2021年04月01日 13:01 弁護士ドットコム
選択的夫婦別姓制度の法制化に反対する「意見書」が、岡山県議会で3月19日に可決され、地方自治法の規定にもとづいて、国に提出された。「自民党の単独過半数で、可決するのはわかっていたけど、めっちゃ悔しい」。そう話すのは、岡山市内で定食屋を営む横田都志子さん(55歳)だ。この意見書に反対しようとスタンディングデモを呼びかけていた。どんな思いがあったのか。(ライター・黒部麻子)
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岡山県議会で採択された意見書は、保守系団体関係者による陳情を受けて自民党県議団が主導してまとめたもの。「夫婦別姓制度は、家族の絆や一体感を危うくするおそれがある」「子どもの福祉にとっても悪影響を及ぼすことが強く懸念される」などとし、選択的夫婦別姓を認める法改正をしないように求めている。
この意見書については、民主・県民クラブ、公明党、共産党の県議が反対討論をおこなったが、採決では、議長を除く54人の県議会議員のうち、最大会派の自民党37人と無所属1人が賛成した。
全国都道府県議会議長会によると、都道府県議会での同制度に反対する意見書の可決は、2011年以降では初めて。
今回、岡山県内の7市町村議会にも県議会と同じく、同制度への反対を訴える陳情・請願が出されていたが、岡山市議会では3月15日に不採択となった(その他、採択4、趣旨採択1、継続審査1議会)。なお、倉敷市議会と総社市議会では昨年、逆に同制度の導入を求める意見書が可決されている。
選択的夫婦別姓制度の導入に関しては、自民党内でも賛否が分かれている。丸川珠代参院議員(現・男女共同参画担当相)を含む自民党国会議員50人が、同党所属の県議会議長らに同制度の実現を求める意見書を採択しないよう求める文書を送ったことが明らかになり、波紋が広がっている。一方で、推進派も勢いを増し、3月25日には推進派による議員連盟が設立された。
このような動きの中、今回の岡山県議会による意見書の採択に対して、県民からは反対や疑問など、さまざまな声が上がった。
3月11日には、JR岡山駅西口連絡通路で、意見書採択に反対するスタンディングデモがおこなわれた。その後も連日、県議会前ではプラカードを持った人たちがアピールをおこない、3月19日の採決日には60人をこえる人が傍聴に集まった。スタンディングデモを呼びかけた横田さんに聞いた。
――3月19日の採決の日には、たくさんの人が県議会に集まりました。
朝からお店を開けているので、私は傍聴に行けなかったのですが、一日中そわそわして、朝から卵を落としたり、鍋を焦がしたり、失敗ばかりでした。岡山県議会は過半数が自民党なんだから、党議拘束を外さなければ可決されることはわかっていましたが、それでも気になったし、悔しかったです。
――横田さんは、3月11日のスタンディングデモを呼びかけましたが、そのいきさつを教えてください。
私がこの問題を知ったのは、3月7日でした。お店にごはんを食べに来てくれたお客さんから「ねえ知ってる? 岡山県議会で、選択的夫婦別姓の導入に反対する意見書が可決されるかもしれないんだって」と聞いたんです。ネットで調べて、記事も読みました。
なんていうことだと思って、翌日、大学時代の友だちの共産党関係者に「あんたらは何やっとんじゃ!」と電話したんです。そして、何か行動したい、こういう場合どうしたらいいか、と聞きました。そしたら「広く訴えたいなら、あんたが呼びかけなさい」ということで、じゃあ、私がやろうということになりました。
JR岡山駅前では毎月11日、性暴力に抗議する「フラワーデモ」がおこなわれています。その主催者たちに「一緒にやらん?」と電話したところ、「論点がぼやけたらいけないので一緒にはできないけれど、その前の時間帯にやってはどうか」ということになりました。それで3月9日、SNSで呼びかけたんです。
――何人くらい集まりましたか?
デモの前々日に緊急に呼びかけたのですが、それでも多くの人がシェアしてくれて、当日は約50人が集まりました。男性も10人以上来てくれました。実は私、デモを呼びかけておきながら、丸腰で行ったんですよ。プラカードは持ってないわ、マイクは持ってないわ。でも、行ったら、みんな用意してくれていたので助かりました(笑)。
駅通路だったので、若者がたくさん通るのですが、どう言えば伝わるだろうと考えました。「彼女が、あんたと同じ苗字になりたくないから結婚せん、って言ったらどうする?」と言うと結構振り向いてくれました。
それから、改姓するときの大変さ。経験のある人はわかると思いますが、免許証を変えたり通帳の名義を変えたり、大変ですよね。これをどう伝えようかと思っていたら、目の前にGUの店舗がありました。
「もしあれが『BU』になったら、看板から何から、全部書き換えるの大変でしょう。しかも、『BU』が服屋さんだと思う?」って問いかけたら、それも振り向いてもらえました。そういうテクニックをスタンディングデモで磨きました。
――まだまだ他人事という感覚は、一般的にあるかもしれませんね。
私のお店では今、全国女性税理士連盟による選択的夫婦別姓の実現を求める署名を集めています。これをお客さんにもお願いしているのですが、断られるときの言い方として印象的なのが、「わしゃあ夫婦同姓でええわ」とか「私、彼と結婚して同じ姓になれて幸せだから」。この2つです。
そういう考えは否定しません。同姓がいい人は同姓でいい。でも、この署名は、それでは不便で苦しくてたまらないという人のための署名なんですよね。それがなかなか伝わらない。
それから、この問題の根幹には、日本人の結婚観が大きく関係していると思います。「彼の苗字になりたいの」という言葉の下にある真実を見なければならないと思うんです。
日本で、今まで良しとされてきた結婚は、ほとんどが「上昇婚」でした。これは社会学の用語ですが、女性は自分の家よりもちょっとお金のある「格上」の家にお嫁に行く。最たるものが「玉の輿」です。この価値観をずっと刷り込まれてきたのではないでしょうか。「夫の姓が誇らしい」という思いの根っこには、この上昇婚こそ女の幸せという刷り込みがあるように思えてなりません。
この習慣が「女は男よりちょっと下」という女性蔑視の意識を容易に取り去れないくらい根深いものにしている。これを改めて、夫婦が対等な「フラット婚」にならない限り、日本のジェンダーギャップ指数は上がらないと思うんです。欧米だけでなく、中国や韓国よりも日本は下なんですから。
――横田さん自身は、結婚して姓が変わりましたか?
結婚して姓が変わったんですが、ずっと旧姓の「横田」を通称使用してきました。ものすごく不便で不自由です。
よくあるのが、銀行の窓口で、いくら待っても呼ばれないので「私、呼ばれてないんですけど」と言ったら「何度も呼びましたよ、岸本さんって」と。「ああそうか、私、岸本だったんだ」とそこで思うんですけど、ほかのことに集中していると、自分の名前ではないと思っている苗字を呼ばれても、反応できないんです。
それからクレジットカードの本人確認などの電話がかかってきたときに、いつものように「はい、横田です」って出ると、「すみません、間違えました」と切られてしまう。それで本人確認ができず、やり直しになる。こういう不便は数限りなくあります。
何より私は「横田」という姓で、ずっと仕事をしてきました。2018年に定食屋を始めるまでは、建築士として活動してきましたが、ずっと「横田」として仕事をしてきて、結婚して姓が変わって「誰それ?」となるのも、嫌だった。
でも、名刺に刷る名前は「横田」でも、建築士免許や事務所登録の名義は、昔は住民票記載の氏名だったんです(数年前から旧姓を併記することも可能になっている)。だから「別の人が社長さんなんですか?」と不審に思われることもありました。
――「通称使用でいいじゃないか」という意見もありますが、実際は大変なんですね。
先日、知り合いのファイナンシャルプランナーを呼んで、私と夫の年金手帳と所得証明を出して、「私たちがこれから離婚したら、いくら損するの?」って聞いたんです。そうしたら、私たち夫婦の場合は、住民票の住所も違い、同一家計ではないので、遺族年金を受け取れない、つまり夫が先に死亡した場合は遺族年金の年額約60万円分「損をします」ということでした。
それなら、ペーパー離婚して、自分の姓を取り戻してもいいかもしれない。今、本気で検討しています。結婚当初に私が改姓を渋ったこともあり、今まで通称別姓でやってきたこと、そして何より私が横田姓を名乗るのでなければ自分の人生を生きたことにならないと思っていることを、夫は理解しています。
――県議会で可決された意見書に、「夫婦別姓になると家族の絆や一体感が危うくなる」ということが書かれています。
みんな「なに言うてんねん」って思ってるよね。夫婦同姓でも、絆なんか壊れている家族はたくさんあるし、別姓で仲良くやってる家族もいくらでもいるよね。なのに、なぜそう言うのか。
それはやはり、アンペイドワークやシャドウワーク(いずれも家事など賃金が発生しない仕事)と言われる問題があるからだと思います。定食屋をやり始めて、改めて思ったんだけど、本来、ご飯を作ったらお金をもらえるんですよ。
家事を全部外注したら、いくらになるか考えてみてください。
ご飯をつくってもらって、掃除、洗濯をしてもらって、子育てもしてもらうとなったら、月いくら払わなきゃならないか。相当な額ですよね。「家族の一体感」「絆」というのは、そのお金を女性たちに払わないで済ませるための方便だと言ってもいいかもしれない。すごく腹が立ちますよ。
――今回の意見書には「国民の中に広くコンセンサスができていない」とも書かれています。
本当にそうでしょうか? それについては、スタンディングデモにも来てくれた須増伸子県議が指摘していますが、2017年の内閣府の世論調査によると、「夫婦は必ず同姓を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」と答えた人は29.3%、「夫婦がそれぞれ婚姻前の姓を名乗ることができるよう法改正をしてもかまわない」と答えた人は42.5%だそうです。
年齢別では、20代から50代まで、法律を改める必要はないという人は10%台にとどまり、若い人たちは選択的夫婦別姓制度を望んでいる、もしくは許容していることがわかります。別姓を選択できないために結婚をあきらめたり、事実婚を選ぶ人たちのことも知られるようになってきました。
特に、若い人には気づいてもらいたいです。もし何も考えずに「結婚したら、彼と同じ姓になるの」と思っている人がいるなら、上昇婚ということと、アンペイドワークについて考えてほしい。
日本では、まだまだ女性の社会的地位は低いままです。子育ても社会化しなければならないのに、女性ばかりが負担を強いられがちです。こうしたゆがみは、女性を格下で一人前ではないと扱ったことからきているのではないか。そのことを知ってほしいと思います。
・選択的夫婦別姓制度の法制化に反対する「意見書」
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/289173.pdf
・世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップ指数2020」によると、2020年の日本の総合スコアは0.652(0が完全不平等、1が完全平等)で、順位は153カ国中121位だった。