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都のコロナ助成、交付決定後に「0円に変更」続発、企業に多額の損害「詐欺じゃないか!」

2021年03月27日 10:21  弁護士ドットコム

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都内の中小企業を対象とした、最大200万円のコロナ対策の助成金事業でトラブルがあいついでいる。


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助成金の対象になるという決定(交付決定)を受け、100万円以上する高額機器などを購入したのに、3月になって、助成金は出せないと「手のひら返し」を食らうケースがネットで次々に報告されているのだ。ツイッターには「被害者の会」なるアカウントも登場した。



助成金事業の主体は、東京都と東京都中小企業振興公社。「被害」にあった中小企業からは、「公の機関から『詐欺』のようなことをされるとは思わなかった」と怒りの声があがっている。(編集部・園田昌也)



●「100万円」の予定が、設備投資後「ゼロ円」に

就職活動の支援や海外研修などのサービスを提供する森山たつをさんは、2020年夏に募集された「非対面型サービス導入事業」の助成金を申請した。



200万円を上限として、オンライン配信やネットショップなど、非対面型サービスの導入費用のうち、3分の2を助成するというものだ。



森山さんの場合、コロナで対面での研修・講演が困難になったことから、配信機材などを買いそろえる必要があった。





見積もりの審査が通り、約110万円を交付するという決定が出たので、機材などに約160万円を投じたが、今年3月に「ゼロ円」の決定通知が届いた。50万円で済むと思っていたところ、160万円丸々を負担することになったわけだ。




「問い合わせても理由を答えてくれない。問題があるのなら、交付決定のところで却下すべきでしょう。



確かに決定通知書には、交付決定が出ても助成金を受け取れないことがあるとは書いてあった。でも、不正をしていなければ大丈夫だと思っていました。そのくらい信頼できないと、百万円単位の投資をさせちゃいけないでしょう」






●審査待つ間の「機会ロス」も

森山さんが怒る理由は、ほかにもある。交付決定の審査が遅延したことだ。




「当初は8月から出るとアナウンスされていました。でも、うちに決定が届いたのは10月28日。それなのに11月中に設置などをしないと助成金が出ないという。



うちは何とかなりましたが、業者にお金を払って、緊急対応してもらった企業があるかもしれない。それでゼロ円だったら、たまったもんじゃないですよね」







「機材は元々買うつもりでした。その意味では金銭的な損失は大きくありませんが、時間のロスは大きい。どうせゼロ円なら、もっと早く発注して事業を進められた。中小企業の足を引っ張っているとしか思えません」




公社に問い合わせをしているが、返答すると言われて数日たつのに未だに折り返しがないという。



●別企業「交付決定がなかったら買わなかった」

店舗向けのインフラ整備などをおこなう都内のある企業は、別の助成金を申請し、同じく一度は決定交付が出たのに、最終的にはゼロ円となった。



この企業が利用したのは、パーテーションや換気設備などの設置を対象とした「新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン等に基づく対策実行支援事業」。こちらも200万円を限度に、3分の2を助成するものだ。



昨年11月に交付決定が出たため、設置費用を含めて100万円以上する検温サーモカメラなどを導入したが、今年3月にゼロ円決定が出た。




「交付決定がおりたので、購入に踏み切りました。高いモデルなので、全額は出せないと言われれば、仕方がないと思える部分もありますが、さすがにゼロ円は死活問題です」







「交付決定が出たので、営業先にも同じ商品を勧めました。お客さまのほうは、そもそも交付決定が出なかったので、金銭的な損害はありませんでしたが、信用問題になりました」




ネットでは、同様の「被害」にあった人を複数見つけることができる。中には「被害者の会」なるアカウントを立ち上げた人も。すでに10件ほどの相談が来ているという。







●公社側も批判は把握 「対応を検討」

助成金の窓口になっている東京都中小企業振興公社によると、ゼロ円決定に批判が出ていることは把握しているという。現時点で正確な数字は出せないが、「100件や200件もあるというわけではない」と説明する。



助成ができない理由については、不正などを防ぐため現金での支払いを不可としているのに、現金で決済しているケースや、助成の対象としている時期に機器の設置などが間に合わなかったケースなどがあるという。



しかし、交付決定から実施までの期間がタイトになったのは、審査が遅れたからでもある。公社側の責任も少なからずあるのではないか。



この点については、「非対面」と「ガイドライン」の2種類合わせて1万件以上の申請を限られた人数で処理するという、コロナ禍特有の事情も影響していると釈明する。



実施期間が間に合わなかったものについては、ほかに利用できる助成金があれば、そちらを案内するのだという。



また、交付決定段階で、はねられなかったのかという問いに対しては、「審査は公正に行っていますが、少ない人数で、早く処理しなければならなかった。ミスがなかったのかと言われれば、完全には否定できません」とも打ち明ける。



たとえば、あるケースでは企業側が公社にかけあったところ、「同種の商品と比べて高額だから」と理由を説明されたという。しかし、金額の妥当性は本来、交付決定時に審査されているはずだ。購入後に言われても、企業は困ってしまう。この事例では、再審査されることが決まった。



公社側は「コロナ禍の特殊事情は考慮すべきと考えている。中小企業の負担は減らしたい」といい、事例によっては個別対応を検討するとしている。



なお、2回目の緊急事態宣言で予算がなくなったから審査を厳しくしているのではないかと尋ねたところ、「交付決定をした段階で、予算は確保できている。そこは関係ありません」と明確に否定した。