2021年03月21日 09:51 弁護士ドットコム
希少な日本酒の高額転売が後を絶たない。蔵元が酒を卸す特約店を狙って、転売ヤーが大量に買い占め、ネット上などで売る。フリマアプリでは希望小売価格の6倍近くの高値で出品される酒もある。蔵元は追跡番号をつけるなど対策をとるが、転売ヤーも悪質な手口で応戦する。転売された酒は、保存状態が悪く味が落ちているものも多い。蔵元に問題点を聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
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3月上旬、新政酒造(秋田県)が発売した「No.6(ナンバーシックス)」の限定酒が話題になった。No.6は、入手が難しい酒として知られる。1930年に自社の蔵で採取された「6号酵母」を使い、昔ながらの「きもと純米造り」で醸造する生酒だ。
そのNo.6の発売10周年を記念して販売されたのが、イラストレーター兼デザイナーのダイスケリチャード氏とコラボした限定酒である。ダイスケリチャード氏は、芥川賞を受賞した宇佐見りん氏の小説「推し、燃ゆ」の表紙も描く、人気クリエーターだ。
小売価格は四合瓶(720ml)で4800円(税込み)。ところが、メルカリではこの「限定No.6」が3万円と約6倍近い価格で出品されていた。中身がない空き瓶まで4000円で売られている。SNS上では、限定販売の抽選から外れたとみられる人たちから、「メルカリでしっかり転売されていて腹立つ」「えげつない値段」など失望の声が上がった。
新政酒造の酒だけではない。「十四代」(高木酒造、山形県)や「而今(じこん)」(木屋正酒造、三重県)、「飛露喜」(廣木酒造、福島県)などもネット上で高額転売されている。いずれも需要に対して生産量が少なく入手が難しい酒ばかりだ。
高額転売について蔵元はどう見ているのか。海外でも人気の「獺祭」を製造する旭酒造(山口県岩国市)の桜井一宏社長が転売の問題点について説明してくれた。
桜井社長は「一番の問題は、保存状態が悪く味が落ち、お客さんにまともな味の日本酒が届かない点」と話す。実際、同社の特約店ではないスーパーで買ったという消費者から「味がおかしい」と苦情が入ったこともある。
桜井社長は連絡をくれた消費者に獺祭を送ってもらい、味を確認している。「味が落ちた酒を『老(ひ)ねる』と言うが、冷蔵保存されず、長い間、日光にあたっていたと思われる味がする。お客さんにおいしい酒を飲んでもらおうと作っているのになぜこんなことになるのか」と残念がる。
旭酒造は2017年、『お願いです。高く買わないでください』と転売を注意喚起する新聞広告を出した。当時は税込み2418円の「純米大吟醸 獺祭 磨き三割九分」が1万円以上で販売されていた。ちなみに「磨き」というのはコメの表面を削り、酒の雑味を取り除くこと。三割九分というのは精米歩合を指す。今は生産体制を増強し、当時のような高額転売は減った。「それでも季節限定品などは1.5倍から2倍ほどの価格で売られている」(桜井社長)。
では、転売業者はどのような手口で酒を買い占めるのか。旭酒造が正規に酒を販売する地酒専門店など「特約店」は約700ある。転売ヤーはその特約店を回り、実在する飲食店や、企業を装い大量の酒を注文するという。
「申告があった飲食店を調べると数席しかないのに、一升瓶を数十本注文するなど、明らかに不自然な買い方がある。会社の周年行事があるからという注文では、送り先がなぜか倉庫ということもあった」(桜井社長)。転売業者たちは1つの特約店で断られても5件、10件回り酒を買うという。
旭酒造は2020年4月から、どの特約店に卸したかが分かるよう一部商品のラベルにシリアルナンバーをつけている。だが、20年5月、ナンバーが削り取られた酒が見つかった。入手経路を隠すため、転売業者が削って小売店に売ったとみられる。
桜井社長は「転売問題について話すと、『だったら特約店を多くすればいい』という指摘もある。ただ、品質やブランドを守りながらなので、少しずつ増やすという形になる。理解してほしい」と語る。
転売の問題を指摘する一方、桜井社長は「近くに取扱い店舗がない地域の人が、転売によって商品を購入できるということも理解できる。また、プラットフォーマーは、個別に出品された酒を逐一チェックすることが難しいことも分かる。せめて冷蔵での保存を徹底してもらいたい」と話す。
日本酒の出品についてメルカリに見解を聞いた。同社からは「現時点で、日本酒については禁止出品物ではないが、利用規約やガイドライン違反が確認された場合は、出品の削除や出品者への警告など対応している」という回答があった。メルカリは2020年2月から、安全性の担保が困難として要冷蔵食品の出品を禁止している。
「出品物に関しては多様な価値観による、さまざまな意見があるものと認識している。今後も法令やユーザー保護の観点からガイドラインの改定、アップデートは随時行う」という。
転売自体は違法行為ではない。ただし、酒税法上は有償、無償に関わらず継続、反復して酒を売る場合には酒類販売業免許が必要になる。インターネット上でも実店舗でも酒の販売を「生業」とする場合は、店舗が所在する地域を管轄する税務署に販売業免許の許可申請を出さなければならない。
一方で、家で飲むつもりで買ったが余ったり、お土産でもらったが飲まなかったりした酒をネット上で販売する場合は酒類販売業免許は必要ない。酒を売ることを「生業」としていないからだ。
国税庁によると、最近はインターネット上で無免許で不正に酒を転売するビジネスが増えているという。酒税法に違反した場合は、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科される。
酒の無免許販売は論外だが、販売免許を持って「生業」としながらも、ずさんな管理をしてスーパーやドラッグストアなどに転売する業者もいる。
転売で味が落ちた酒が流通することによって、蔵元はブランドが傷つく。おいしい酒を楽しみたい消費者にとっては入手が難しくなる。酒への愛情を感じられない転売は、蔵元にも消費者にも迷惑な行為と言えるだろう。