2021年03月18日 10:21 弁護士ドットコム
妻と不倫した女性に対して、夫が損害賠償を請求できるかどうかが争われた裁判で、東京地裁はこのほど、同性同士の性的行為でも「不貞行為」にあたるとして、女性に慰謝料など11万円の支払いを命じた。
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報道によると、夫は2019年、妻と性的な行為におよんだ女性を提訴した。これに対して、女性側は「不貞行為は異性との行為を意味する」などと主張していたという。
産経新聞(3月16日)によると、東京地裁は2月16日、男女間の行為に限らず、「婚姻生活の平和を害するような性的行為」も不貞行為にあたると指摘。同性同士の性的行為で、「既存の夫婦生活が離婚の危機にさらされたり形骸化したりする事態も想定される」として、妻と女性の行為が不貞行為に当たると認定したという。
同性同士の不倫を不貞行為と認めた判断はめずらしいと報じられているが、一方で、男女問題を扱う弁護士から「めずらしくないのでは?」「当然の結論」という声もあがっている。今回の判決をどうとらえればよいのだろうか。男女問題にくわしい理崎智英弁護士に聞いた。
——同性同士の不倫を「不貞行為」と認めた司法判断はめずらしいと報じられています。
同性同士の性的行為を不貞行為だとして、慰謝料の支払義務を認めた裁判例としては、東京地裁判決(平成16年4月7日)があります。
この裁判例では、民法770条1項1号にいう「不貞」とは、性別の異なる相手方と性的関係を持つことだけではなく、性別の同じ相手方と性的関係を持つことも含まれるとしたうえで、妻が3人の女性と性的関係をもったことを「不貞」に該当するとして、妻は夫に対して損害賠償を支払う義務があると判示しました。
また、女性同士のカップルの一方が、ほかの男性と性的行為をしたことにより破局したとして慰謝料を請求した事案において、東京高裁(令和2年3月4日)は、異性カップルと同じように、同性カップルも「婚姻に準ずる関係として保護されるべきだ」としたうえで、女性同士のカップルの一方が不貞行為をしたことについても損害賠償責任があると判示しました。
私の知る限り、同性同士の不貞行為で慰謝料の支払い義務が認められた裁判例は、この2つの裁判例だけですので、今回、同性同士の不貞行為について慰謝料の支払い義務を認めた東京地裁の司法判断はめずらしいといえるでしょう。
——めずらしいということは、長らく、不貞には「性別の同じ相手方と性的関係を持つこと」が含まれないと考えられてきたということでしょうか。
これまで「不貞」とは、配偶者以外の異性と性的行為をすることを指すとされ、同性同士の性的行為は不貞とはいえないとされてきました(名古屋地裁・昭和47年2月29日判決)。
ただ、同性同士の性的行為により、夫婦の婚姻関係が破たんした場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当するものとして、離婚事由になるとともに、慰謝料の支払い義務が認められる場合があると考えられてきました。
現在は、同性カップルが社会的に認知されてきた半面、同性同士の性的行為であっても、異性間の性的行為と同様に「不貞」に該当すると考える見解が有力だと思います。
——東京地裁・平成16年4月7日判決があった当時はどうだったのでしょうか。
当時は、同性カップルの存在が世間的には今ほど認知されておらず、また、同性カップルに対する世間的な理解もそこまで深くはなかったと思います。
そのような中で、同性カップル同士の性的行為も不貞に該当すると判断したのは、当時の感覚からすると異例だったといえると思います。
現在では、同性カップルの存在が世間的にかなり認知され、理解も深まってきていますので、今後は、同性同士の性的行為であっても不貞に該当すると判断する裁判例は増えてくるものと思われます。
——今回の判決の意義や今後への影響はどうでしょうか。
今後は、同性同士の性的行為であっても「不貞」に該当すると判断する裁判例は増えてくると思います。
ただし、同性同士の性的行為が「不貞」に該当するか、該当しないかにかかわらず、同性同士の性的行為によって夫婦関係が破たんした場合には、性的行為をした当事者はその責任をとるべきであり、慰謝料の支払い義務を負うべきだと考えます。
同性同士の性的行為が「不貞」に該当するか否かという文言の解釈だけにとらわれすぎないほうが良いとは思います。
——今回の判決で認められた慰謝料は「11万円」と報じられています。
異性同士の不貞行為の慰謝料の相場よりも大幅に低い金額といえます。慰謝料が低額な理由がどのような事情によるのかは、判決文を見てみないとわかりません。
ただ、異性同士の不貞行為でこのような低額の慰謝料になることはないので、同性同士の性的行為だから異性間の性的行為があった場合よりも慰謝料が低くなったのではないかという可能性も否定できません。
東京地裁がどのような事実認定で、慰謝料11万円としたのかが気になるところです。
【取材協力弁護士】
理崎 智英(りざき・ともひで)弁護士
一橋大学法学部卒。平成22年弁護士登録。東京弁護士会所属。弁護士登録時から離婚・男女問題の案件を数多く手掛ける。
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com