2021年04月03日 09:01 弁護士ドットコム
春になると子どもをもつ親の間で、PTAをめぐる攻防戦が繰り広げられるといいます。本来であれば、子どものための活動であるのに、なぜ時に保護者間の対立をうみ、学校に対する不信感が芽生える結果にもなっているのでしょうか。
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「PTAは必要ですか?」
弁護士ドットコムがLINEで意見を募集すると、様々な声が寄せられました。切実な訴えの声をあげる方もいる一方で、実際に役員をつとめた方からは「やってよかった」という声も届きました。さまざまな体験談をご紹介します。
現在、幼稚園児と小学生の3人のお子さんがいる女性(兵庫県、医療事務、30代)は現在、PTA役員を務めています。その中で「何も知らないところに子どもを通わせているような漠然とした不安がなくて安心感がある」と実感しています。
とはいえ、最初から前向きだったわけではありません。
「役員決めの時の、あの無言の押し付け合いの空気が嫌で役員に立候補したのが始まりでした。結局当たるときは当たるし、様々な決め方で当たった後に良い大人がグズるというのは、仮にも親が…。何事もやってみないと分からないのに、人づての体験談や噂を根拠に嫌がる親が一定数いるのは、同じ親として残念です」
共働きやひとり親家庭が多く、役員は簡単に決まらないそうです。女性は「学校という閉鎖的な組織に関わる貴重な体験ができた」として、来年度も別の役員として活動することが決まっています。
「今年度の事を踏まえ、来年度の行事等は行うにしても時短など工夫や試行錯誤で、少しでも子ども達の助けになるような活動をしたい」と意気込みを話してくれました。
この女性のように、初めはいやいや取り組んだPTAに意義を見出し、毎年のように役員を務める人たちもいました。
「PTAは、必要です。私は子ども5人いますが、いろいろなママ友もでき、毎年、役員をしています。いろいろなママ友からの話が聞けたりしたことで、子育ての悩みがなくなり、PTAは、ベテランです」(関東甲信越、会社員、50代)
3人の子をもつシングルマザーの女性(栃木県、会社員、50代)は「11年間、子どもが小学校にいましたが、その中で7年間役員をしました」といいます。
「本当は2年の約束ですが、入れ替わる方に残って欲しい。とお願いされたり、周りが協力的なこともあり、7年間やってしまいました。でも、やってみて後悔はありません。楽しかったし、今でも交流はある。中学に行っても私を知っている人が多く、そこから更にママ友が増えた。子育てや料理なんかも勉強になった」(同)
PTAは必要だと考える方からは、学校や保護者との信頼関係を築くことができたことが理由として多くあげられました。中には、PTA役員ならではの「役得」もあるようです。
「1人息子のPTAを小学6年間やりました。役員が決まらないというのもありましたが、学校で○○君のママと子どもも学校の先生も認識してくれ、大変だけどやってよかったと思います」(千葉県、販売員、40代)
この女性にとって役得となったのが「役員ならではの運動会や卒業式は良い場所で写真撮れた」ということと、子どものトラブルに早めに対応できたことだといいます。
「子どもや父兄、先生と顔見知りになったことで、『○○ちゃんが最近、1人でいるみたい』『うちの息子が年上にこうやって言われていたよ』といった情報を、草むしりの中やバザー準備などで言われるようになりました。
そのような小さな時点で聞けたので、虐めっ子にも挨拶や積極的に話しかけたり手伝ってもらったりしながら良い関係になり、『ひとが嫌がることはしない方がいいね』という話に。卒業の時はみんな笑顔で男女共仲良く本当に良かったなと思います(^-^) 」(同)
「休みの都合つけるのが大変でしたが、やってよかったです。やってみて思ったのは学校行事の裏側、しくみがよくわかると言うことです。何も知らないくせに外野からPTA要らないとか口だけ出す前にやってみて要るかいらないから意見をいってほしいと思う。
私の学校はとても柔軟に、出来る範囲内で活動できました。会議は基本参加ですが、仕事で出られないときは仕方ないとの考え方。定例会議の日程がかなり早めにでているので調整しやすかった。イレギュラーな会議は仕事で出られなくてもおとがめなし。出来る範囲でやるというスタンスだったので、よかった」(埼玉県、派遣社員、40代)
「PTAの本部役員をしています。子どもの学校生活に通常よりより深く関われて良かったと思います」という方は、PTAをやめたいと行った保護者の対応に苦労した経験があるといいます。
「役員決めのゴタゴタから『PTAをやめます』と言った方がいました。文面はネットで検索したテンプレでした。私はPTAは強制力がないから辞めることを否認しませんでしたが、教育委員会やPTA連合に聞いても、『なんとか辞めることを思いとどまらせるよう』と言われただけで、具体的根拠もなく途方に暮れた覚えがあります」
結局、幾つかの取り決めをした上で脱会してもらうことになりました。
「その書面を作る時に判例を調べ、子どもの不利益にならないことを基本に作り上げたつもりです。その時、『PTAって必要なんだろうか』と強く思いました。
必要だけど、やりたがらないものとして、法的根拠も曖昧な状態です。でも、今ではそれでいいと思います。根拠を作るとそれを翻す人が出てくる。だったら、曖昧なままにしておく方が、子どもにとっての利益になると思います」
教育問題の専門家はPTAをどうみているのでしょうか。名古屋大学大学院の内田良准教授は「PTA問題は、部活動と似た構造。自主的な参加なのにやらざるを得ないことがいけない。日本的だし学校的だ」と指摘します。
「自主的という名の下に、子どものためだから業務が減らせないまま増えていく。やってもやらなくてもいい活動に義務的に巻き込まれるのはおかしいのではないでしょうか。やらなければいけない作業があれば、そこは行政が人を当てるべき。例えば、登下校の見守り活動は、いらないとは言えないが、ボランタリーな努力によって成り立っている。それなら行政が交通指導員などの制度を使ったらどうか」
また、PTAを務めた人が「やってよかった」というのは、「とてもよくわかる」とも内田准教授は話します。なぜでしょうか。
「教育活動はやって悪かったことはなく、子どものための活動をして良くないことはありません。なんらかの子どもの成長があるし、報われる感覚もあるでしょう。
しかしPTAをやる人が疲弊しているのが問題。子どものためにといって、誰かのしんどい思いの元に成り立っているのはおかしいのではないでしょうか。やりたい人ができるサイズ感まで落としていくべきです」
ご意見を寄せてくださった皆さま、ありがとうございました。賛否ともに、なるほどと唸らされるご意見が並び、PTA問題を単純には論じられない難しさを感じます。
入会した覚えはないのに自動的に入会(中には町内会にも自動的に入る学校もありました)、無理な役員決めでうまれる保護者間の対立。さらには退会を申し入れても退会拒否されたり、教育委員会に相談しても「対応できない」と言われたりした方もいました。
一方で、PTA活動が無駄なのかと言われれば、そうとは言い切れないのが難しいところです。PTA脱会や新規役員決めのゴタゴタを、同じ保護者であるPTA役員が行わなければいけないことにも、大きなストレスがかかっている現状もあります。
入退会の自由を推し進めれば、その手続きの負担は誰がするのか(現状では保護者であるPTAがやらざるを得ません)という問題が発生します。また、その年ごとの役員にあわせた柔軟な仕事量、仕事内容を決めるにしても、規約を変えたりそのための会議が発生したりして、逆にPTA役員の負担が増えるのも現実です。
袋小路に入ったかのようなPTAですが、今後どうあるべきなのでしょうか。
保護者たちの子どもや同級生、同じ学校に通う在校生たちを思う気持ちは変わらないはずです。PTAがあることで、保護者間での対立や感情的な軋轢が生まれているのだとしたら、こんなに残念なことはありません。
変えるのも負担、変えないのも負担。それなら保護者任せにせず、学校や教育委員会が「PTAの活動には関与しない」という建前ではなく、ルールの整備を率先していく必要があるのではないでしょうか。