2021年03月31日 08:01 リアルサウンド
小説を音楽にするユニットYOASOBIの人気楽曲「あの夢をなぞって」。その原作小説『夢の雫と星の花』をコミカライズした書籍が、2月14日にリリースされた。
『夢の雫と星の花』は、原作者・いしき蒼太による甘酸っぱいラブストーリー。予知夢能力がある女子高生・双見楓は、花火大会の日に幼なじみの一宮亮から告白される夢を見る。ところが、亮も予知夢能力を持っており、楓から告白される夢を見ていた。どちらの夢が現実になるのか……?
未来を予知できるからこそ揺れ動く想いが、kancoによる作画で繊細に描かれる。コミカライズにあたり、コミックには2人のその後が紡がれた書き下ろし小説や、キャラクターラフ、予知解説図なども収録。楽曲ファンも、原作ファンも、必見の1冊になっている。
今回リアルサウンドでは、原作者のいしき蒼太、そして作画を担当したkancoに、インタビューを企画。原作小説が生まれた背景から、コミックが完成したときの想い、YOASOBIのライブに参加したときの感想など、たっぷりと語ってもらった。(佐藤結衣)
■「終盤の花火シーンのためにこの小説を書きました」
――最初に、小説『夢の雫と星の花』を書かれたきっかけについて教えてください。
いしき蒼太(以下、いしき):公募のサイトで『モノコン2019』というコンテストを見つけたのがきっかけです。“90日後に原作者。”というキャッチコピーが書かれていて、ワクワクしました。自分が書いた小説が、ミュージックビデオになるかもしれないと考えて、応募しようと思いました。
――『夢の雫と星の花』では、予知夢がキーワードになっていますが、もしかしていしきさんもそうした力が?
いしき:いえいえ、自分の経験からというわけではありません(笑)。なぜ、予知夢をテーマにしようと思ったのかは、今でははっきりと思い出せないのですが、「良いアイデアが浮かんでワクワクしてる!」とツイートしていたのは覚えています。アイデアの段階で手応えのようなものがあったので、どうにかコンテストの締め切りまでに形にしたいなと思いました。
――思い入れのあるシーンを教えてください。
いしき:気に入っているのは、やはり終盤の花火のシーンですね。このシーンのために小説を書いたといってもいいくらい。逆に、苦労したのは冒頭と中盤にある2つの予知です。終盤の花火のシーンに向けて、どのように展開をつないでいくのか、試行錯誤しながら進めていったので。
■「“あのMVの2人にこんな大変なことが!?”」
――kancoさんが作画を担当することになったのはどのような流れからだったのでしょうか?
kanco:『COMITIA』という創作系のイベントサークルに参加した際、担当編集さんの目に偶然とまったというのがきっかけでした。小説を音楽にするという企画から、コミカライズという、あまり聞いたことがなかった展開だったので、“おもしろそう!”と惹かれました。
――小説を最初にお読みになった感想はいかがでしたか?
kanco:とても爽やかな、清涼感のある文章で、主人公2人の一生懸命さが伝わってくる作品だなと感じました。予知の展開の仕方にも引き込まれましたね。実はすでにリリースされていた「あの夢をなぞって」を聴いてから、小説を読ませていただいたのですが、“あのMVの2人にこんな大変なことが!?”と驚きました(笑)。
――先ほど、小説から音楽、そしてコミカライズと、あまり聞いたことのない展開だったとおっしゃっていましたが、作品を手掛ける上で心がけたことはありましたか?
kanco:小説も、楽曲も、形としては別々の作品ではありますが、2つでひとつの物語としても成立している気がしていたので、さらに漫画でも2つの作品とリンクさせていきたいと考えて、作業を進めていきました。キャラクターデザインもそうですが、予知のシーンでMV演出のエッセンスをお借りしたり、原作のセリフのほかにも歌詞をイメージしてみたりと、作業中は2つの作品を行ったり来たりしていましたね。
■キャラクターに命が吹き込まれた
――いしきさんは、kancoさんの作画をご覧になったときどんな感想をお持ちでしたか?
いしき:頭の中で思い描いていたキャラクターたちが、絵にしていただいたことで、命が吹き込まれたような気がして、とても感動しました。
kanco:ありがとうございます!
――いしきさんは先ほど「お気に入りは花火のシーン」とおっしゃっていましたが、kancoさんの思い入れのあるシーンはどこでしょうか?
kanco:私も、いしきさんと同じで花火のシーンがお気に入りです。最初と最後を飾る大切なシーンだったので、印象的になったらいいなと思って描きました。そして、苦労したのはやはり予知との時系列を合わせていくところです。言動も楓から見たものと、亮から見たものとで、ズレがないかなど……担当編集さんにも何度も確認していただいて、とても助かりました(笑)。
■地元での交流会で実感した作品の力
――書籍化されたときのお気持ちは?
いしき:『夜に駆ける YOASOBI小説集』の時もそうだったのですが、見本をいただいたときに、改めて“本当に本になったんだ”という実感が湧きましたね。書店などに行った際にはどこかに置かれているのかなと思ってつい探してしまっています。
kanco:いろんな角度から、好きなように物語の中を渡り歩ける作品なので、書籍版もその中に加えて楽しんでいただけましたらうれしいです。
――反響も大きかったですか?
kanco:最近、漫画家として地元の小中学生と交流する機会をいただくことがあったのですが、生徒のみなさんはもちろん先生方もみなさんYOASOBIさんをご存知で。幅広い年齢層の方と、共通の話題を持つことができました。改めて、すごい作品に携わらせていただいたのだと実感しました。
いしき:SNSで発売を楽しみにしてくださっているツイートや、「購入しました」という報告の声を拝見して、うれしかったですね。
――今回の書籍化では書き下ろしの「アナザーストーリー」も追加されました。続編を書かれたのは、どんなお気持ちでしたか?
いしき: 本編を書いたときには考えてもなかったことなので、実はけっこう悩みながら書いてました(笑)。
kanco:私は、楓が頑張っている姿をたくさん描けて楽しかったです!
■YOASOBI初ライブの1曲目に「あの夢をなぞって」が!
――もともと、YOASOBIの楽曲について、どのような印象をお持ちでしたか?
いしき:初めてフルでYOASOBIの楽曲を聴いたのが「夜に駆ける」のYouTubeでのプレミア公開でした。それは自分の小説が原作となっている楽曲ではなかったのですが、それでも初めての曲が楽しみで……。実際に聴いたときは、“小説を基に曲を作るっていうのは、こういうことなんだ、すごいな”って思ってました。
kanco:私も初めて聴かせていただいたのは「夜に駆ける」でした。MV含め世界観のある楽曲にikuraさんの素直な歌声が絶妙だと感じました。その後に「あの夢をなぞって」だったので、“振り幅がすごい!”と感動しました。もともとAyaseさんのボカロ曲を知っていたので、そこで繋がってさらに驚きました。
――おふたりともYOASOBIの初ライブにも参加されたそうですね。いかがでしたか?
いしき:オンラインライブだったので、他の参加者が盛り上がっているコメントを見つつ参加していました。歌や演奏ももちろん素敵でしたし、建設中のビルが会場になっていたり、エンドロールなどの演出にもこだわっていたりと、どの方向から見ても素晴らしかったです。コメントとのやり取りもあったりして、オンラインならではのライブだったなと思いました。
kanco:私は家族で集まって観覧しました。それもオンラインライブならではのいいところですよね。まず、オープニングからワクワク感がすごかったです。エレベーターから始まって“どこ行くんだろう? え? 屋内じゃないの?”と期待が高まって、ikuraさんのアー写のポーズで「キャーッ!」となりました! 1曲目が「あの夢をなぞって」で、花火がプロジェクションされたのも、すごく感動しました。実はお仕事で演劇やコンサート系のスタッフをやっていたことがあって、あの建設中のビルが舞台になっているのが、すごく羨ましかったです(笑)。
――おふたりは日頃、音楽にはどのような形で触れていますか? 作業中にもBGMとして聞くことはあるのでしょうか?
いしき:普段はYouTubeで、ボカロや「歌ってみた」動画で音楽を聴いています。小説を書く時にはできるだけ何も聴かないようにしているのですが、たまに聴き慣れた曲をループでかけているときはありますね。
kanco:私は、バンドもJ-POPも洋楽もインストも……ジャンルを問わず、「これ好き!」と思ったものを片っ端から聴いています。最近ではボカロ曲や歌い手さんにハマったり、K-POP沼にもずぶずぶです! 漫画の作業中にも聴いて、いつも助けてもらっています。ネームとか考える作業のときと、ひたすら手を動かす作画作業のときとは、聴く曲が違くて。作画中はライブ映像を流しながら、なんなら歌っちゃって、テンションで乗り切っていることもあります(笑)。ライブに行くことも大好きなので、早く安心して気軽に会場に行けるようになることを願っています。
■「心にずっと残るようなお話を書けたら」
――そもそもおふたりが小説、漫画を描かれるようになったのはいつ頃だったのでしょうか?
いしき:初めて小説を書いたのは、おそらく2017年ごろだったと思います。
kanco:漫画を読み始めたのは小学生のころでした。両親に漫画初心者セットみたいなものを買ってもらって。そこから好きな作品を真似してイラストや漫画もどきのようなものを描き始めた感じです。
――特に影響を受けた作品はありますか?
kanco:本当に沢山あるので挙げたらきりがないくらいですが、緑川ゆき先生の『緋色の椅子』、松本大洋先生の『GOGOモンスター』、林田球先生の『ドロヘドロ』などが特に好きでした。漫画以外では超有名作品ですが、『ヱヴァンゲリオン』や『パトレイバー』『攻殻機動隊』『AKIRA』『ナウシカ』などは、繰り返し観るくらい大好きですね。影響は全然感じられないかもしれませんが、根底はその辺りにあると思っています (笑)。
――作品を創作する上で大切にしていること、ご自身のなかで芯となっているテーマがあったら、教えてください。
いしき:自分も好きなのですが、読んでいくうちに“そういうことだったんだ”とわかる、何か驚きのようなものを入れたいなと思うことが多いですね。
kanco:Twitterのヘッダーにも「青春が主食」と掲げているんですが、「青春」というワードがイメージするものに憧れ続けていたい気持ちと、刹那的だからこそ抱ける大きな感情と変化を描いたり読んだりするのが大好きです。普段はBL作品をよく描いていて、NL作品は今回が初めてだったのですが、特別違いを意識したことはなく、なかなか素直になれない可愛さを、キャラクターに似合った仕草や表情で描きたいというのは、いつも考えています。
――“予知”のキーワードにちなんで、おふたりが今後どのような作品を描いていくか、という目標や未来予想はありますか?
いしき:切なさや感動で泣いてしまうようなお話や、思いもよらない展開で心にずっと残るようなお話を書けたらなと思っています。
kanco:現在は、異世界ものも手掛けさせていただいていて、いろんなジャンルを描けることが自分の強みのひとつでもあるかなと考えています。機会があればさらに挑戦して、ゆくゆくは自分の世界を一つ築けるような作家になる……という予知夢を見たいなと思います!
(取材・文=佐藤結衣)