2021年03月29日 10:31 リアルサウンド
3匹の愛猫と暮らし、ねこライターを名乗っている筆者は自他ともに認める猫好き。だが、『うちのトイプーがアイドルすぎる。』(道雪葵/KADOKAWA)を手に取ると、猫への忠誠心が揺らいだ。自由気ままな我が家の猫たちとは違い、全身を使って愛情を表現する犬という動物も愛おしく思えたから。
本シリーズに描かれているのは、作者である道雪氏と愛犬・クーさんの微笑ましい日常。トイプードルのクーさんはこれまでに数多くのあざとかわいい姿を披露し、多くの愛犬家や動物好きをキュンとさせてきた。
そんな大人気シリーズの最新刊には、シニア期の愛犬に対する作者の想いが詰め込まれており、胸が締め付けられた。本作は、命と向き合うことの重さを再認識できる一冊でもある。
■愛犬クーさんと過ごすコミカルな日常
クーさんが作者宅にやってきたのは、今から14年前のこと。作者はもともと動物が大の苦手だったが、クーさんとの出会いにより動物好きに。2人の日々は、とてもコミカルだ。
例えば、クーさんは人家族同士が「アレ」や「ソレ」といった略語で意思疎通をするように、散歩に行きたいアピールを簡略化。玄関前の引き戸に体を半分だけ入れ、おねだりをするようになったそう。長い間、一緒に暮らしてきたから見出した、この意思伝達法はなんとも微笑ましい。
また、おいしいものを食べた後にハイテンションになるのもクーさんのかわいい個性。音の鳴るボールを咥えて鳴らし、喜びを表現するそう。感情の度合いによって尻尾の振り方も変え、「微ぶり」「中ぶり」「強ぶり」「神風」と、多彩な動きを見せてもくれる。
こうした無邪気さに思わず目尻が下がってしまい、同時に些細な変化に気づける作者のワンコ愛に心打たれた。全身を使って気持ちを伝えてくれる愛犬を見ては、笑顔になれる日常……。自称・猫の下僕である筆者から見ても、そんな毎日は羨ましく思える。
■おじいちゃんになってもクーさんは「我が家のアイドル」
今でこそ人間が大好きで甘えん坊なクーさんだが、家に来たばかりの頃はとにかく懐かず、抱っこはもちろん、撫でることも難しかったそう。
そこで、作者家族はクーさんとじっくり向き合い、徐々に心の距離を近づけていった。ちょっぴりあざとくて腹黒いという本来の個性が見られるようになったのも、家族の努力があったから。共に歩んできたこの14年間は家族にとって、宝物のような時間だった。
そうした過去を振り返りつつ、シニアとなり、足腰が衰えて目が見えづらくなったクーさんに対し、作者はこんな言葉を寄せる。
〈犬はシニアになっても 驚くほどずっと可愛いの最高記録を更新し続けているのです〉
〈うちの犬は いくつになっても世界で一番可愛いと思うのです〉
動物も歳を重ねると人と同じく、できないことが増えていく。トイレを失敗したり、病気になったりもし、必然的に飼い主にのしかかってくる負担が多くなると接し方や向き合い方に悩んでしまうこともあるかもしれない。
だが、彼らはそうした変化を感じながらも、人間を愛し続ける。実際、クーさんも作者が帰宅すると途端に起きあがり、全身を使って「帰ってきて嬉しい」「好きだよ」という気持ちを伝えてくれるそう。
老いて体が思うように動かなくなっていっても人間を想い、愛を示してくれる動物たち……。そんな“我が家のアイドル”に私たち飼い主ができる恩返しは、ひとつの命を最期までどう愛し抜くか考えていくことだと思う。
愛しく思えば思うほど、愛犬や愛猫が年を重ねていくことが怖くなる。けれど、共に過ごせるこの瞬間に私たちが贈れる愛情表現はたくさんあるはず。いつか来るさようならを憂うよりも、愛犬や愛猫の心身に寄り添い、共に笑い合える「今」を大切にしていきたい。
そんなことを考えさせられる本作は愛犬家だけでなく、動物と暮らしている全ての人の心に響く作品。ぜひ手に取り、「今」の楽しみ方を見つけてみてほしい。
(文=古川諭香)