7年ぶり日本人F1ドライバー誕生に、ファンは心踊らせていることだろう。しかし、所属するチームが戦えるクルマや環境を与えてくれないようでは、そのワクワクも半減する。残念なことだがわれわれは、どんなに手を尽くしても上に行けないクルマに苦悶する日本人の姿を、過去に何度となく見てきた。
角田裕毅はルーキーシーズンにしてその戦えるクルマや環境を、アルファタウリ・ホンダでどうやら手にできたようだ。アルファタウリというよりもレッドブルの決定なのだろうが、ジュニアドライバー角田の2021年F1昇格を決めると、旧車による実走機会を複数回、提供した。それにより角田は実際のテストが始まる以前に、F1ドライブというものになじむことが可能となった。これなら、角田は本来のテスト初日から自分の能力を存分に発揮することができる。エンジニアとのやり取りも、ここで学んだはずだ。環境は整えられた。
そしてアルファタウリは2021年型のAT02をデザインする際、レッドブルからの供給パーツをじっくりと見極める。たとえば規定上では、ギヤボックスとリヤサスペンションはアッセンブリーとして、レッドブル前年型からのそのまま流用も可能となる。
ただ、レッドブル前年型はリヤの挙動がピーキーだったことで知られる。安易な移植は、同じ症状を受け継いでしまうことにもなりかねない。受け入れが可能なパーツのなかで、どんな組み合わせがベストなのか。そこを吟味しながら、AT02のリヤ周りは仕上げられた。
これは角田のためというより、ピエール・ガスリーのスタイルに合わせるためだ。ガスリーにはレッドブルのクルマが合わず、旧トロロッソに戻ってきてドライビングの輝きを取り戻した経緯がある。角田がこれまで経験したジュニアフォーミュラには極端な挙動を示す特性などなかったはずで、結果このガスリー向けなら違和感のないドライブが可能だ。
あとは今季使える開発2トークンをノーズのナロー化を始めとするフロントエンドに集中させて、アルファタウリはAT02に磨きをかける。戦えるクルマが用意された。
それらすべての結集こそが、テスト最終日にマークされた角田による期間中の全体2番手タイムだ。全世界に衝撃を与えた。
タイヤがもっとも軟らかいC5タイヤで首位マックス・フェルスタッペンより1段柔らかいタイヤとはいえ、今季最速の呼び声高いレッドブルにわずか1000分の93秒差まで迫ってみせた。
この角田のタイムについて、グランプリ期間中とは異なり区間制限のないDRSをアグレッシブに開いたからだとの指摘も上がる。それが何だというのだ? いったんコースに出れば、あらゆる手段を使ってでも少しでもタイムを削ってくる。それがプロドライバーというものだ。
実際チームメンバーは喜んでいたし、速さを見せつけることで周りの評価や信頼も高まっていく。このドライバーなら、と。
その角田の衝撃タイムに限らず、テスト3日間を通じてAT02のペースは全般的に好調だった。ガスリーは「大きな前進が感じられた」と、ホンダの新パワーユニット(PU/エンジン)についても高評価を口にしている。トラブルは初日角田に燃料システムの問題が出た程度で信頼性も高く、3日間で計422周、2283km超をAT02は走破した。
「開幕が楽しみです」と、テストを終えて角田が言う。まったく同感だ。世界中のファンがいま、その日を待つ。