の中学受験を準備しているご家庭のお子さんなどが、新型コロナ感染の恐れを理由に一斉に休まれてしまったという話を、学校の校長先生たちから相談されました。合理的な理由が見つからず、望ましくないということでした。



しかし、もう雪崩を打つようにみなさんが一斉に休んで、受験準備に没頭してるような状況は本来、義務教委のあり方として望ましくないと思っていますので、あらためて自治体にしっかり通知を出したいと思っています」



この発言に対し、保護者からは憤りの声が上がっている。先ほどの6年生の息子が受験生という専業主婦の女性は、「昔から、受験する子たちは6年3学期の1月はまるまる、学校を休むことを黙認されていました」と話す。何も、コロナ禍から始まったことではないという。



「インフルエンザの感染症対策というのが確かに言い訳にはなりますけど、実際にはもっと換気の悪い塾や個別指導塾には通っているわけで、一番の目的は、学校で遊ぶ時間を受験のための時間に使いたいという切実な事情がありますよね。うちも間違いなくそうするつもりです」



●入試直前に学校で感染者

実際にこの1月に息子が学校を休んで中学受験したという、都内の会社員女性(40代)も、「学校は休ませるつもりはなかったのですが…」と話す。



女性が住むのは、都内でも私立中学への進学率が特に高い地域。毎年多くの6年生が3学期に登校せず、実際に女性の息子のクラスでも、7割弱の生徒が学校に来ていなかった。学校側は、新型コロナ感染の恐れから、生徒たちを欠席扱いにしていなかったという。



女性の息子は3学期の初めは登校していたが、1月下旬、突然学校がら呼び出しがあり、別の学年の生徒が新型コロナに感染したことがわかったことから、登校をやめさせた。



「息子の第一希望の私立中学は、新型コロナに感染した時の救済措置がありませんでした。絶対に感染するわけにはいかなったので、悩みましたが学校を休ませました」



たとえば、今年、都内の男子校御三家のうち、麻布中学や武蔵中学は今年の入試で、感染者の救済措置がないことを明らかにしていた。また、女子校御三家でも、桜蔭中学校は追試験を行なっていない。



●中学受験システムと小学校生活が共存しない

先の専業主婦の女性は、こうも指摘する



「現状の中学受験システムが、ごく普通の小学校生活との共存を前提にしていないことがそもそも背景なんですよ。試験内容が小学校の教科書からは逸脱しており、中には中学校レベルの問題も含まれます。



塾に通わなければ、とても中学受験を突破することはできないですし、文科相が『中学受験のために学校を休むな』と言うなら、そもそも今の中学入試の試験問題には問題がないのか、と言いたいです。



文科相はこうした中学受験特有の事情を知らないのではないでしょうか。はっきりいって、職務怠慢です。事情も知らずに勝手な理想論を言うなと言いたいです。せめて、子どもたちが安心して受験できるよう、新型コロナのワクチン接種を国民に徹底させることが先ではないでしょうか」