2021年03月22日 10:41 弁護士ドットコム
親からの仕送りで都内でひとり暮らしをする大学生のM君にとって、経済的なやりくりは死活問題。1本のペットボトルを買うのも躊躇する毎日だ。そんなM君のとっておきの節約方法は「無料Wi-Fiのタダ乗り」だという。
【関連記事:夫婦ゲンカ「仲直りご飯」を作ろうとしたら、夫がすでに「離婚届」を出していた…】
たとえば、マクドナルドやスターバックス。店の近くまで行けば、外からでも店内のWi-Fiに無料でつなぐことができるというのだ。
M君は「時間制限があるので、何時間もいられませんが、YouTubeなどで動画を見たり、LINEで通話することができます。通信量がかかりそうな時は電車を途中下車してでも、無料Wi-Fiのタダ乗りができる場所を探しています」と話す。
しかし、本来、無料Wi-Fiは利用客に向けたサービスのはずだ。M君の行為に法的な問題はないのだろうか。店側はM君にどう対応できるのか。吉田要介弁護士に聞いた。
——飲食店などが整備している無料Wi-Fiに「タダ乗り」することで、何かしらの罪に問われるのでしょうか。
大量の通信をおこなったことで、飲食店などが整備している無料Wi-Fiに影響をおよぼすような事態(通信制限など)が生じれば、偽計業務妨害罪(刑法233条)が成立する可能性があります。
また、タダ乗りしている場所が店の敷地内であれば、建造物侵入罪(刑法130条)が成立する可能性がありますし、店の敷地内でタダ乗りしている人が、店側から退去を求められたのに応じない場合は、建造物不退去罪(同130条)が成立する可能性があります。
——タダ乗りすることで、民事責任を問われることはありますか。
飲食店などが整備している無料Wi-Fiに影響をおよぼすような事態(通信制限など)が生じれば、損害賠償責任を問われる可能性があります。
また、店側は通常、店舗利用することを前提に無料Wi-Fiを提供しているでしょうから、通信制限などの事態が生じていなくても、無料Wi-Fiの提供について利用規約などに明記しておけば、タダ乗りした人の店舗の利用を拒否することは可能だと思われます。
——店側が利用客でない者のタダ乗りに気づいた場合、止めさせる方法はありますか。
タダ乗りの場所が店の敷地内であれば、敷地内から退去しないことは建造物不退去罪が成立する可能性があるので、店の敷地内から退去を求めることで止めさせることができます。
店の敷地外の場合でも、利用客でない者のタダ乗りによって、利用客の通信速度が低下する可能性もありますので、店側はタダ乗りを止めるように要求することは可能だと思います。ただし、強制力はありません。
——強制力がないとすると、タダ乗りをあらかじめ阻止する方法を検討したほうがよいのでしょうか。
たとえば、無料Wi-Fi利用のためのIDやパスワードを頻繁に変更し、利用客に対し、その都度知らせる方法をとれば、利用客以外の利用をかなり制限できると思います。
一方で、そのような対策は、利用客に毎回新たにIDやパスワードの入力を求めるということでもあります。
利用客でない者のタダ乗りをあらかじめ阻止する方法を実効的なものにすればするほど、利用客が無料Wi-Fiを利用するためのハードルをあげてしまうものが多いと思います。
利用客に対するサービスの利便性を損なえば、店から利用客の足が遠のく可能性もないとはいえません。無料Wi-Fiにタダ乗りしている人は、店に迷惑をかけていると自覚すべきでしょう。
【取材協力弁護士】
吉田 要介(よしだ・ようすけ)弁護士
千葉県弁護士会所属。日弁連子どもの権利委員会事務局次長、千葉県弁護士会刑事弁護センター委員。法律を「知らないこと」で不利益を被る人を少しでも減らすべく、刑事事件、少年事件、家事事件、一般民事事件等幅広く手がけ、活動している。
事務所名:ときわ綜合法律事務所
事務所URL:http://www.tokiwa-lawoffice.com