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BTS RMはJUNG KOOKにとってのヒーロー 新曲「Film out」にも繋がるイズム

2021年04月04日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BTS「Film out」

 BTSの新曲「Film out」が、4月2日0時より配信がスタートした。この曲は、同日に公開された坂口健太郎主演映画『劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班』の主題歌で、YouTubeにて公開されたMVは早速急上昇ランキング1位に輝いた。


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 さらに、公開から12時間足らずで1700万回視聴を突破し、日本語歌詞にも関わらず各国の言語で117万件以上のコメントが届くなど、改めて「世界のBTS」と呼ばれるにふさわしい人気ぶりを見せつけている(いずれも4月2日11時30分現在)。


 「Film out」は、back numberのボーカル、ギター・清水依与吏が初めて楽曲提供をした曲であり、BTSメンバーのJUNG KOOKがコラボレーション制作したことでも注目を集めている。back numberの得意とする人を想う切ない歌詞とメロディ、そしてBTSの表現力豊かな歌唱が見事にマッチした1曲となった。


 JUNG KOOKの歌い出し〈浮かび上がる君は あまりに鮮やかで〉は、“浮かび”や“あまりに”のタメが叙情的で、MVのカメラアングルのようにグッと聴く者の意識が引き寄せられていく感覚だ。JIMINの繊細なシルキーボイスと、Vの厚みを感じる温かな声が交差し、次第にカメラが映し出す世界はJINの眼差しと重なっていく。


 JINが見つめるのは、RMを中心とした7人のいる部屋。どっしりとした安定感のあるRMの低音ラップが、心の中で停止してしまった時間の記憶を静かに打ち明けているようだ。シルバーボイスと讃えられるJINのまっすぐに届く歌声で〈淡々と降り積もった記憶の中で 君だけを拾い集めて繋げて〉と綴られると、切なさはさらに加速していくようだ。


 さらに、SUGAがいつもよりもグッと優しい声で〈正しくなくていいからさ〉と語りかけ、背中合わせで座りながらJ-HOPEが〈やっと今君のとなりまで 追い付いて〉と応える様子に、思わず胸が熱くなる。


 もちろん、歌っているのは楽曲の世界観だ。だが、彼らのたどってきた昨今の歩みを見ていると、肩の療養で活動を休止していたSUGAが今こうして新曲を一緒に発表できている喜びとも、今なかなか会うことができずそれぞれのドアの先にいるARMY(ファン)を恋しく想っている気持ちともリンクしているように聴こえてくるのだ。そんな感情の高まりを、Vのパワフルな歌声と、JIMINの高音で突き抜けるように歌い上げる流れは圧巻だ。


 back numberの清水が、楽曲提供に際して寄せたコメント「JUNG KOOKさんとの刺激的なやり取り、そしてBTSメンバーそれぞれの持つ個性や表現力のおかげでとても叙情的でいてパワフルな楽曲が完成した事を嬉しく思います」とは、このことだったのかと静かに頷くことができるMVに仕上がっている。


 フィクションの世界観を歌いながらも、常に現実との共鳴を感じることができるBTSの楽曲。その根本となっているのは、BTSが生まれたきっかけとも言えるRMの存在にほかならない。BTSが所属している事務所、HYBEのパン・シヒョク代表は、アメリカ『TIME(タイム)』誌のインタビューで、BTSの始まりは「RMのデモテープ」だったと明かしている。


 そんなRMを見て、事務所に入ろうと決心したのが、JUNG KOOKだった。JUNG KOOKはこれまでことあるごとにRMへの憧れを語っており、ライブ配信のときには「RM兄さんの脳と自分の脳を交換したい」と話していたほど。2020年9月の『GQ』公式YouTubeに掲載されたインタビューでは、JUNG KOOKにとってのヒーローはRMだと発表していた。


 RMとの出会いにって、自分の中に潜在していた何かを探せたような気がすると語るJUNG KOOK。音楽的にも、そして考えや、話し方、行動についても、最も多くを学んだ人として、RMは彼のヒーローと呼べる人だと言うのだ。そのRMが見せてきたイズムが、JUNG KOOKとback numberとのコラボを通じて、2021年の空気感をまとったような「Film out」という新たな作品に繋がっているのかもしれない。


 そんな黄金マンネ(末っ子)・JUNG KOOKからリスペクトされ続けているリーダー・RMが率いるBTSは3月30日、公式Twitterを通じ「#STOPASIANHATE」「#STOPAAPIHATE」のハッシュタグと共にアジア人差別に反対する声明を発表した。その言葉に、かつてRMが語っていた「世の中を変えることができる方法」を思い出す。


 RMの語った「世の中を変えることができる方法」の1つ目は革命家になること、2つ目は世の中を肯定的に眺めることだった。RMは、そのどちらもやり遂げたいと話し、そして努力を続けてきた。2018年9月にはニューヨーク国連本部で開かれた国連児童基金(ユニセフ)の会合で「Speak Yourself」のメッセージを送った姿も、彼を象徴するシーンだ。


 かつて「リーダーであるべき人」とJUNG KOOKが話したように、RMのメッセージは、いつだって明確だ。小難しい言葉よりも、ストレートに。否定ではなく、肯定を。新たな傷を作るのではなく、今傷ついている人に寄り添うところから始めていく。


 今回のアジア人差別反対の表明文も、「あなたと私、そして私たち皆は尊重される権利を持っています。共に立ち向かいましょう」という肯定的な文章で締めくくられているのが、印象的だった。


 RMが、そしてBTSが音楽で伝えてくれるのは、誰もが自分が自分を愛することのできる世界。そして、その権利を誰も脅かすことのない世界。スポットライトが当たるほど、痛みを経験してきた彼らだからこそ、その現実と向き合う強さを持っている。きっと彼らなら、本気で何かが変えられるはず。「世界のBTS」と呼ばれるのは、何かが変わっていくことを、世界が期待しているからかもしれない。(佐藤結衣)