2021年04月08日 17:01 弁護士ドットコム
生活保護を受けようとする人のネックの一つになっているのが、「扶養照会」と呼ばれる親族への連絡だ。
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生活保護の申請をした人の親族に扶養(援助)が可能かどうか、福祉事務所が問い合わせるもので、親族に知られたくないため、生活保護の申請自体をあきらめてしまうケースは少なくない。このため、支援団体は厚労省に対し、扶養照会のあり方を見直すよう求めてきた。
こうした声を受け、厚労省は4月1日から、申請者が「扶養照会」を拒否した場合、その理由について「丁寧な聞き取りを行う」運用をスタートさせた。
支援団体は4月7日、新たな運用について見解を表明した。「これまで、扶養照会を行うにあたって要保護者(編集部注:申請者)の意向は無視されてきましたが、『扶養照会をしてほしくない』という要保護者の意向を尊重すべき旨の規定が追加されたのは大きな変化」と評価している。
厚労省は4月1日から、全国の自治体に対し、生活保護申請の実務で使用されている「生活保護問答集」の一部改正をおこなった。
自治体に通知された新しい問答集には、「要保護者が扶養照会を拒んでいる場合等においては、その理由について特に丁寧に聞き取りを行い、照会の対象となる扶養義務者が『扶養義務履行が期待できない者』に該当するか否かという観点から検討を行うべきである」と明記されている。
これまでも、厚労省は2月に、扶養照会が不必要とされるケースとして、「20年間音信不通」から「10年程度」に改め、親族が虐待加害者だった場合にも控えるように自治体に求めてきた。今回の問答集一部改定も、生活保護を利用しやすいよう、さらに一歩進めたかたちだ。
これを受け、支援団体「一般社団法人つくろい東京ファンド」と「生活保護問題対策全国会」は4月7日に見解を発表。「実務運用を大きく改善し得るものとして評価できる点がある」とした。
つくろい東京ファンドの稲葉剛代表理事は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、今回の改定について次のように指摘した。
「ご本人が扶養照会を拒否している場合、丁寧に聞き取りをしたうえで、親族に扶養が期待できる状態かどうかを確認し、扶養が期待できる場合に限って、お願いするという運用になりました。
これまでは、ご本人が嫌だと言っても、問答無用で扶養照会したり、あるいは、ご本人に何も言わずに連絡してしまうことがおこなわれていました。このため、ご本人と親族がどういう関係なのか、確認するプロセスが入ったことは、ポジティブな動きだと考えています。
私たちのところにも、扶養照会がネックになって申請をあきらめたり、ためらったりする方がたくさんいらっしゃいます。そういう方たちが以前より生活保護の申請がしやすくなる環境になると期待しています」
一方で、課題も残っているという。
「生活保護申請はプライバシーに関わることですので、私たちは、ご本人の承諾がなければ親族に連絡しないという運用を求めてきました。しかし、そこまでには至っていません」
つくろい東京ファンドでは、昨年からコロナ禍で生活に困窮している人の相談支援活動を強化してきた。この年末年始、相談者を対象にアンケートをおこなったところ、生活保護を受けていない人128人のうち、利用しない理由として「家族に知られるのが嫌だったから」と回答した人が3割を超えて最も多かったという。
厚労省では4月8日、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、仕事を失った人は10万人を超えたと発表した。
「私たちの支援現場でも、相談件数が急増しています。しかし、生活保護の申請は、微増にとどまっています。背景には、扶養照会を含めて制度上のハードルが高いという問題が考えています。今後、ひとつずつ改善を求めていきたいです」と稲葉代表理事は話している。