NECでは2018年から、本社(東京・港区)や周辺ビルをはじめ各地でオフィスのリニューアルを順次行っている。なかでも地上43階、地下4階の通称「NECスーパータワー」は、完成から30年が経過。創業の地ということもあり建物の引っ越しはせず、フロアごとに玉突きで移動しながら什器の入れ替えなどを行っている。
従来は「島型対向式」の席配置で、机や椅子も画一的なスチール製。窓際のスペースを役付きの管理職が専有し、窓側に背を向けて座っているため、一般社員はせっかくの窓からの眺めを楽しむこともできなかった。それが「働き方改革」の取り組みを機に、内装や什器をバラエティに富んだ形に見直した。
進め方も外部業者に丸投げせず、社内のスタッフが趣旨を説明し、現場の声を聞きながら行っている。いわゆる「昭和的なオフィス」から、自分たちの手で自分たちが働きやすい形にオフィスを変えていく経験は、社員のモチベーションを上げることにつながったことだろう。同社人事総務部の坂本俊一さんとカルチャー変革本部の宗由利子さん(所属部署は取材当時)に話を聞いた。(キャリコネニュース編集部)
各事業場内にコワーキングスペース「BASE」を設置
NECは2019年5月、本社ビル3階にコワーキングスペース「BASE(ベース)」を新設した。くつろいだ雰囲気で打ち合わせができるラウンジスペースのほか、カフェや図書スペース、集中して仕事に取り組める個人用ブース、セミナーや会議に利用できるホールスペース、スタジオスペースなどを備えている。
約200の座席は、NEC本社およびグループ会社の従業員であれば自由に利用することができる。緊急事態宣言下の取材日(3月)には社員はあまりいなかったが、コロナ禍前には空席を探さなければならないほど利用者が多く、ランチタイム・セッションや役員合宿などのイベントにも多く使われていた。
前編で触れたように、NECでは2018年から中期経営計画の実行力強化のための社内変革プロジェクト「Project RISE」を進めていた。行動基準(Code of Values)も定め、「スマートワーク」というコンセプトでの働き方改革も推進している。BASEもこのような考え方に基づいて作られ、改革意識の浸透にも一役買っている。
「以前はビル内に各部の執務室と会議室しかなかったので、本社と事業場を行き来する人がとどまる場所がありませんでした。そこで交流の場、コラボレーションの場という思いを込めてBASEが作られました」(宗さん)
コロナ後には玉川事業場(川崎市)や府中事業場(府中市)にも「BASE」を設け、利用者がかなり増えている。「サテライトオフィス」としての利用が進んでいるためだ。
「どこでも仕事ができるといっても、自宅がテレワークに適さないという人もいますし、セキュリティ面からカフェなどでの執務も難しいです。社外のサテライトオフィスも最近はなかなか予約が取れないこともありますし、そういう社員は最寄りの事業場をサテライトオフィスとして使っている場合が結構多いです」(坂本さん)
重視した「フロアで働く人たちの自治」
36階はコーポレート部門のフロア。エレベーターを出ると、カジュアルな雰囲気のコラボレーションスペースがある。木製のフローリングを通ってフォーマルな仕事場に向かう間に、徐々に気持ちを仕事モードに入れ替えられるようになっている。
「"環境を変えることで行動を変える"ことを目指していて、できるだけ新しい行動を生み出したいのですが、昔からの習慣ってなかなか変わらなくて。新しい刺激を与えられるようにいろいろな壁紙を使うとか、色のある什器やいろんなタイプの椅子とかソファがあるとか、できるだけ挑戦していくことをやっています」(坂本さん)
1回のオフィスの設計・構築には30人程度の関係者が携わっているが、いわゆる"フロア担当者"が企画して変えるのではなく「フロアで働く人たちの自治」を大事にしている。これはすでにリニューアルを済ませた30近いフロアすべてで同様に行っている。
「私たちはまず、なぜこのような取り組みをしているのか、『Project RISE』の考え方にさかのぼって説明します。それを踏まえて、フロアに入る複数組織の代表者とともに、自分たちはこのフロアでどういう働き方をするからどんな場所が必要なのか、を議論する。そういう過程を経て、自分たちが作ったオフィスという思い入れができるようにしています」(坂本さん)
BASEを作る以前にはオフィス見直しのイメージが湧かず、「総務が決めてくれれば、私たちはそこに入るんで」という人も多かったという。コンセンサスを形成するポイントは「モノ選びに走らないこと」だ。
「ソファがほしいとか、素敵な椅子がほしいとかではなく、みなさんが実現したいこととかやりたいことを聞きます。そこからオフィスの機能を考え、"では、こういう空間にしてはどうでしょうか?"という提案とディスカッションをして、最後は現場の方に選んでもらう。後々使ってもらえるようにするためには、そういうプロセスを踏む必要があります」(坂本さん)
推進スタッフが「新しい挑戦」を後押し
オフィスのあり方を検討した結果、従来とまったく違う形になるため、最終段階で決断に迷うケースも少なくない。推進スタッフは、そこで保守的に戻すのではなく、新しいものを取り込む方向で背中を押していたそうだ。
「"そこは挑戦しましょうよ。うまくいかなかったら、また変えればいいじゃないですか"と。誰かが一歩超えてくれれば、次の人にそれを見てもらって、"じゃあ、ここまで行きましょう"といったことの繰り返しで、ここまで来たということです。作っておしまいではなく、働き方に合わせて変化をさせていくことを強調しています」(坂本さん)
コロナ禍によって、新オフィスに求められる機能も大きく変わっている。
「昔は打ち合わせといえば、会議室に集まるのが当たり前だったので、どのフロアにも大会議室がありました。いまは、リモートワークをしている人たちとZoom会議をすることや、上司との1on1ミーティングも増えてきているので、会議室が小型化しています。ウェビナーの配信機会も増え、そのためのスタジオも設置しています」(宗さん)
NECのオフィスリニューアルで象徴的なのは「窓際の民主化」だ。窓側を開放し、事業部のメンバーがそれぞれ自由に使える。開放感のあるオープンな場でディスカッションをしたり、ひとり仕事をしたりできるようになっている。
以前は、窓の外を見たくても「偉い人」が座っているから見に行けなかった。場所によっては、東京湾やレインボーブリッジ、富士山や東京タワーなどを望める場所が閉鎖的に区切られていることもあったという。
「リニューアルのときに"これってこのビルの財産だよね"ということになり、壁を壊して、窓側を誰でも使えるように"民主化"しました。夜景がきれいなので、暗くなるとわざと電気を消す人もいます。この眺めも含めてプライスレスで、自宅や近くのカフェでは実現しえません。富士山のシルエットが見える窓もあるんですよ」(坂本さん)
オフィスで「組織の結束力」を強くする
そんなオフィスのリニューアルを進める間にも、事業環境は大きく変化している。「新型コロナウイルスの感染拡大」である。現在NECではリモートワークを奨励しており、本社の出社率は25%未満だ。
仕事を進めるだけなら「もうオフィスは要らない」という声もあがる。その一方で、オフィスの意味を見直し、新たな使い方をしようという動きもある。
「コロナ禍の中で組織の結束力が試されているところがありますが、会社における心のよりどころのひとつは"場"なんです」(坂本さん)
NECの強みのひとつは「大きな組織力」であり、扱っているビジネスも非常に大きい。自由に働きながら、いかにして組織の結束力や心理的安全性を担保するかを、オフィスという「場」で表現していく、という試行錯誤をしているという。
現在はフロアすべてを均一なフリースペースにするのではなく、部門専用の「ルーム」というスペースを設ける試みをしている。組織名のプレートとともに、過去に受けた表彰状や盾などその組織を象徴するモノを置くなどして「組織の色」に染めていける場所を作り、その周りにフリーアドレスのスペースを配置する工夫をしている。
「社員から "こういうものを置きたい"という声を聞くと、オーナーシップとか主体性とか、"組織はオープン、全員が成長できるように。"といった『Code of Values』(行動基準)で唱えていたことがボトムアップで出てきたという変化の手応えを感じます。こういう部分に愛着を持って、会社に来る動機づけのひとつにしてほしいと思います」(宗さん)
今後は、コロナ禍で一時利用を取りやめている社員食堂についてもリニューアルを考えているという。社員が一斉に食堂に集まり、食事を終えると職場に戻るスタイルから、時間もバラバラになり、ランチミーティングする人も増えた。
従来のようなオフィスでの仕事を好む人もいれば、もっとカジュアルな環境での仕事を好む人も増えている。そのような変化を受けて、社内の食のあり方をどうするかは、今後の検討課題となるようだ。