「就職したらいくらの給与が振り込まれるのだろう」と、初任給を楽しみにされている方は多いのではないでしょうか。
厚生労働省の調査によると、大学を卒業した人の初任給は平均で21.02万円(※)です。しかしながら、初任給のすべてが、あなたの口座に振り込まれるわけではありません。
※厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況」
そこで今回は、4月から入社される方に向けて、初任給の総支給額のうち、給与口座に振り込まれる手取り収入の計算方法を、わかりやすく解説していきます。
FPとは:
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■初任給の総支給額と手取り額が違う理由
手取り収入が総支給額よりも少なくなるのは、税金や社会保険料が差し引かれるためです。
例えば、総支給額が235,000円、差し引かれる税金や社会保険料が合計で40,000円であった場合、手取り額は195,000円となります。場合にもよりますが、手取りの収入額は、総支給額の7~8割程度といわれています。
給与明細では、手取り収入額を「差引支給額」と表記しているのが一般的です。また年収とは、基本的に年間の総支給額の合計を指します。
▼収入を得たら税金を納める必要がある
税金とは、道路や橋などの公共財の整備・開発や、教育・福祉などのサービスを国が提供するために国民から徴収する金銭です。商品を購入するときに支払う、消費税がもっとも身近な税金でしょう。
給与のような所得が発生した場合、所得税や住民税を納める必要があります。本来、所得税や住民税は、自分自身で納める税金です。しかし会社員や公務員などの給与所得者の場合、勤務先が給与から所得税や住民税を天引きして代わりに納めてくれます。
▼社会保険料の支払いが必要
会社員になると「健康保険」「厚生年金保険」「雇用保険」「労災保険」などの社会保険に加入します。このうち労災保険以外は、勤務先と折半して保険料を支払わなければなりません。
社会保険に加入していると、病気やけがで医療機関を受診した場合や、転職先が決まる前に退職した場合などに、さまざまな給付を受けられます。
■給与の総支給額に含まれる金銭
まずは、総支給額に含まれるものを確認していきましょう。以下は、勤務先から支給される金銭の代表例です。
基本給:職種に応じて支給される基本的な賃金
時間外労働手当:残業をした場合に追加で支給される手当
住宅手当:家賃補助や住宅ローン補助など
出張手当:出張した場合に支給される手当
通勤手当:通勤に必要な費用を補助するための手当
実際に支給される金銭の種類や名称は、勤務先によって異なります。また上記位以外にも、所定の役職に就いた場合に支給される「役職手当」や、業務に活用可能な資格を取得している場合に支給される「資格手当」などがあります。
■総支給額から差し引かれる金銭
次に、総支給額から控除される税金や保険料の種類を確認していきましょう。
▼健康保険料
保険料を支払って健康保険に加入することで、病気やけがで医療機関を受診した場合や、所定の働けない状態となった場合に給付を受けられます。健康保険に加入していることを証明する書類が、健康保険証です。
例えば、風邪をひいて診療所の医師に診てもらった場合、健康保険証を支払い窓口に提示することで、自己負担額が実際の医療費の3割で済みます。
また業務外で負った病気やけがによって働けなくなった場合、要件を満たすと「傷病手当金」を受給できるため、一定期間は収入が途絶える心配がありません。
学生時代、親から健康保険証を渡されていませんでしたか? 学生時代に健康保険証を持てていたのは、親が加入する健康保険の扶養家族になっていたためです。
それが社会人になると、自分自身で保険料を支払って健康保険に加入することになります。ちなみに、40歳以上になると介護保険料も徴収されるようになります。
▼厚生年金保険料
厚生年金保険とは、簡単にいうと所定の状態になった場合に国が年金を支給して、あなたや残された家族の生活を保障するための制度です。
厚生年金保険のような公的年金に加入すると、以下3つの年金を受給できる権利が与えられます。
老齢年金:65歳以上になると受給できる年金
遺族年金:亡くなった場合に配偶者や子どもなどが受給できる年金
障害年金:所定の障害状態になると受給できる年金
また会社員は、基礎年金と厚生年金の2種類が受給できます。例えば、老後は「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の受給が可能です。
▼雇用保険料
雇用保険とは、労働者が失業した場合に、所定の手当を支給してくれる社会保険です。
例えば、次の転職先が決まっていない状態で退職した場合、ハローワークで手続きをすると失業保険(基本手当)を支給してもらえます。基本手当を受給し、退職して収入が途絶えても、生活を維持しつつ次の就職先を探せるのです。
▼所得税
所得税とは、年間の収入(所得)に対して課税される税金です。年収だけでなく家族構成や加入している生命保険によっても、所得税額は変わります。基本給だけでなく、残業手当や住宅手当なども所得税の課税対象です。
また給与から天引き(源泉徴収)される所得税は、あくまで仮の金額です。そのため勤務先は、例年11月ごろに「年末調整」を実施し、所得税を正しい税額に計算します。
年末調整では、実際に支給された給与・賞与と、従業員から申告された家族構成や生命保険の加入状況などをもとに、所得税額が再計算されます。天引きで集めていた所得税額に過不足があった場合は、12月の給与や賞与で精算される仕組みです。
■住民税は入社2年目の6月から給与天引きが始まる
住民税も所得税と同じく、年間の収入(所得)に対して課税される税金です。
住民税が給与から天引きされるのは、入社2年目からです。これは、所得税が当年度の収入に対して課せられる税金であるのに対し、住民税が前年度の収入に対して課税される税金であるためです。
よって入社2年目から、手取り収入が少なくなる可能性があります。ちなみに、住民税が天引きされるのは毎月の給与のみであり、ボーナスからは天引きされません。
■まとめ
手取り収入が総支給額よりも少ないのは、税金や社会保険料が差し引かれているためです。
徴収された税金は、公共財の整備や公共サービスの提供など、国の運営に欠かせいない財源として活用されています。また、社会保険料を納めていることで、あなたが不測の事態になった場合に所定の社会保障が受けられるのです。
では、給与から天引きされる税金や社会保険料はどのように計算するのでしょうか? 次回は、税金や社会保険料の計算方法を紹介します。
品木彰 しなき あきら 保険・不動産・金融ライター/2級ファイナンシャル・プランニング技能士大手生命保険会社にて7年半勤務し、チームリーダーや管理職候補として個人営業、法人営業の両方を経験。その後人材会社で転職したのちに副業としてwebライターを始める。お金に関する正しい知識をたくさんの人々に知って欲しいとの思いから、2019年1月よりwebライターとして独立。これまで保険、不動産、税金、音楽など幅広いジャンルの記事を、多数のメディアで執筆・監修している。 この著者の記事一覧はこちら(品木彰)