2021年03月18日 20:11 弁護士ドットコム
ヤマハ音楽振興会などの音楽教室が、JASRAC(日本音楽著作権協会)に対して、音楽教室での演奏については著作権使用料を徴収する権利がないことの確認をもとめていた裁判の控訴審判決が3月18日、知財高裁であった。
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知財高裁の菅野雅之裁判長は、音楽教室側の請求を棄却した1審判決を一部変更。レッスン中の教師の演奏には使用料を徴収する権利があるが、生徒の演奏には使用料は発生しないという判決を言い渡した。
この日の判決を受けて、JASRACは18日夕方、都内で記者会見を開いて、「この結果を承服することができないため、判決文を精査したうえで、上告を含めしかるべき対応を検討する」と発表した。注目の裁判は、最高裁で争われる可能性が出てきた。
そもそもどのような内容なのか、簡単に振り返っておく。
そもそも著作権法には、「演奏権」という権利がある。著作者が専有しているものだ。では、音楽教室で、教師や生徒が演奏することに演奏権が及ぶのか。もし、演奏権が及ぶということになると、JASRACに著作権使用料を徴収する権利があることになる。
そのため、裁判では、音楽教室での演奏は、(1)利用主体はだれなのか(教師または生徒か、それとも音楽教室事業者か)、(2)「公衆」に「聞かせることを目的」とした演奏にあたるのかーーが主な争点になった。
1審・東京地裁は、(1)について、教師や生徒のいずれについても、利用主体は「音楽教室事業者」であるとしたうえで、(2)「公衆」である教室にいる生徒に「聞かせることを目的」として演奏されるなどとして、音楽教室側の請求を棄却していた。
JASRACの主張が、ほぼ全面的に支持されたかたちだった。
ところが、知財高裁は、演奏の利用主体について、教師と生徒で別の考え方を示した。
まず、教師による演奏の主体は「音楽教室事業者」で、契約を結べば、だれでもレッスンを受講できることなどから、生徒はその人数にかかわりなく、いずれも「不特定」にあたり「公衆」となると判断した。
レッスンは、教師または再生音源による演奏で、生徒に課題曲を聞かせて、演奏技術の教授をおこなうものだから、「公衆」である生徒に「聞かせることを目的」としておこなわれていると判断した。
一方、生徒は、演奏技術の教授を受けるためレッスンに参加しており、その演奏はもっぱら「自分の演奏技術の向上を目的として自分のためにおこなうもの」であるから、生徒の演奏の主体については生徒であるとして、音楽教室事業者に使用料は発生しないと変更した。
この日の記者会見で、JASRACの代理人をつとめる田中豊弁護士は、知財高裁の判決を次のように批判した。
「全体の判断枠組みとしては、これまでの最高裁判決や下級審の判決で積み重ねられたもの(規範的利用主体論)を踏襲したもので、適切な判断枠組みだと考えている。ただ、中身に入ってみると、今回の判決はいろいろな問題があると法律家の目からは見えている。
音楽教室事業の過程で使われている音楽著作物の利用のされ方、生徒による演奏のされ方など、実態的な利用の現状が、必ずしも正確に反映されていなかったので、音楽教室事業者を利用主体とみることができるのかという点の分析が甘くなっている」
一方、音楽教室側もこの日の夜、ウェブサイト上で声明を発表した。今後の方針については、3月19日に臨時総会を開催して、意見を集約したうえで近々、記者会見を開く予定だ。
「われわれが訴訟を提起した出発点は『音楽を学ぼうとする生徒が楽器を弾けるようになるために行う毎回の練習や、生徒の上達をサポートするために教師がお手本を示すことについてまで著作物使用料が発生するというのは、理にかなったことではなく、社会一般の感覚とあまりにかけ離れているのではないか』との疑問です。
真に音楽文化の発展を考えるのであれば、民間の音楽教室における音楽教育の重要性について十分な配慮がなされなければなりません。それが音楽の裾野を広げ、楽曲の利用を拡大することとなり、ひいては権利者のみなさまの利益にかなうこととなるはずです」