2021年03月28日 09:31 弁護士ドットコム
手軽な移動手段として欠かせない自転車。通勤・通学や買い物などで、駐輪場を利用する人は少なくありません。都内在住でIT企業に勤めるJ子さん(40代)もそんな一人です。
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J子さんは勤務先まで自転車で通っており、会社近くにある「有料」「無人」の駐輪場を頻繁に利用していますが、「自転車ラックにうまくハマらない」と悩んでいます。
その駐輪場は、自転車の前輪を自転車ラックの奥まで入れるとロックがかかり、ロックを解除するために規定の料金を払う仕組みになっています(2時間までは無料)。
「ロック部分が硬くて、私の力では自転車を押しても前輪がロックされるところまで入らないことがあるんです。仕事が終わるまで駐輪するので、2時間超えて利用しています。ちゃんと料金を払わなければいけないのですが…」(J子さん)
結局、ロックされないままの状態で2時間超えて利用してしまうことがあるようです。J子さんは「ちゃんと料金を払う気はあります。ロック部分が硬いラックがいけないんです」と語気を強めますが、料金を払わずに利用していることは気になっているようです。
駐輪場のロック部分に入らないからといって、そのまま利用してもいいのでしょうか。あるいは、J子さんが何か法的に責任を問われることはあるのでしょうか。清水俊弁護士に聞きました。
——駐輪場のロック部分にタイヤが入らないまま利用したら、やはりマズいですよね?
基本的には民事責任の問題が生じます。
無人駐輪場を利用する場合でも、民法上の「契約」は成立します。駐輪場側は、駐輪スペースを提供する義務を負い、利用者は、利用時間に応じた駐車料金を支払う義務を負います。
その際、利用者がロック部分に自転車を入れることが契約の条件、あるいは契約成立のための事実行為だと考えられます。
今回の場合、自転車をロック部分に入れられない以上、駐輪場の利用契約は成立しません。
にもかかわらず、駐輪スペースを無断利用してその利用料金の支払いを免れることは、民法上の不当利得あるいは不法行為に該当します。少なくとも、無断で利用した時間の駐輪料金相当額の支払い義務を負います。
——刑事責任についてはどうでしょうか。駐輪サービスという利益をごまかして奪っているようにも思うのですが…
窃盗罪は「有形のもの」(財物)を盗んだ場合に成立しますが、サービスのような「無形のもの」(利益)については、刑法上処罰する規定がありません。したがって、今回のように、お金を払わずに駐輪スペースを利用しても、窃盗罪は成立しません。
一方、詐欺罪はサービスなどの「無形のもの」(利益)をだまし取る行為についても成立しますが、「人をだます」行為が必要です。無人駐輪場では、基本的に係員をだます行為が伴わないため、詐欺罪は成立しません。
——ロック部分に入らないのをいいことに、繰り返し料金を払わず駐輪場を利用した場合はどうでしょうか。
先ほど述べたように、基本的には料金相当額の支払い義務を負うことになりますが、悪質な常習行為によって被った有形無形の損害についての賠償責任が発生することも考えられます。
また、故意による常習的な迷惑行為として、業務妨害罪など、刑事責任を追及するかどうか、ケースによっては検討の余地がありそうです。
——ロック部分に入らないなら、ほかの駐輪場を探したほうがよさそうですね。
本人の腕力あるいは自転車の構造上の問題で、タイヤをロック部分に入れられないということならば、その駐車場の利用はあきらめざるを得ないだろうと思います。
——タイヤがロック部分に入っていない自転車を駐輪場で見かけた場合、ほかの人が勝手に押し込んでロック部分に入れても問題ないのでしょうか。
不法な状態を是正する行為であるため、法的には問題ないと考えます。ただ、第三者の物を触ったり動かしたりすることで、新たなトラブルに巻き込まれる可能性がないとはいえない点は留意しておいたほうがよいでしょう。
【取材協力弁護士】
清水 俊(しみず・しゅん)弁護士
2010年12月に弁護士登録、以来、民事・家事・刑事・行政など幅広い分野で多くの事件を扱ってきました。「衣食住その基盤の労働を守る弁護士」を目指し、市民にとって身近な法曹であることを心がけています。個人の刑事専門ウェブサイトでも活動しています(https://www.shimizulaw-keijibengo.com/)。
事務所名:横浜合同法律事務所
事務所URL:http://www.yokogo.com/