2021年04月12日 16:41 弁護士ドットコム
全国に150店舗以上展開する「ラーメン山岡家」の店長だった男性(享年50)が2017年5月に自殺したのは、過労が原因だったとして、遺族(姉)が運営会社(札幌市)に、慰謝料や逸失利益など約1億1000万円の損害賠償を求めた裁判で、和解が成立した(和解は3月30日付け)。
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遺族側の代理人弁護士が4月12日、会見で明らかにした。和解においては、勤務間のインターバル制度や、健康診断の実施など、具体的な対策が盛り込まれた。
労基署・労働局による認定にもとづく事実の経過は以下の通り。
名古屋市の店で店長として働いていた黒田友康さんは、2015年10月19日、勤務中に脳内出血とくも膜下出血を発症した(当時49才)。
緊急搬送された病院で手術をうけ、リハビリを続けたが、重度の右半身麻痺と失語症により、介護施設に入所。後遺障害等級1級と診断され、社会生活に困難をきたし、悲観したことで、2017年5月20日に自殺した。
発症と業務との因果関係について、名古屋南労基署は労災を認めた(2018年3月9日)。 倒れたとき、店の正社員は黒田さん1人で、残りはバイトら7~8人。24時間営業の店を回すためには、黒田さんが深夜勤務や長時間勤務する日も多かった。
発症前1カ月の時間外労働時間は96時間、発症前2カ月平均では98時間30分。また、未治療の高血圧症が基礎疾患としてあったことなどが認定された。
しかし、自殺との因果関係については、一度否定されている。
同労基署は、黒田さんが倒れたあとの、2017年4月中旬ころに、適応障害(精神障害)を発症したことは認めたが、自殺との関連は認めなかった。
これを不服とした弁護団が審査請求をしたところ、愛知県労働局は、労基署の決定を取り消し、労災認定している(2019年1月4日)。
遺族は、2018年10月、裁判を起こした(名古屋地裁に提訴し、東京地裁に移送)。
会社との和解について、解決金の額は非公表だったが、会社は哀悼の意を表するとともに、具体的な再発防止策を、和解条項に盛り込んだ。
主な再発防止策は以下の2点。
(1)全従業員を対象に、勤務と勤務の間に、11時間以上のインターバルを導入する制度を検討し、和解成立から1年以内をめどに、必要な規定を就業規則に記載すること
(2)今年4月1日付で、全従業員を対象に、健康診断を受けるための特別有給休暇制度をつくること
弁護団は、和解条項について、金額面でも納得できるうえ、具体的な再発防止ルールが盛り込まれたことを、社会的に意義のあるものとした。
「24時間営業のスタイルとして、店員が常駐しなければいけない。インターバル制度の導入は、会社側にとって、人事労務管理や、経営の根幹にかかわるもの」(大久保修一弁護士)
「再発防止の具体的な中身が和解条項にきちんと書かれるのも、それを口外禁止とされないのも珍しい。公表されなければ、実行されているのかチェックできないこともある」(佐々木亮弁護士)。
ラーメン店を運営する「丸千代山岡家」は、編集部に「哀悼の意を表することを和解に盛り込んでおります」とした。
会見で姉は、「ひとまず決着した形ですが、失われた命が戻ることはなく、悲しみを持ち続けていくことになります」と話した。
「ただマジメに働きすぎた結果、肉体が壊れてしまいました。若くもエリートでもなく、普通のおじさんで、センセーショナルなニュースになる要因はありません。
俺のほうが残業時間が長いとか、パワハラのほうがつらいとか、思ったかたこそ、家族を泣かすことのないように、我がこととして、この小さな事実を知ってほしい。
まじめに懸命にはたらくことと長時間労働はイコールではありません」(姉)
(4月15日9時00分 黒田さんのお名前に1カ所、誤りがあり、訂正しました)