東急池上線の池上駅は池上本門寺へのアクセス駅として知られる。近年はこの地に暮らす人も増え、2019年度の乗降客数は1日あたり3万6,564人となっている。
1922(大正11)年、池上電気鉄道の開通とともに開業した池上駅は、もうすぐ100周年ということもあり、構内踏切の除却などで駅利用者の安全性を向上させ、あわせて利便性も向上させるため、駅舎改良工事と駅ビル開発の事業を一体化して行うことになった。
これまでの木造駅舎が解体された後、2020年に橋上駅舎が完成し、構内踏切がなくなった。これまで駅北側からしか出入りできなかったが、駅南側からも出入りできるようになった。その後、駅施設等の工事が進められ、池上線初の「エトモ」となる「エトモ池上」が3月30日にグランドオープンを迎える。前日の3月29日に内覧会が行われた。
○■門前町の新しいシンボルとして
「エトモ(etomo)」は「駅と、もっと 街と、もっと」をキャッチコピーとする東急の商業施設。「エトモ池上」では、「日々の暮らしを支え、彩る、門前町の新しいシンボル」をコンセプトに、木の温かみと「和」を感じさせるモチーフを散りばめ、かつ旧池上駅舎の記憶を受け継ぐように、古材「えきもく」を使用し、親しみを感じさせるような施設となっている。
線路をまたぐような商業施設でありながらも、正面のデザインは線路で分断しないようにしており、駅の中から電車が現れるような形状となっている。
池上本門寺と連動するように、大庇と列柱がデザインされ、街へのゲートという印象を与えるようにしている。行灯は池上本門寺の万灯をモチーフにしている。北口の吹抜けが開放感を与える。
池上駅では北口・南口ともにエスカレーターとエレベーターを設置。旧駅舎時代にはなかった南口ができたことで、駅南側の利用者は付近の踏切を渡る必要もなくなった。南口の近くには、池上線などで活躍するツートンカラーの電車と同じ黄色・紺色に塗り分けた郵便ポストが設置されている。
○■仲見世をイメージした商業施設、温かみのある駅構内
2階コンコースは「池上仲見世」と称し、あえて軒を抑えることで、にぎわいのある雰囲気を演出している。池上線では蒲田駅にしかなかった東急系列の駅そば「しぶそば」も開業。地域との連携として、「村田商店のあんみつ」や、温かいそばに海苔を乗せた「花巻そば」もメニューに加わった。
コンコースの左右には、「池上 東急フードショースライス」として、持ち帰り惣菜やパン・菓子などを販売する店舗が軒を連ねており、昼間に池上本門寺を訪れた人や、帰宅中の人が各店舗を見て楽しめるようになっている。
改札を通ると、構内は木で装飾されている。奥にはもともと使用されていた白いペンキで塗られたベンチと、初代3000系の模型が展示されている。
エスカレーターから続く木壁は、ホームに降りると壁から天井まで一体化され、駅のベンチまでひとつになっている。座ると木のやわらかさを感じられる。
○■スーパーにカフェ、図書館も
3階には「東急ストア」が設けられ、食品などの買い物は十分できるようになっている。「カルディコーヒーファーム」でコーヒー豆や輸入食品を購入でき、併設の「カフェカルディーノ」ではテラスから池上本門寺を眺められる。
4階には大田区立池上図書館があり、こども向けに池上線の電車を模したスペースもある。同じフロアにある「スターバックス」へ、図書館の本を持ち込むことも可能だ。ホットヨガスタジオやフィットネスジムも4階にある。5階にはクリニックや学童保育施設、保育園が設置されている。
「エトモ池上」では、木造だった旧駅舎の記憶を未来に継承すべく、「スターバックス」店内のアートパネルや、2階にある図書館の返却ポスト、メインエントランスのプランターなど、施設内の複数の箇所で「えきもく」を使用している。内覧会で取材に応じた担当者は、「木造の駅への愛着や、これまでの歴史の継承を意識し、この駅をつくりました」と語った。
単純に駅施設を新しくするだけでなく、古き良きものも生かし、質感の高い駅施設となった「エトモ池上」。ここから新たなにぎわいが生まれるだろう。(小林拓矢)