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困窮でSOS、ほとんどが「所持金1000円未満」の現実 生活保護受給「基本のキ」を聞いてみた

2021年04月11日 09:41  弁護士ドットコム

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厚生労働省の発表によれば、2020年12月に生活保護の受給を開始した世帯は、1万7272世帯。長引く新型コロナウイルスの影響で、微増の傾向にある。しかし、生活保護にまつわる疑問は、さまざまあるが、詳しくわからない人のほうが多い。


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生活保護ってなんだろう?申請ってどうやるの?20代でも申請してもいいの?



そこで生活保護行政に15年以上携わってきた、生活保護問題対策全国会議事務局次長の田川英信さんに、「生活保護の基本のキ」を聞いてみた。(ルポライター・樋田敦子)



●「今晩泊まるところがない」とSOS

田川さんの一日は、メールを読むことから始まる。新型コロナ災害緊急アクションの相談フォームに寄せられたメールに目を通し、詳細を聞き取り、連携する支援団体につなげていく。



――寄せられている相談はどういうものが多いですか。



田川「メール相談ということもあり、20-30代半ばまでのかたの相談が多いです。女性も2割ほどいます。そしてSOSを出されるかたの所持金は、ほとんどが1000円未満です。



昨日も夜7時にSOSしてきた男性は、『今晩泊まるところがない』といいます。事務局の瀬戸大作さんが動いてくれて、新宿で9時に待ち合わせて、ホテル代と当面の生活支援金を渡しました。そうでなければ路上で一夜を過ごすことになったと思います。後日、生活保護申請につなげる予定でいます。



また、別のケースでは早朝4時にメールがきて、私から7時に返信したのですが、その後全然応答がなくて……。携帯は止められていて連絡がつきません。Wi-Fi環境があるところでしかメールが送受信できないらしいのです。



そこで『Wi-Fiのあるところで待っていて下さい』とお願いして、やっと連絡が取れるようになり、瀬戸さんに対応してもらった。毎日、綱渡りの連続です」



●「生活保護を受けるなら死んだほうがマシだ」

新型コロナ災害緊急アクションでは、2020年4月からホームページに相談フォームを設けている。そこに、現在いる場所、所持金、生活保護を受けたいか、支援して欲しいことは何か、仕事に就きたいか、などを書きこんでもらい、応対している。



――生活保護を申請したいという人はかなりの数あるのですか。



田川「そんなに多くはありません。最終的には生活保護しかないというケースもありますが、ストレートに申請したいと言ってくるのは、2割程度。



生活保護の申請が少ないのには、2つ理由があります。まず、コロナで大変だけれども、持続化給付金や住居確保給付金、社会福祉協議会の貸付でこれまでなんとかやってこられたので、『生活保護ではなく、とにかく当面凌げればいい』と言います。



もう1つは『多くの人は、生活保護はいやだ』という忌避感が強いからです。生活保護を受けるなら死んだほうがマシだ、とはっきりおっしゃるかたもいます。



生活保護は自分が受けるものではない、受けられないと思い込んでいるかたもいる。受けられると思っている人の中でも、なるべくなら受けたくない、絶対受けたくない人が結構な割合でいます」



●扶養照会がネックに

生活困窮者を支援する「つくろい東京ファンド」(東京・中野区)は、昨年末から年始にかけて、生活相談に訪れた人に「生活保護利用に関するアンケート」を実施。165件の回答のうち、生活保護を利用していない128人にその理由を尋ねたところ、34・4%が「家族に知られるのが嫌だ」と答えた。



生活保護を利用するまでの流れは、住んでいる地域の福祉事務所に相談し、利用する意思がある人は申請書を提出。申請を受けると福祉事務所が戸籍情報をもとに、生活状況や資産状況などを調査する。その中で、概ね2親等以内の親族(親、子、兄弟、祖父母、孫)、まれに同居していない戸籍上の配偶者に、生活の援助が可能かどうかを手紙などで確認する。これが「扶養照会」とばれるものだ。



つくろいファンドの同アンケートには「家族に知られたくない」「家族に知られたら縁を切られる」などの抵抗理由が挙げられた。



もともとDVや虐待を受けていたケースでは、扶養照会をしなくてもよかったが、今年3月からは、親族に借金を重ねている、相続をめぐり対立している、親族と縁を切っていて、関係が著しく良くない、10年程度音信不通などのケースでは扶養照会をしない制度に改められた。



また厚労省は「扶養照会を拒否する者」の意向尊重の方向性を示すとともに、扶養照会を行うのは「扶養が期待できる場合」のみに限る、との通知を出した(4月1日施行)。



――この通知が徹底されれば、改善されるかもしれませんが、利用したいと思っても、扶養照会がネックになっているのですね。



田川「生活保護制度は、生存権(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)として憲法で保障されています。生活保護バッシングなどもあって、生活保護が恥ずかしいものだというスティグマになっているのです。



ひとり親のかたで困窮されているのに、生活保護を受けるくらいなら、今の状態で頑張るという人もいます。児童手当や児童扶養手当、自分の少ない収入でなんとかするというのです。生活保護を利用したら、役所からあれこれ言われて窮屈だと思われているのかもしれない。



ひとり親の家庭で、男の人と交友があってはいけないということもないのだけれど、訪問してきたケースワーカーに『あれ、男物の歯ブラシありますね』みたいなことを言われるので、プライバシーに踏み込んでくるのならやめようと抵抗を感じる人もいます。口うるさく言われてはたまらないという思いもあるのでしょうね。



保護を受給するまではハードルが高いのも事実です」



●「他法他施策」が優先という補足性の原理

――厚労省が昨年末から生活保護は使っていいんだとホームページなどで言っているにもかかわらず、自治体の窓口では相変わらず、窓口で相談者を追い返す、水際作戦が行われています。



田川「生活保護は最終のセーフティーネットと言われているのに、水際で申請もできずに追い返されています。



先日も、相談メールで、お金が全然無い。福祉事務所に相談に行ったら、社会福祉協議会の貸付があるじゃないかと言って、追い返されたそうです。確かに社協の貸付はあるけれど、お金を借りることになるので、借金になるだけで根本的な解決にならないのです。



実は生活保護制度には『他法他施策』が優先という補足性の原理があって、生活保護法の4条に書かれています。生活保護を受ける前に、生活保護法以外のあらゆる法律や制度を使いなさいとしています。そこで、使える制度があるのでそちらを使ってください。どうしてもダメなら生活保護でと進めるのです。



どうしてもダメなら、とするハードルが高い。もうすでにお金が全然なくて、借金だらけの人に、さらに借金して下さいということ自体はおかしいことだと思いますが、それで乗り切れるようならいいでしょという感覚が役所の側にはある。



自治体の雰囲気にもよりますが、生活保護世帯の数を増やしたくないから慎重に扱えという方針の自治体がないわけでもないのです」



●「ひとりで行くと断られるが…」窓口のダブルスタンダード

――生活保護の財源はどうなっているのですか。



田川「生活保護費は、4分の3を国が負担しています。残りの4分の1を自治体が負担するのですが、総務省の地方交付金で後から補填されるので、ほとんど実害無し。7割の自治体で得しているという調べもあります」



――ひとりで申請に行くと断られることもあるのに、支援者がついていくとすんなり通るケースもあります。



田川「本当はおかしなことですが、ダブルスタンダードがあって、単身で行ったら保護制度をよく知らなかったので跳ね返された。一方で、付き添い者と行くと、違法なことはしない。特に付き添い者が弁護士だったり、司法書士だったり、有名な支援団体だったりすると、いろいろ言ってくるのでしっかりやらなきゃいけないぞと自治体職員は身構える。



もちろん公務員は、なるべく税金は大事に使う。それが基本なんですが、程度問題で使わなければいけないところは使わなければいけないんですよ。



何がなんでも税金を使わないでおこうと拒むのもおかしいし。人によって対応が変わるというのもおかしいし、他方他施策の利用といっても、ハードな状態にまできている人に、いやいやもっと借金しろとはいえないと思う。ただ平気でそう言う感覚が一部の自治体にはある。全国の自治体も頑張ってはいるんですが、ひどいところがいくつかある」



●「働けたとしてもまともな仕事につけない人もいる」

2月、神奈川県横浜市神奈川区の福祉事務所で、ダウンロードした申請書を手に、生活保護の申請をしたいと訪れた20代女性に対し、面接した職員は誤った説明や返答をして、申請書を受け取らなかった。仕事も住まいも失っていた女性に職員は「生活保護申請の意思なし」と判断を下し、施設入所を強制した。



そのやり取りを女性が録音していたため、女性の支援団体が違法だと抗議し、神奈川区の福祉事務所、市側は謝罪した。女性は別の自治体で生活保護を受けることになった。



――ある自治体で断られ、他の自治体で受給できるケースはあるのですか。



田川「つい先日も、仕事に就けず、家賃も滞納している女性が相談したら、若いんだから仕事を探せと追い返した事例が都内の某区でありました。私が職員だったときも、住む家がなく、2日間も食べていない状態の人を追い返した自治体があり、その自治体に抗議したことも。



このコロナの情勢では、働きたくても働けない人が多い。働けたとしても正規のまともな仕事につけない人もいる。厳しいですよ。20、30年前と雇用情勢が全然違いますから。非正規や低賃金で働いている人に『他に仕事を探せばいろいろあるだろう』と言われても。ちゃんと食べていく賃金もらえるところってなかなかないです」



●実際に追い返された事例

田川さんによると、ひとりで相談に行って、体よく追い返された問題事例がいくつかある。 実際に自治体で起こった例を紹介しよう。




●「ここに住民票がなければダメ」「(ホームレスのかたに)前の晩どこにとまったかと聞き追い返す」
→「正しくは住民票がどこにあるかが問題ではなく、居住地があればそこの福祉事務所、なければ現在地でOK。生活保護の実施責任をどこが負うかは大事な問題です」(田川さん)



●「(終業前なのに)明日来てくれ、今日は受け付けは終わり」
→「超多忙なことは理解できるが、明らかに違法で不適切」(田川さん)
●「居住地が定まらないと申請できない」
→「定まらなくても、申請はでき、保護の開始もできます」(田川さん)



●「うちは、女性なら婦人保護施設で保護することになっている」
→「婦人保護施設はDVなどで逃げてきた女性のための施設。携帯電話は使用できず、相部屋のところも。必要もないのにそこしか利用できないというのは疑問です」(田川さん)



●「ホームレスのかたは、無料低額施設(無低)へ」
→「無低は社会福祉法によって定められた生活困窮者が無料もしくは低額で利用できる施設ですが、大人数の相部屋で劣悪な環境のところもある。貧困ビジネスと称される無低もあり、逃げ出した人も多いので要注意」(田川さん)



●「ビジネスホテルに泊まりながら生活保護は受給できない」
→「ビジネスホテル代を生活保護の住宅扶助として支給して次のステップに進むことはできる」(田川さん)



●資産価値がある住居を売れば生活できる」
→「自己居住用の不動産は東京なら3000万円強、全国どこでも2000万円程度なら保有は容認される」(田川さん)



●「自治体間の格差がありすぎる」
→「開始決定までの生活費に充てる貸付の制度がなかったり、額が少なすぎる自治体もあります」(田川さん)




――こういった背景にはどんなことがあるのか。



田川「福祉事務所の職員の数が少ない、職員は人事異動のサイクルが3年程度なので、質が担保できていません。1人で100世帯、200世帯を担当する自治体もあって、非正規の職員に任せて研修制度がきちんとしていないところもあります。



公務員と言っても一人の住民です。住民の中に生活保護は恥ずべきもの、利用しない方がいいという価値観があると、それを引きずったまま公務を行う場合もあります。誤った制度理解を持つ先輩が、間違ったまま後輩に伝えるということもあります。



小田原市の『生活保護なめんなよ』ジャンパー事件は、当時の保護係長が提案した。だからこそ研修が必要なのです」



――沖合作戦というのもあるそうですね。



田川「生活困窮者自立支援法は、一部現金給付がありますが基本は貸付です。生活保護とは雲泥の差なのです。生活保護にたどり着く前に、沖合ではねつけるということで、沖合作戦と呼ばれていますが、他法他施策を口実に生活困窮者自立支援制度で何とかしようとする自治体がある。



どんなに困窮状態であっても、生活困窮者自立支援制度を利用させるという自治体と、保護は同じ窓口で受け付け、その後、内情を評価してどちらが適切かを振り分けている自治体がある。



アセスメントしていればいいのですが、生活保護は利用させずに、生活困窮者自立支援制度利用という流れができると問題は深刻化・複雑化します。借金がさらに増え、立ち直りが難しいこともあります」



――横浜のケースでは録音していたことが大きかったですよね。



田川「本人がスマホで録音していたので、よかったです。録っていなかったら、『いやそんなこと言ってません。適切に説明しましたよ』と、終わりになっていたでしょう。申請は録音しなきゃいけませんね。



録音禁止と書いている窓口もあるけれど、録音禁止の根拠はないのです。防衛策としては、相談の際に録音しておくことは大事かもしれません」



――生活保護の申請書はダウンロードしたものも、もちろん認められますよね。



田川「つくろい東京ファンドの『フミダン』は23区ならファックス申請ができるようになっている。この間の神奈川区は、申請書を前もって渡してはいないと断ってましたが、新聞広告の裏にでも保護申請書と書いて出せばいいのです。



決まった書式じゃなくていい。書き直せとか、これでは受け付けられませんという自治体もあるけれど、それは間違いです」



――私たちは生活保護を申請できるように、これから何をすべきですか。



田川「生活保護を利用しても恥ずかしいことではないという雰囲気を作っていただけたらと思います。恥ずかしいと思っている人がいたら、そんなことはないと発信していただけたらいいなと思う。



そしてとくに若い世代には、政治に関心持ってほしいです。政治家が生活保護バッシングしてきたので、さらに悪いほうにいってしまった。日本の若者は主権者教育を受けていないので、困ったときにどうしたらいいのかを教えてもらっていないのです。だからSOSが出せない。出したらいけないと思わせられている。



生活保護を利用してもらうためには、行政が相当頑張って宣伝しなきゃいけない。韓国のように『あなたも生活保護利用できます』とソウルの地下鉄に張り出したり、バスのつり広告やYouTubeで配信したり、それが国の役割ですよ」



生活保護は、国民に与えられた権利。日本人は権利に疎い国民でもあるが、自分の力で生活ができない人は、老いも若きもなく公助に頼ろう。生活保護を受けやすくして補足率を上げていくことこそが国の責務だと思う。



【取材協力】田川英信(たがわ・ひでのぶ)さん。社会福祉士。生活保護問題対策全国会議事務局次長。元世田谷区生活保護担当、15年以上生活保護行政に携わる。