「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の大ヒット御礼舞台挨拶が、本日4月11日に東京・新宿バルト9で開催され、総監督の庵野秀明、監督を務めた鶴巻和哉と前田真宏、碇シンジ役の緒方恵美が登壇した。
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映画を観終わったばかりの観客たちの前に姿を現した庵野は「僕がこういった場所に出るのは最初の制作会見と、謝罪会見以来です(笑)」と挨拶すると、司会進行を務める緒方も「あのとき以来ですね」と苦笑いし、早速場を和ませる。また映画の興行収入が70億を突破したことについて問われると、「本当にありがたいです。80億ちょっといけば僕が総監督をやった『シン・ゴジラ』を超えます。100億行けばアニメ業界の活性化になるし、ロボットアニメで100億をめざせるのはありがたい。ガンダムですら100億はいってないので(笑)」とコメントすると、緒方は「エヴァってロボットアニメだったんですか……?」と驚きの表情。また鶴巻も「僕も『:Q』を超えてくれて安心してます。庵野のレコードとしても『シンゴジ』は超えたいなと思いますしね」と語ると、前田が「ここに来てくださってる皆様のおかげですよね」と感謝を述べた。
制作を終えたときの心境について、鶴巻は「僕は『終わってよかった』という気持ちでしたね。毎日、明日終わるのかな、明後日終わるのかな、みたいな日々を送っていたので(笑)」と率直な感想を吐露。同じく前田も「毎日いろんな直しが来て、それを直すことの繰り返しだったので、それが『え、もうないの? 本当に?」って疑ってるところがあって」と制作の過酷さを語った。また庵野はスタッフに対する感謝の気持ちでいっぱいだったと述べ「各セクションに頭を下げて、『ありがとうございます』と言うのが僕の終わりでした」と振り返った。
緒方から第3村のミニチュア作成やモーションキャプチャーなどへのこだわりについて聞かれると、庵野は「アニメにミニチュアやモーションキャプチャーはなくてもいい。でも手で描けるものだけにしたくないっていうのがずっとあって、やっとそういった技術が追いついてできるようになった。でも大変なのでやらないほうがいいです(笑)」と述べる。実際にその作業を行っていた鶴巻は「庵野は実写の現場も経験していて、実写とアニメのハイブリッドみたいな作り方を知ってるし、いいところも悪いところもわかってる。でも僕やスタッフは実写の経験はないので、そこで苦労しましたね。最終的には庵野がジャッジしてくれるだろうと思っていたけど、突然『ここは鶴巻がやって』って言い出すから(笑)」と苦労をのぞかせた。その言葉に庵野は「自分の頭の中だけで作っても面白くないから。いろんな人の意見を重ねて紡ぎ合わせて作りたい」と返した。
これまでと違い、細かく分割して録音されたという本作のアフレコについて、「バラバラで録ったし、使っているテイクもバラバラなんですけど、それを感じさせないだけの演技力と力が声優さんたちにはあるから大丈夫だろうと」とキャスト陣への信頼を表す。また鶴巻が「印象的だったのは鈴原サクラ役の沢城みゆきさんかな。結構難しい状況でのドラマが展開されるところで、不安だったんですが一発OKでしたよね」と庵野に投げかけると、「沢城さんは溜めたものを最初に一気に出しちゃうタイプので、最初に録らないと駄目」とコメント。鶴巻は「僕はアドバイスした結果、(理想と)離れていっちゃうことも多いので、庵野さんはそういうの上手いんですよね」と述べた。キャストとして参加している緒方も「今回のセリフは特にいろんな取り方ができるセリフが多くて。ちょっと感情の込め方が違うだけで全然違うニュアンスになってしまうセリフが多かった気がします」とアフレコを振り返った。
さらに劇中に登場する“小ネタ”について話がおよぶと、前田は「皆さんの考察が鋭いので、そんなに言うことないかもしれないですけど」と前置きをしつつ「アスカがビースト化するシーンには、元々のシナリオでは13号機の中にコピーして作られた不完全なカヲルがいて。でも画の力関係が変わって、ほとんど見えなくなってしまったので、そこは目を凝らしていただけたら」というエピソードを披露。また鶴巻が「先日行われたネットの特番で司会の松澤(千晶)さんが、ゲンドウが脳みそを拾うシーンで面白い考察をされていて。実はあのシーンは脚本になく、前田さんのイメージボードにあったものを絵コンテにしたんですが、松澤さんが『ゲンドウは人間ではないものになってしまったけど、ユイのことを忘れたくないから脳みそを拾って頭に入れた』みたいな考察をされてて。それめっちゃいいなって思って(笑)。前田さんどうですか?」と問いかける。前田の「バッチリです(笑)」という言葉に、鶴巻は「じゃあこれは公式ってことで(笑)」と述べ、笑いを誘った。
そんな2人のやり取りに、庵野は「エヴァって物語上必要なものと、絵として美しいものと、僕自身の人生に置いて関わりのあるものと、スタッフの好みがちりばめられてて。その中には小ネタもいっぱいあるけど、例えば宇部新川駅とかクモハ42とか。モデルになってる駅の周辺って電化されてないんですよ。だから電車があるのはそもそもおかしい。でもクモハ42も妻の絵も、大好きなもの。自分の人生に関わりのある大事なもので構成されている」と心境を明かす。さらに「あともう1個、ラストカットの実写なんですけど、ものすごいお金かけて好きなものを1個入れてますので。見つけてもらえれば」とアピールした。
またNHK総合で放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」についての話題になると、庵野は「僕は観てないよ。自分が映ってるものは観ない」と語り、鶴巻も「僕も観てない。5年後に観ようかと(笑)」と続ける。一方、前田は「僕は観ましたよ。よくできてるなあと。庵野さんがどういうものを作っているのかを、かなりかっこよくエディットしてあってよかった」と感想を語った。しかし庵野は「4年間って謳ってるけど、4年間べったりついていたわけではないので。何カ月も来てないときもあったし」と明かし、観客からは笑いが起きる。「もっといいシーンあったのに、来てないんですよ。バーチャルカメラも最後がよかったのに、なぜ来ない?って。だいたい最初に来て最後は来ないんですよ。最後がいいのに」と不満げな庵野だった。
最後の挨拶で、前田は「ありがたいという気持ちしかない。観る人を選ぶ内容だと思うんですけど、それでも面白いと言ってくださる方がたくさんいてよかった」、鶴巻は「まだまだコロナの関係で不安がある中、映画館に観に来てくださってありがたい」とコメント。そして庵野は立ち上がって「改めてお礼申し上げます。本当にありがとうございます。途中でコロナ禍に見舞われて、大変な時期に映画館に足を運んでいただいて、作品を面白いと言ってくださって。感謝します。本当にありがとうございました」と感謝の言葉でイベントを締めくくった。
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