2021年03月27日 09:51 弁護士ドットコム
名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)に収容されていたスリランカ人の女性(30代)が3月6日に亡くなった問題で、女性が生前、著しい体調不良を訴えていたにもかかわらず、適切な医療を受けさせなかったとして、国会でも入管の対応が追及されている。入管での人権侵害に詳しい児玉晃一弁護士に聞いた。(ジャーナリスト・志葉玲)
【関連記事:パパ活をやめた女子大生「危険もなく、たくさん稼げるわけがない」心に残される深い傷】
亡くなった女性への面会を続けていた「START」(外国人労働者・難民と共に歩む会)によると、女性は来日後、日本語学校で勉強をしていたが、仕送りが途絶え、学費が払えなくなったことからビザが失効し、昨年8月に収容された。
だが、コロナ禍で帰国できず、収容が長引く中で、今年1月から体調が悪化。嘔吐や吐血を繰り返すようになり、体重は最終的に20キロも減少してしまった。
支援者は、女性を入院させて、点滴を打たせたりするよう繰り返し求めたが、入管側は今年2月5日に女性を病院で受診させたものの、入院は認めず、点滴もおこなわなかったという。
名古屋入管の対応は、素人目に見ても酷いものであるが、法務省の内規にも反している。
入管施設内や退去強制過程での死亡事件に関する訴訟や証拠保全で代理人をつとめた経験がある児玉弁護士は「大原則として被収容者の生命・健康に対する全責任は、拘束している側の入管にあります」と話す。
「収容されている方の処遇に関する被収容者処遇規則30条では"所長等は、被収容者がり病し、又は負傷したときは、医師の診療を受けさせ、病状により適当な措置を講じなければならない"と定めています」(児玉弁護士)
ところが、入管側が点滴を認めなかった。児玉弁護士は「被収容者は、移動の自由について一定の制限を受ける以上の制約を受ける謂れはまったくありません」「入管収容はあくまで強制送還の準備のために認められているものにすぎないのですから」と指摘する。
そもそも、入管側が仮放免(一定の条件の下で、収容施設外での生活を認めること)を許可していれば、女性は入院できたし、命を落とすこともなかっただろう。
実際、女性を支援していたSTARTは、入管側が適切な医療を受けさせないのであれば、仮放免するべきと求めていたし、仮放免の申請もしていた。しかし、入管側はこれを許可しようとしなかったのである。
入管の運用指針(2018年2月28日仮放免指示)では「刑事罰を受けたことがある」など、8類型に該当するケースについては「仮放免を許可すべきではない」(※)としているが、児玉弁護士は「現在わかっている情報から言えば、女性はこの8類型に該当していたわけではなさそうです」と言う。
「仮に該当していたとしても、"重度の傷病等、よほどの事情無い限り"との但し書きが入管の運用指針にも明記されています。つまり、仮放免を許可しうるわけです。
しかし、仮放免するか否かは、入管の胸先三寸で決められ、収容の継続の是非について司法など第三者の判断が介在することはありません。このことは、国連の恣意的拘禁作業部会からも国際人権規約に反すると指摘されています」(同)
名古屋入管での女性死亡について、上川陽子法務大臣は、入管による内部調査を指示している。だが、児玉弁護士は「入管内部の調査に任せては駄目です」と強調する。
「2010年に強制送還のため飛行機に乗せられて制圧され、亡くなったガーナ人男性の事件における入管当局の内部報告書では『送還便搭乗直前から激しく抵抗し、搭乗後も抵抗したことから護送官が制圧した』とされています。しかし、訴訟で開示されたビデオを見たところ、男性がまったく抵抗していないことが誰の目にも明らかになりました」(同)
「2014年3月30日に、胸などの身体の痛みを訴えていたカメルーン人男性が収容施設内で死亡した事件での入管内部報告書では『前日(3月29日)夕食を摂取し、異変に気づく直前(3月30日午前5時58分)には体動があり、呼吸をしていたことが確認されていることから、急死事案である』とあります。
ところが、午前5時58分に顔を動かす場面が出ていたとされているビデオは、誤操作で消去されたと入管が述べています。そして、この報告書では、後に私たちが提出させたビデオで、男性が『I'm dying(死にそうだ)!!!!』と叫び続けている場面について何ら言及がありません」(同)。
つまり、入管の内部調査は都合の悪い部分が隠蔽され、捏造すらおこなわれてきた、ということだ。同じことは、名古屋の調査でも起こりうる。国会では3月12日の参院予算委員会で、石川大我参議院議員が独立した調査を求めた。これまでのような入管や法務省を擁護するための調査であっては、再発を防げない。
法務省は今国会で入管法の「改正」を目指している。長期収容への批判から「監理措置」として、入管側のコントロールの下で、収容施設の外での生活を認める制度を新設するとしている。
一見、長期収容の解消につながるように見えるが、児玉弁護士は「収容するか否かが、入管の胸先三寸だけで決められることには変わりありません。今回のスリランカ人女性が入管内部の基準に照らしても仮放免されるべきなのにされなかったことからも裏付けられます」と指摘する。
入管法「改正」以前に、まずは女性死亡の独立した調査がおこなわれるべきだし、内部基準すら守れない入管に収容の適否判断を委ねること自体が見直されるべきだといえるだろう。
(※)そもそも、過去に刑事罰を受けたことがある等で仮放免を許可しないこと自体が、まだ犯罪を犯していないのに予防の目的で身体の自由を奪う「予防拘禁」的なものであり、入管の運用は治安維持法のそれより酷いと児玉弁護士は指摘している。https://ameblo.jp/yoyogiuehara-milestone/entry-12532667084.html