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前回の記事では、総支給額から差し引かれる税金や社会保険料の種類を解説しました。今回は、モデルケースを用いて、手取り収入の計算方法をわかりやすく解説していきます。
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■総支給額から控除される金額の計算方法
まずは、総支給額から差し引かれる社会保険料や税金の計算方法を確認しましょう。
▼健康保険料・厚生年金保険料の計算方法
健康保険料と厚生年金保険料の計算方法は、以下の通りです。
健康保険料・厚生年金保険料=標準報酬月額(標準賞与額) × 保険料率 ÷ 2
「標準報酬月額」は、勤務先から支払われる給与をもとに、「標準賞与額」は賞与をもとに決まります。2で割っているのは、保険料の半分を勤務先が支払ってくれるためです。
勤務先から支給される基本給や役職手当、通勤手当などの各種手当を加えた1カ月の総支給額を「報酬月額」といいます。標準報酬月額とは、その年の4月~6月までの平均報酬月額を、所定の等級区分に当てはめて決まる金額です。
健康保険を運営している団体は「全国健康保険協会」と「健康保険組合」の2種類があります。健康保険の保険料率は、制度を運営している団体によって異なります。また、全国健康保険協会が運営する協会けんぽは、地域ごとに異なる料率が設定されているのです。
なお、協会けんぽの保険料率は、全国健康保険協会のHPから確認できます。例えば、報酬月額が208,000円、勤務地が東京であった場合、標準報酬月額は200,000円、健康保険料率は9.84%、厚生年金保険料率は18.3%となります。
出典 : 全国健康保険協会 「令和3年度保険料額表(令和3年3月分から)」
▼雇用保険料の計算方法
雇用保険料は「総支給額×保険料率」で決まります。保険料率は、職業によって異なります。令和3年における雇用保険の保険料率は、以下の通りです。
一般の事業:3/1,000(9/1,000)
農林水産・清酒製造の事業:4/1,000(11/1,000)
建設の事業:4/1,000(12/1,000)
※厚生労働省「令和3年度の雇用保険料率について」をもとに作成
※カッコ内は、事業主(勤務先)負担分も合わせた合計の保険料率
出典 : 厚生労働省 「令和3年度の雇用保険料率について」
雇用保険も労働者と勤務先が分担して保険料を納めますが、健康保険や厚生年金保険とは違い勤務先の負担割合が多くなっています。
▼所得税の計算方法
給与から源泉徴収される所得税は、課税対象となる支給額から社会保険料を差し引いたあとの金額や、扶養家族の人数によって決まる仕組みです。扶養家族とは、簡単にいうとあなた自身が養っている所定の条件を満たした家族のことです。
源泉徴収税額は「給与所得の源泉徴収税額表」に記載されています。令和3年分の源泉滁州税額については「給与所得の源泉徴収税額表(令和3年分)」をご確認ください。
出典 : 国税庁 「給与所得の源泉徴収税額表(令和3年分)」
給与所得の源泉徴収税額表は、事前に「給与所得者の扶養控除等申告書」を申告した場合に適用される甲欄と、提出がない場合に適用される乙欄に分かれています。
給与所得者の扶養控除等申告書は、あなたに扶養家族がいない場合でも提出が求められる書類です。仮に提出しなかった場合は、より高額な乙欄に記載されている税額が給与から源泉徴収されてしまうため、忘れずに提出しましょう。
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■給与の手取り額をシミュレーション
では、手取り収入はどのように計算するのでしょうか? ここでは、以下のモデルケースを用いて手取り収入をシミュレーションします。
基本給:205,000円
残業手当:40,000円
報酬月額(総支給額):245,000円(205,000円+40,000円)
勤務地:東京
職業:一般の事業
加入する健康保険:全国健康保険協会(協会けんぽ)
年齢:23歳
扶養する家族の人数:0人
なお、今回のシミュレーションでは、報酬月額と総支給額は同じ金額としますが、実際は異なる場合があります。
▼天引きされる健康保険料・厚生年金保険料
「令和3年における協会けんぽの保険料額表」によると、勤務地が東京、年齢が40歳未満である場合、健康保険の料率は9.84%です。また報酬月額が245,000円である場合、標準報酬月額は240,000円となります。
出典 : 全国健康保険協会 「令和3年における協会けんぽの保険料額表」
そのため給与から天引きされる健康保険料は、以下の通りです。
健康保険料=標準報酬月額(標準賞与額)× 保険料率 ÷ 2
=240,000円×9.84%÷2
=11,808円
厚生年金保険料の料率は、18.3%であるため、以下の金額が給与から天引きされます。
厚生年金保険料=標準報酬月額(標準賞与額) × 保険料率 ÷ 2
=240,000円×18.3%÷2
=21,960円
▼天引きされる雇用保険料を計算
モデルケースおいて、給与から天引きされる雇用保険料は、以下の通りです。
雇用保険料=総支給額×保険料率
=245,000円×(3/1,000)
=735円
▼源泉徴収される所得税を計算
源泉徴収される所得税を計算するときは、社会保険料の合計金額を先に求める必要があります。シミュレーションの条件における社会保険料は、以下の通りです。
社会保険料=健康保険料+厚生年金保険料+雇用保険料
=11,808円+21,960円+735円
=34,503円
よって社会保険料控除後の給与金額は、以下の通りです。
社会保険料控除後の給与金額
=245,000-34,503円
=210,497円
「令和3年分の給与所得の源泉徴収税額表」によると、給与所得者の扶養控除等申告書の提出があり、社会保険料控除後の給与金額が209,000円以上211,000円未満、扶養家族の人数が0人である場合、源泉徴収される所得税額は5,130円です。
出典 : 国税庁 「令和3年分の給与所得の源泉徴収税額表」
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▼手取り収入額を計算
総支給額から社会保険料や所得税を差し引くと、手取り収入額は以下の通りです。
手取り収入額=総支給額-健康保険料-厚生年金保険料-雇用保険料-所得税
=245,000円-11,808円-21,960円-735円-5,130円
=205,367円
よってモデルケースにおける手取り収入額は、205,367円となりました。総支給額の約83.8%が、給与口座に振り込まれることになります。
▼初任給の手取り額を計算
企業の多くが、健康保険料と厚生年金保険料を翌月控除としており、4月入社の方は、5月の給与から天引き開始となる場合があります。その場合、初任給の手取り額は、以下の通りです。
手取り収入額=総支給額-雇用保険料-所得税
=245,000円-735円-5,130円
=239,135円
4月の手取り収入額が、本来の金額ではない可能性があります。初任給の給与明細を受け取ったら、健康保険料と厚生年金保険料が天引きされているか必ず確認しましょう。
また、本記事のシミュレーションは、入社1年目の手取り収入を想定しています。入社2年目の6月からは住民税の給与天引きが開始されるため、手取り収入は変化するでしょう。
■手取り額を把握して毎月の予算を立てる
毎月の手取り額や自由に使える金額を把握していると、家計の管理がしやすくなります。また総支給額から控除される金額の計算方法を知っておくと、残業時間の変化や昇給、資格の取得などで総支給額が変化したときに、手取り収入の計算が可能です。
毎月給与明細を受け取ったら、総支給の金額だけでなく、控除されている金額や種類を必ず確認しましょう。
品木彰 しなき あきら 保険・不動産・金融ライター/2級ファイナンシャル・プランニング技能士大手生命保険会社にて7年半勤務し、チームリーダーや管理職候補として個人営業、法人営業の両方を経験。その後人材会社で転職したのちに副業としてwebライターを始める。お金に関する正しい知識をたくさんの人々に知って欲しいとの思いから、2019年1月よりwebライターとして独立。これまで保険、不動産、税金、音楽など幅広いジャンルの記事を、多数のメディアで執筆・監修している。 この著者の記事一覧はこちら(品木彰)