2021年03月27日 09:41 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの感染拡大により、障害者の解雇が増加した。
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厚労省が示した集計結果によれば、2020年の4~9月、解雇件数は前年比で約40%増となった。しかし、実際のところ、障害者の解雇は「民間企業」以外のところで起きているという。
企業と障害者を仲立ちする人材紹介エージェントが、「コロナと障害者雇用」の動向を解説する。
厚労省は、ハローワーク業務統計から、2020年4月~9月の障害者の解雇者数について、約1200人(前年同期比40%増)とした。コロナによって一時的に増加したが、落ち着きの兆しがみられるとしている。
また、雇用されている障害者の数(2020年6月1日時点)が、57万8292人(対前年比3.2%増)で過去最高を更新とも発表した(今年1月15日)。
障害者専門の転職・求人サービス「dodaチャレンジ」を手がけるパーソルチャレンジ社に現場の実感を取材した。
「dodaチャレンジ」を利用する取引企業は約2500~3000社で業界を問わない。登録者は年間で約1万人だという。登録者の分類は、約7割が精神障害者で、約3割が身体障害者。知的障害者は全体の3%程度である。
コロナの前後にかかわらず、デスクワーク(事務職)の採用が7~8割を占め、ほかに、販売・接客・SEなどがあるという。
パーソルグループの特例子会社でもある同社では、841人の社員のうち、障害者手帳を保有する障害者が459人在籍(身体93人、精神328人、知的38人、2020年10月現在)。障害者雇用の当事者として、ノウハウを、採用企業、はたらく障害者の双方に還元している。
dodaチャレンジが扱う求人の数は、緊急事態宣言が出された昨年4月には前年比で半減し、7月には8割程度まで戻した。現在やや回復傾向にあるという。
企業が採用活動を中断した当初、オンライン対応が追いつかず、面接を保留するケースもあった。これは4~5月に目立ったという。
聴覚障害者を採用していた企業が、社内でコミュニケーションを取れないと判断し、採用を止めているケースもある。
就職(成立)件数に関しては、4~6月ころに落ち込み、9~10月に前年超えまで復調したが、コロナの状況を受けて、今年1月にまた低下した。
求人数と就職件数の動向は、ハローワークが集計するデータとほぼ変わらないようだ。
大濱徹さん(経営企画部ゼネラルマネジャー)によると、コロナは障害者の就労状況に影響したが、一時的な冷え込みであって、長期的には、企業の採用計画に大きな方針転換はないとする。
「2001年の9.11も、2008年のリーマンショックも、障害者の雇用は増え続けました。経済状況と関係なく企業努力で上がってきたのです。
ただし、障害者の解雇数は経済と連動し、9.11のときもリーマンショックのときも増加しました」
先に紹介したハローワークの集計では、コロナ禍における解雇数は前年よりも大幅に増えた。しかし、いわゆる「民間企業」における解雇は少数だと、大濱さんは指摘する。
「コロナで障害者の解雇数が増えたと言われておりますが、企業内の雇用による解雇は少数と考えられます。企業自身は障害者を解雇すると、雇用し続けるよりも、社会的にも経済的にもデメリットがものすごく大きい。相当な損失が出ます。
発表されている解雇の多くは、一般企業への就労を目指し、雇用契約を結んだ障害者が働く就労継続支援A型事業所の事業停止によって解雇されたというケースです」
東京商工リサーチによれば、2020年の障害福祉サービス事業所の、「休廃業・解散」が過去最高の107件、「倒産」は20件だった。「新型コロナ支援を受けながらも事業継続が難しい事業者が、体力のあるうちに事業停止を選択するケースが増えたようだ」と報告している(3月4日付け)。
「A型事業所自体は、コロナの支援金で倒産はまぬがれているが、実質的には開店休業状態となり、解雇が出ているという実態が垣間見える。この状況は、しばらく高水準で続くと思います。
ただ、民間企業での解雇は、これからもそれほど出ないでしょう。今回コロナで打撃を受けている小売業、宿泊サービスは、中小企業の比率が高い業種のため、もともと障害者雇用数が高くないため、解雇数は多くありません」
企業の解雇数はおさえられるとの見込みが示された。では、採用の動きはどうか。
今年3月1日から、障害者の法定雇用率が0.1%引き上げられ、企業では2.3%になった。
2020年の法定雇用率(2.2%)達成企業の割合は48.6%で、過去最高を更新している(今年1月発表の数値)。
法人企業採用支援担当の岩月彰汰さん(人材紹介事業部 リクルーティングアドバイザー)は、3月引き上げの影響は、現状ではあまり感じないと話す。
「法定雇用率への意識が強い大企業に、達成しないという選択肢はなく、引き続き、雇用率達成に向けた採用活動を進めています。
一方で、一部の大企業や中小企業からは、引き上げを機に障害者雇用を始めようとか、法定雇用率を達成しようという動きはあまり感じられません」
この二極化は、今後も進むという。
遅れを取る中小企業に向けて、厚労省が2つの政策を実施している。(1)障害者雇用の優良企業認定制度「もにす」。(2)障害者雇用ゼロ企業等を対象として「企業向けチーム支援」の創設と実行。
そして、今後検討が予想されるのが、雇用率未達成の企業が納付金を収める「雇用納付金制度」の改正(対象の社員数100人を引き下げる検討中)だ。
また、2023年4月は従来からの5年に一度の雇用率引き上げ時期で、2.5%以上となる見込みだ。
このような背景から、障害者雇用に取り組む企業の採用意欲は、コロナの落ち着きをまって回復してくると想定される。
「コロナウイルスは企業の障害者雇用への向き合い方をあぶりだしたと思っています。
障害者雇用に明確な目的をもっていた企業は、既存社員の再教育、再投資、職種転換をはかろうとしています。
障害者雇用に明確な目的を持たず、雇用率達成のためだけに雇用していた企業の中には、障害者のはたらく意欲や職務能力に即した雇用対策をせず、『雇用しているだけ』の状態になっているケースも散見されました。それがコロナで通用しなくなったのです。
コロナでもたらされた働き方の変化は不可逆的です。根本的な障害者雇用のありかたの組み直しを迫られています」(大濱さん)
障害者雇用に取り組む企業姿勢の「二極化」の背景にフォーカスすれば、まず、雇用率を達成しなければならないと考える理由は、大企業としての影響力を鑑み、社会的責任を果たすためだ。
未達成の理由は様々である。
「雇用できる体制がととのっていない」 「雇用しないといけないとはわかっているが、ノウハウがない」 「会社にマッチする人材が市場になかなかいない」
雇用の体制については、ハード面よりも、ソフト面で準備不足が課題だ。
「障害への理解やコミュニケーションの部分など、ソフト面に関しての配慮が社内で進まず、雇用が難しいという声が企業には多い」(岩月さん)
解雇されずとも、働く障害者にコロナの影響はある。むしろ、そちらのほうが問題かもしれない。
コロナ禍でもっとも影響を受けたのが、知的障害者だ。
「知的障害者は、出勤を必要とする仕事についていることが多く、軽作業、清掃、工場ラインなど、働く場がなくなりました。
給料は出ていても、最大5カ月の自宅待機というケースもありました」(大濱さん)
障害者雇用の歴史において、身体障害者の採用がはじめに進んだ。結果として今では、企業が求めても、採用市場に身体障害者がなかなか出てこない傾向がある。身体障害は後天的であることが多いため、若年層は特に少ない。
かわって、精神障害の人材が市場に増加している。雇用率達成のため、企業側の課題となっているのが、精神・発達障害の受け入れだ。だが、採用に不安を感じている企業も少なくないのが実情だ。
岩月さんが解説する。
「精神障害者の採用活動において、企業側がよく目にする代表的な病気がうつ病、双極性障害、統合失調症などです。また、発達障害があるかたも多くなってきています。
率直に申し上げて、企業側が第一に心配するのは体調面です。体調が安定していて、会社で活躍できる準備がととのっているのか。
もう一つ、コミュニケーション面も心配しています。
たとえば、発達障害があるかたの中には、臨機応変な対応や、対人コミュニケーションそのものが得意でないかたもいるため、社内でしっかり協調性を発揮して、円滑にコミュニケーションをとりながら仕事できるのか不安視されることもあります。
精神障害者を新たに雇用する企業だけではありません。過去にうつや精神疾患を持つかたが社内にいたり、または採用したりしたときに、体調不安やコミュニケーションで苦労されたケースがあり、それで再度の採用をためらうという事情もよく聞きます」
この課題に関して、障害者専門のエージェントでも、即効性のある解決策はない。
「本当に難しい問題です。とはいえ、精神の手帳を持っていても、すぐに活躍できるかたはたくさんいます。ご病気で仕事を辞めたかたのなかには、すでに高い業務スキルのあるかたもいます。精神障害者の雇用に不安を抱える企業の考えを変えることは難しいです。
しかし、我々は、仕事をしたいかたの良いところや、はたらいて活躍できる準備(安定就労要素)が整っているかどうか、そのために必要な配慮を、企業に伝えることに努めています」
このインタビューはZoomでおこなった。コロナ禍で、障害者にとって、よかったことがあるとすれば、求人に「完全在宅勤務」が増えたことだという。
「昨年度は、年間で1~数件でしたが、今年度は10件以上、完全在宅勤務の求人が出てきました。遠方に居住しているかたや、体の都合で出勤できないかたが、企業に雇用されるケースが増えていくのは、コロナの良い影響かと思います」
大濱さんは、企業がコストを払って雇用活動するなら、採用した障害者をきちんと活躍させてほしいと話す。
「障害者雇用は、政策的には、共生社会の実現などの理念や、減少する労働人口を補う狙いがあります。
しかし、企業側の立場における雇用の原則とは、シニア雇用であれ、障害者雇用であれ、雇うことで、かけた雇用コスト以上の元をとれるのかという原理原則で考えるべきです。
この当たり前の原理原則を忘れない会社は、雇った障害者を活躍させることに力点を置いています。採った人材に投資し、育成し、それ以上の対価をとっているのです。
それが、きちんとやるということです。雇ってから障害者に投資せず、助成金などの支援を受け取るだけで、何もさせないことが、もっともコストがかからないと考える企業もあります」
企業研修で講師をつとめる大濱さんは、障害者雇用に取り組もうとする企業に、このメッセージを忘れずに伝えている。
「障害者が活躍している職場では、障害のあるなしに関わらず、様々な属性のかたが活躍している。確信をもって断言できる」