トップへ

まるで『ジョジョ』の岸辺露伴? 「ジャンプ」ネクストブレイク作品『アンデッドアンラック』が衝撃のメタ展開

2021年03月30日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 戸塚慶文のSF異能バトル漫画『アンデッドアンラック』(集英社)の第5巻が発売された。「週刊少年ジャンプ」で連載されている本作は、死なない身体を持った「不死」(アンデッド)のアンディと、肌に直接触れた者に不幸が降り注ぐ、不運(アンラック)の出雲風子の物語。アンディと風子は、2人の命を狙う組織(ユニオン)と戦う中で同じような異能力を持つ否定者たちと出会い、やがて組織の頂点に立つ特殊チーム・円卓の否定者の10人に選ばれ、自分たちが持つ「否定の力」の謎と、この世界の秘密について知ることになる。


関連:【画像】岸辺露伴は動かない


 以下、ネタバレあり。


 円卓の否定者・No.3のビリーの裏切りによって、組織は半壊する。ビリーの目的は世界をループするための古代遺物(アーティファクト)・アーク。実は今の世界は神によって何度も滅ぼされ、円卓の否定者・No.1のジュイスと、アンディの主人格であるヴィクトールだけが過去の世界の記憶を持ったまま、アークの力で、何度も同じ世界をループしていたことが明らかになる。


 世界の理(ルール)を支配する神を殺すため、ジュイスはまず、ビリーを拘束し、彼が束ねる組織アンダー(UNDER)を潰すと宣言。円卓の否定者たちは新たな課題(クエスト)に挑むこととなり、アンディと風子は、この世界の過去と未来について書かれた本の調査を依頼される。その本とは何と、風子が愛読しているSF長編少女漫画「君に伝われ」(全101巻)。


 作者の覆面漫画家・安野雲(あんのうん)に接触するため、風子は『君に伝われ』が連載されている集英社に、新人漫画家として持ち込みをおこなう。矢継ぎ早にSF的なギミックと異能力バトルを展開してきた本作だが、この巻で驚いたのは「漫画家編」とでも言うような予想外の展開を見せたことだ。 


 同時に凄いのは「君に伝われ」自体は、第1巻冒頭からすでに登場していたこと。その時は、恋に憧れる風子の愛読する漫画という以上の意味は見いだせなかったのだが、冷静に振り返ると、物語の節々で「君に伝われ」は登場していたため、安野雲の登場は最初から予定していたのだろう。


 余談だが、そこで風子が持ち込む漫画(アンディと風子のことを書いた『アンデッド+アンラック』(+は読まない)という、本作のような作品)に対し、集英社の編集者が「もちろん線やデッサンは構成と違っててんでダメだし絵柄も古い」「デザインセンスもあんまりない感じだけど」と意見を言い、風子がダメージを受ける場面は、思わず笑ってしまった。


 確かに本作は、アイデアの斬新さと構成の絶妙さ、そしてテンポの良さは突出しているが、絵柄は80年代の漫画を読んでいるようで(欠点とは思わないのだが)違和感があったので、作者も気にしていたのだなと、微笑ましかった。


 その後、アンディと風子は、安野に会うため、カナダのスタンレーパークへと向かうのだが、そこに人の人生を食らう怪物(UMA)・オータムが現れる。今のアンディたちの力では、オータムを捕獲することができないと知った安野は2人を連れて逃走。安野は漫画によって未来予知ができる否定者だったが、彼の目的はループしている今までの世界とは違うエンディングを作り出すことだった。


 そのためには風子とアンディのパワーアップが必要で、安野は「具現化の力」で生み出したオータムの爪でアンディを本に変えて、風子を過去へと送り込む。そこで風子は18世紀のアメリカを旅するアンディと対面。彼の人生を追体験することで(記憶の中の)アンディ=ヴィクトルと対峙することになる。相変わらず超展開の連続だが、今回、何より面白かったのは安野雲の登場だろう。


 漫画の中に漫画家が登場する展開は、古くからある手法で、手塚治虫も『バンパイヤ』等の作品に自分自身を漫画のキャラクターとして登場させている。ジャンプで言うと『ジョジョの奇妙な冒険』第4部に登場した岸辺露伴が有名だ。後に『岸辺露伴は動かない』という連作短編集の主人公になるくらい本編そっちのけの強烈なキャラクターとなった岸辺露伴だが、安野雲は、露伴に匹敵する強烈な存在感を見せている。アンディを分厚い本に変える場面などは、露伴が劇中で使う、相手を本に変えることで、記憶を読んだり、行動・記憶を操ることができる「ヘブンズ・ドアー」を思わせるものがある。


 世界がループしていることや、新しい理(ルール)が世界に追加されたりといったメタフィクション的要素が盛りだくさんの本作だが、世界の命運を予知し、そのことを漫画にすることで未来の仲間たちにメッセージを送る安野は、まるで作者自身が漫画の中に参加して、アンディたちを助けているかのようで、『アンデッドアンラック』ならではの超展開だと言えるだろう。


 普通、こういう展開が続くと、物語が複雑になり過ぎて敷居が上がってしまうものだが、最終的に面白いバトル漫画として読めてしまうことこそ、本作の一番凄いところかもしれない。


(文=成馬零一)