ダイナミックマップ基盤(DMP)は「高精度3次元地図データ」(HDマップ)の範囲を一般道に拡大する。HDマップは自動運転の実現に欠かせない“クルマが読む地図”で、現状では高速道路と自動車専用道路しかカバーしていない。範囲が一般道に拡大すると、何が変わるのか。
○一般道でもACCが使える?
HDマップは車線や車線中心線、路肩縁、信号、標識などを含む道路と道路周辺のデータだ。この地図を搭載すると、クルマは自車走行位置や自分が走るべきレーンなどを把握することができる。なので、センサーやカメラといったシステムと制御が加わりさえすれば、正確で滑らかな自動走行が可能になる。「ハンズオフ走行」を実現した日産自動車「スカイライン」の「プロパイロット 2.0」もDMPのHDマップを使用している。先日、市販車として世界初の自動運転レベル3を実現したホンダ「レジェンド」もそうだ。
DMPでは現在、HDマップのカバー範囲を拡大中。2020年度時点では全国の高速道路と自動車専用道路を網羅する3万1,777キロだったが、今後は2023年度に約8万キロ、2024年度に約13万キロの収録を目指す。ちなみに、8万キロは全国の国道をほぼ全て網羅したくらいの規模で、13万キロになると主要な地方道路もカバーできるそうだ。日本には、クルマが走行するような道路が全部で130万キロほどあるという。
HDマップのカバー範囲が拡大すると、何が変わるのか。考えられるのは、現状では高速道路と自動車専用道路でしか使えない「自動運転」的な機能が一般道でも使えるようになることだ。
日産の「プロパイロット」が有名だが、昨今の新型車は運転支援システムを充実させてきていて、高速道路などでは「アダプティブクルーズコントロール」(ACC)が使えるクルマが増えている。同機能を使えば、クルマはドライバーが設定した速度で同一車線を走行し、前にクルマがいれば追従してくれる。ドライバーはステアリングとペダルの操作から解放されるので、長距離移動がずいぶんと楽になる。
ACCはカメラやセンサーで周囲を認識することで機能する。なので、一般道でも理論上は使えるし、実際にシステムをONにすることもできるのだが、ACCを搭載するクルマを販売している自動車メーカーは、一般道でのACCの使用を認めていない。高速道路と違って、一般道には歩行者や自転車、路上駐車のクルマなどが存在しているし、信号をカメラで検知したうえで赤なら停止しなければならないし、そのほかにもさまざまな要素が絡んでくるので、やはり現状では危険なのだろう。例えば、信号が赤に変わりそうで停止すべき状況なのに、前走車に追従したまま通過したりすれば危ないし、間違えて従うべき信号のひとつ先の信号を検知して反応したりすれば、事故を引き起こしかねない。
そこに一般道のHDマップが整備されれば、状況は変わるかもしれない。例えば、信号の位置をHDマップで把握しているクルマであれば、ACCをONにして走行していても、従うべき信号を見落としたり、別の信号に従ったりすることはないはずだ。自分が走るべき車線、その車線内で自分が走るべきライン、右左折専用レーンの有無、車線が増減するポイントなどがHDマップで把握できれば、一般道での自動運転実現に一歩近づくだろう。
とはいえ、実際に一般道でもACCやハンズオフ、自動運転レベル3相当の機能などが使えるようになるかどうかは、そういった機能を搭載するクルマを自動車メーカーが開発・販売するかどうかにかかっている。HDマップがあったとしても、周囲を検知するカメラやセンサーの能力が不十分であればやっぱり安全性は担保できないし、HDマップと高度な技術がそろったとしても、リスクを考慮して商品化を躊躇するメーカーもあるかもしれない。
なので、HDマップがある程度の規模で整ったからといって、一般道で自動運転ライクな機能が直ちに使用可能になるとは限らない。ただ、その可能性が広がってきたことは間違いないだろう。(藤田真吾)